誘拐の日
エリー達がヒルデとの商談の為に出発した後、ルノアとミーシャはアリスを連れて正門前広場へと向かった。
「アリスちゃん、今日は大道芸人が来ているらしいよ」
「“だいどうげいにん”ってなぁに?」
「曲芸やパントマイムなどの芸を披露する人の事ですよ、アリス様」
「?」
「ふふ、もう直ぐそこだから見た方が早いよ」
「あ、ルノア様、走ると危ないですよ」
そう言ってルノアがアリスの手を引いて路地から広場へと飛び出して行くのをミーシャは慌てて追いかけた。
「わーすご〜い!」
アリスは、5本の短剣を使って器用にジャグリングする女性に歓声をあげ、周囲の観客と共に拍手を送る。
火吹きやパントマイム、ジャグリングと、広場で様々な曲芸を楽しんだ3人は、広場の近くの屋台で簡単に昼食を済ませた後、隣の区画にある自由市へと足を伸ばしていた。
自由市とは、行商人や個人などが一律の税を納める事で1日限りの営業許可を受け、売買を行う事が出来る場所だ。
詐欺紛いの商売人も居るが、稀に掘り出し物や、その地域では見かけない珍品が売りに出される事がある。
それらの品々を見て回るだけでも楽しく、3人で数々の露天を冷やかして回った。
「あれ?」
そして太陽が中天を過ぎた頃の事だ。
初めにその異変に気づいたのはミーシャだった。
「どうしたの、ミーシャ?」
「いえ……なんだか妙な……」
ミーシャが周囲を見回し、僅かに感じた違和感の正体を見定めようとする。
欠けた石畳……ベランダに吊るされた洗濯物……一段下を流れる川……商品が並べられたシート……無人の屋台……捨てられた串……古ぼけた街灯………………。
「…………人が、居ない……………っ⁉︎」
それに気づいた時、ミーシャの耳と尻尾の毛が逆立った。
「ルノア様!アリス様!」
「え?」
「どうしたの、ミーシャお姉ちゃん?」
「走って下さい!これは、人払いの魔ほ、ぐっ!」
ミーシャがルノアとアリスの手を取り走ろうとしたが、そのミーシャは腹部を蹴り飛ばされ、小柄なミーシャは数メートルの距離を飛ばされた。
「く、げほ」
「ちっ!勘のいい奴だ」
ミーシャを蹴り飛ばした男は舌打ちしながらルノアの腕を捕まえる。
更に男の仲間らしき男達が2人、その内の1人がアリスを捕らえていた。
「ルノア様!アリス様!」
「うぅ⁉︎うぐぅう!!」
アリスを捕らえていた男が暴れるアリスの口を布で覆うとアリスの全身から力が抜け意識を失ってしまう。
「アリスちゃん!荒野を走る疾風 荒ぶる風を束ねて剣を、うぐ⁉︎」
ルノアが魔法を使おうと詠唱するが、それに気付いた男が直ぐに口を塞ぐ。
「ちっ!このガキ、魔導士だ!おい、早く薬を寄越せ!」
ミーシャは脚に魔力を纏うと、懐から取り出した短剣を両手に構えて地を滑る様に駆け出す。
「このガキ!」
「ふっ!」
ミーシャを殴ろうと奮われた拳を躱し、短剣で男の腕を斬りつける。
「ぐぁ!」
「ちっ、グズが!ガキ相手に何やってんだ!」
「おい、ガキ!動くんじゃねぇ!」
アリスを捕らえていた男がナイフを取り出しアリスの喉元に突き付ける。
その隣では薬を嗅がされたルノアが意識を失う所だった。
「アリス様!」
「動けばこのガキを殺す」
「…………っ⁉︎」
ミーシャはギリリと奥歯を噛み男達を睨みつける。
「このクソガキがぁ!!」
「きゃっ!!」
腕を斬りつけられた男がミーシャを殴りつけ、倒れ込んだミーシャを何度も踏みつける。
肉を打つ音と、骨が折れる不快な音が響く。
「テメェ……舐めた真似をしてくれたな」
「ぐぅう!!!」
男はミーシャが取り落とした短剣を拾い上げると、嬲るようにミーシャの体を斬りつける。
「ガキが調子に乗ってんじゃねぇ!!」
男はミーシャの髪を掴み上げると、短剣をミーシャの右目の上に当て、一息に切り裂いた。
「ああぁぁあ!!!」
ミーシャの悲鳴と共に血飛沫が石畳を赤く染めた。
「おい!そろそろ人払いが切れる」
「ちっ!クソが!このガキはいらねぇんだろ?」
「ああ、獣人は魔力が低いからな」
「へっ!じゃあ殺して構わねぇ……な!」
「がっはっ!!」
男は血の中に転がるミーシャの腹を蹴り飛ばす。口から血を吐きながら転がる。
「うっ……ぐっ!」
ミーシャは朦朧とする意識の中、フラフラと立ち上がると、よろける様に歩き、すぐ側の川へと真っ逆さまに落ちた。
「あ!待て!」
「おい、もう時間がない、行くぞ」
「だが!」
「あの怪我で川に落ちたら助からねぇよ」
「クソ!」
男達が去ってから少し後、岸に這い上がった血だらけの少女は、全身の痛みを堪えながらその場に落ちていたリボンを無意識の内に拾い上げる。
「………………エ、エリー様……」
ミーシャは激痛を堪えて身体強化を使うとエリーの元へと駆け出した。
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(・ω・)ノシ




