旧交の日
聖堂の隠し階段を下り、薄暗い通路をヒルデと2人で進んだ。
ヒルデの神器【泡沫の蝶】の探索能力は非常に高く、道中、巧妙に隠されていた隠し通路を見つけた。
「ん?」
通路の先に明かりが灯っているのを見つけた私とヒルデは、暗がりに身を隠し、そっとその広間を覗き込んだ。
その広間は、上の聖堂と同じくらいの広さで、石壁が剥き出しだった聖堂とは打って変わって高級感の有る装飾が施され、まるで大都市の神殿の様だ。
そこに居るのは数人の聖職者と身なりの良い男が1人。
「あいつ!」
「知ってるの、エリーさん?」
「ええ、イブリス教の巡回神官のドンドル大司教よ。
中央大陸におけるイブリス教の総責任者。
その癖、悪い噂が絶えない生臭坊主よ。
王国でも会う度に私にいやらしい視線を向けて来たわ」
「聖職者よね?」
「まぁ、こんな所に居るんだから噂通りのクズだったって事でしょう。
それに一緒に居る身なりの良い男、ハルドリア王国の貴族ね。
パーティで見た事が有るわ。
確か……コロンゾン伯爵、王太子を支持して甘い汁を吸っている悪徳貴族だわ」
「王国の貴族?
そんな知らせは受けて無いわ」
「つまり、コロンゾン伯爵はわざわざ極秘裏に関係の良くない隣国にやって来たって事になるわね。
そして、その理由がこの場に有る訳ね」
コロンゾン伯爵が右足の裾を捲り上げると、ドンドルは別の聖職者が持って来た水晶玉を手に祭壇に立った。
「何、あの水晶玉?」
「分からないわ。
でも、状況から考えるとあの足を治療しようとしているみたいよ」
「でもあの足、相当酷い怪我よ。
あれを治療するとなると【上級治癒】、それも大司教クラスの使い手でどうにかって程の大怪我。
ドンドルは大司教とは言え、政治的な手腕でのし上がってきたらしいから、とてもじゃないけど治療なんて無理だと思うわ」
コロンゾン伯爵の怪我は馬車の車輪にでも巻き込まれたのか、ぐちゃぐちゃになった物を無理やり治癒魔法で直した様な傷だ。
おそらく出先で他に手が無くそのまま治癒魔法を掛けたのだろう。
命に別状はないが、下手に治癒している分、元に戻すのは以前のルノアの怪我の治療より難しい。
ドンドル大司教は水晶玉を触媒に呪文を詠唱し始める。
しかし、その詠唱の内容は聞き取れない。
「これ……古代語?」
「そうね……暗喩や固有名詞が有って完全には訳せないけど……『生贄を捧げて身体をあるべき姿に戻す』って感じの意味ね」
「エリーさん、古代語も分かるのね」
「簡単な物だけならね」
「生贄って言うのはあの触媒の事を指しているのかしら?」
「そうね。見た感じだと魔力が封入された水晶みたいだけど……まぁ、良いわ。
それより奴らを捕らえましょう」
「見つかるわよ」
「コレだけ探しても見つからないのだから仕方ないわ。
此処、予想以上に広くて入り組んでいるし、それにあいつらは多分この遺跡の一団の中でもトップの方でしょうから、締め上げてアリスとルノアの居場所を吐かせましょう」
「良いの?ハルドリア王国の貴族も一緒よ?」
「大丈夫よ」
元々コロンゾン伯爵には消えて貰うつもりだった。
アイツはフリードを唆して色々と暗躍していたらしい。
帝国に亡命してから調べた事だが、あのシルビア・ロックイートを王太子であるフリードに近づけ私を排除しようとしていた痕跡が有った。
その方がフリードを御しやすいからだろう。
所謂、私が居なければ得をするタイプの貴族だ。
その癖、私の前では忠臣面していたのだから始末が悪い。
「…………おっと、今はアリスとルノアを救け出す事が先決ね」
思い出したら怒りが込み上げて来たが、それをグッと抑え込む。
奴らにはアリスとルノアの事を聞かなくてはならないのだ。
私とヒルデは通路から広間へと堂々と歩いて出て行った。
「誰だ!」
「あんた達が誘拐した子の保護者よ。
死にたくなければ大人しく子供達を返しない」
私達の姿を見ると、ドンドルの周囲にいた聖職者達が慌てて武器を手にする。
「ヒ、ヒルデ・カラード!それに貴様は……まさか、エリザベート・レイストン⁉︎」
「何だと⁉︎エリザベート嬢!帝国に居たのか⁉︎」
「お久しぶりですわ、ドンドル大司教、コロンゾン伯爵。
旧交を温めたい所ですが、私達は急いでいますの。
拐った子供達の居場所を吐いて貰いましょうか?」
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(・ω・)ノシ




