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バッドエンドのその後で  作者: 高菜かな
序章 忌子の聖女と記憶消失の少年
7/12

間話 あなたが見る世界<アトレ視点>

失敗した。

ビスが石を叩きつけた時、頭に浮かんだのはそんな文言。

そして次の瞬間には、こことは全く違う景色が広がっていた。


ビスが持っていたあの石は、魔素を強く凝縮させた石だ。

この不思議な空間……"夢境"と呼ばれるここを封印した結果できたのがあの石。だから、壊れて仕舞えば当然封印は解けてしまう。


わたしは攻撃魔法の原理について頭の中で考える。

水の玉を当てると、ゆっくり当てたとしても相手に怪我をさせることができる。

そもそも、水の玉を人に当てたところで、勢いがないとダメージを与えられないはずだ。

ではなぜすぐにダメージが与えられるのか?

わたしは昔から、その疑問に対してこう推測している。

……人間が耐えられないほど、魔素が危険な存在だからだ、と。



「ここ……」


掠れるようなアイルの声が聞こえて、それまで茫然としていたわたしは我に帰る。

普通の人間が耐えられる魔素の濃度には限界がある。何人生き残っているだろうか。

アイルの方へ振り向く。彼はその場にちょこんと立っていたが、そのほかには誰もいなかった。


……全員、死なせてしまった。わたしが止めるのが、遅くなったせいで。


心の中にあったものが全て抜け落ちて、器が割れそうなほどの重圧がかかっている気がする。


「ア、アトレ……」


わたしはその感覚に見てみぬフリをして、アイルに駆け寄った。

今は自分の感情を気にしている場合ではない。被害を少しでも食い止めなければ。

アイルはわたしと"同じ"な子だけど、それでも悪影響があるかも知れない。


「アイル!大丈夫!?おかしいところとか、痛いところはない?」

「……え、あ。うん。」


彼の様子がおかしい。それもそうだろう。わたしは何回か夢境に入ったことがあるが、彼は初めてなのだから。戸惑うのも仕方がない。


「ごめんね、説明している時間がない。とりあえず、早くここを抜け出して……」


わたしは杖を構えて、この空間を封印し直そうとする。

その時、アイルがわたしの腕を掴んできた。


「ま、待ってくれ!俺、実はこの場所のこと……」


だんだんと声が小さくなっていって、最後の方はうまく聞き取れない。

何かあったのかな。わたしは首を傾げて、アイルに聞き直した。


「どうかした?」


安心させるように笑いかけると、腕を握っていた手の力が徐々に弱まっていく。

彼は一瞬くらい顔をした後、力無く笑っていった。


「……ううん、なんでもない。」



──……



その後、わたしは封印魔法を使い、再び夢境を石の形に戻した。

洞窟を抜けるとボウロがちょうど到着して、わたしの報告を待っていた。

……ごめんなさい。あなたの故郷の人たちを、わたしは死なせてしまった。

死んだ人間の名前と人数を伝えると、彼の顔が一瞬歪む。

罪悪感で息をするのが辛くなった。


一方、アイルは特にあの時のことについては聞いてこなかった。

ボウロに説明していた時、離れていていいと言っても離れなかったから、ビスたちが死んだことはわかっていたとは思う。

ショックだったのかも知れない。いきなり貴族とか、人が死ぬとか、そう言うことに巻き込まれたんだし。

わたしは彼の心的なケアをしつつ、再度シューク町へ向かうためにリゼ村へ戻った。

けど……アイル、最初は時々茫然としていただけだったのに、最近では何かを言おうとしてやめるということが増えた。愛想笑いをすることも増えてしまった。


あの日から、少しずつ心で通じ合っていたわたしたちの関係性は、すっかり上辺だけのものになってしまったように思える。

わたしは夢境についての説明や、なぜそれを知っているのか、ここはどう言う世界なのか……そして、わたしがまだ話していなかったことについてなかなか説明できなかった。

言ったところで、彼は受け入れてくれるのだろうか。

ずっとそんなことを考えながら、今日もわたしは愛想笑いを浮かべている。


……もうすぐ、シューク町に着く。わたしの秘密を伝えるなら、きっとその時しかない。

いきなり貴族の対義語、じわじわ庶民。

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