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バッドエンドのその後で  作者: 高菜かな
序章 忌子の聖女と記憶消失の少年
3/12

間話 人が変わったように <ボウロ視点>

「領主様、リベルテ町の住民の避難は終えています。四つのグループを作り、そのうちの一つはこちらに避難しました。」

「ええ、ありがとう。」


領主様に無事に報告を終えられたことに安堵の息を吐く。

身内が死んで、家族が散り散りになって、自分の家は焼けた。そんな状況でも、領主様は平静を保っている。

尊敬が出てくる反面、この少女の精神は大丈夫なのかと心配にもなる。

まぁ、おそらく大丈夫じゃないんだろうな。だって……

オレは彼女が抱えているそれに対して、あまり理解ができなかった。


「……ところで、領主様。その少年は一体、どうされたのですか?」


彼女はお姫様を扱うように、少年を抱えていた。

少年は眠りについているのか、穏やかな眠りについている。瞼を閉じているにも関わらず、端正な顔立ちをしているのがわかった。


「わたしの運命の人よ。」

「う、運命の人……誘拐、したのですか?」


やはりというべきか、なんというべきか。

領主様は心労で気が狂ってしまわれたらしい。


「もとの場所に帰してあげるべきでは?」


なんで俺は猫を拾ってきた子供に言うような言葉を、この人にかけているのだろう。

俺がそう言うと、領主様は瞼を少し伏せて、暗い顔をした。


「……この子も、わたしと同じで家族がいないみたいなの。それに、わたしと同じ力を持ってる。絶対に貴族や平民と関わらせられないわ。」


家族がいない……どう言うことだ?孤児だったとか、そう言うことだろうか。

領主様と同じ力というのは……おそらく特殊な魔法のことかな。

大体の事情は理解した。それに、彼女が少年に感じている気持ちについても。


「では、この村で信頼のおけるものを後見人として置きましょうか?」


領主様は多忙な身だ。それに、大切なものをいっぺんに失って辛い時期でもあるだろう。そんな時に、一人の子供の世話など任せられない。

俺は少年をここへ置いていくことを提案したが、領主様は首を横に振った。


「ううん。この子は……わたしが面倒を見る。」

「え?で、でも。貴族としての業務だって……」


予想外の言葉が出てきて困惑する。

今の彼女は、普段と違う行動を取りすぎている。この少年と会ってから人が変わったようだ。

彼女は、俺に鋭い視線を投げかけて言った。


「そのことなんだけど……しばらく、わたし失踪するわ。」

「……………………へ?」

「この子を安全なところ……王女がいる王都まで護送しないと。」

「落ち着いてください。どうしてですか?」


領主様はだんだん焦り出してきているのか、突拍子のない発言を繰り返している。

俺は一旦事情を聞こうと、彼女を宥める。

しかしそれは逆効果だった。彼女は余計混乱してしまい、支離滅裂な発言を繰り返す。


「教会と資本家の争いに巻き込まれたら、王様にさせられちゃうかも知れないの!そしたら殺されちゃう!」


教会と資本家の争い……?こちらには伝わっていないが、何かあるのか?

それに、王にさせられると殺されるというのも、どういうことだ?


「……ん、う…」


領主様が取り乱していると、腕の中の少年が小さく呻き出した。

彼女はそれを聞いて、ハッとしたように目を小さくする。そして、一度深く呼吸して、冷静な状態に戻した。


「ごめんなさい、少し焦っていたわ。とにかく……これは貴族たちの事情だから、気にしなくていいわ。警戒しているのは、その貴族たちの事情にこの子が巻き込まれること。」

「だから、貴女がつきっきりで護送したいと?」


領主様は頷く。

正直言って、領主様の考えには賛同できない。

警察を動員させたり力のあるものを護衛につけたり、とにかく周りを頼るべきだ。

上に立つものは基本、他人をうまく使うことが仕事だからな。

だけど、だからと言って否定できない理由もある。

俺が昔、この村の村長じゃなかった頃。

彼女は悪人だった俺の話をよく聞いて、乱れていた俺の感情を尊重してくれた。

今の彼女は、あの時の俺のように感情を乱している。

できることなら、彼女にしてもらったように彼女を尊重したい。


「とにかく、すぐに動くのは危ないです。その少年が目覚めるまでは……とにかくゆっくり休んで、どんな事態にも対応できるよう備えるべきだと思います。」

「……そうね。ありがとう。この子が目覚めるのがいつになるかはわからないけど、服や鞄の準備はしておきたいもの。ねえ、情報の収集を頼める?襲撃者について、今どのような動きをしているか調べて頂戴。」


俺は頷いて、調べる方法や人員について考え始めた。

齢12という異例の若さで領主になった、生まれも育ちも不幸ばかりのアトレ様。

それでも誰かを救うことを諦めなかった彼女を、少しでも俺が救えますように。

胸の中で、必死に祈った。そして、もししばらくしても彼女のこれからについての考えが変わらなかったとしたら……

せめて彼女が死なないように、できる限りの援助をしたう。

この後アトレの都合により、ボウロさんはしばらく仕事の量が激増しました。なぜか「アトレが貴族としての仕事を果たせない時はボウロが代わりに果たす」という契約が出会った時に交わされていたため、拒否権はありません。ごめんね……

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― 新着の感想 ―
よく練られた話と設定ですね。 これは今後も期待出来そうです。 面白かったので、ブクマさせていただきました。
途中までですが拝読いたしました。(*^^*) オリジナリティ溢れる設定で世界を作られていることに好感を持ちました。 ここからどのように発展し、どのように成長していくのか…続きに期待しております!
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