第九話(前) HAKARI
「ねえ、アイル……この子が言ってることわかる?」
「……うん。はじめまして、はかりですって言ってる。」
『何か御用ですか?』
俺の"はかり"という言葉に反応して、はかりは一歩近づいてくる。
はかり……正式名称は、"AI HAKARI"
低スペックな前時代のaiと言われているが、汎用人工知能として広い範囲での依頼をこなせる。
目の前にいる……この桃色の髪の少女もそうだ。
おそらく、HAKARIを入れたアンドロイド機体に"児童の健全な精神のためにがんばれ"とか何たらかんたら命令とかしたんだろう。
はかりは自然な笑みを浮かべ、俺たちの返答を待っている。
『いや、俺たちは客じゃない。うーん……転校生?かな。』
こう言っておけば敵認識はしないだろう。
アトレが日本語を話す俺を興味津々にみている。そんなにみられると、ちょっと恥ずかしい。
『新しいお友達でしたか。私ははかりです。仲良くしましょうね。』
声が柔らかく優しいものになる。子供向けの対応に切り替わったんだな。
『俺はアイルだ。よろしくな。』
俺に自己紹介を終えたはかりは、アトレの方向へ向く。
……あ、どうしよう。こいつ日本語喋れないよな。
アトレは不安げに俺の袖を引っ張る。そして耳元でこう囁いた。
「ねえ、ハカリっていうのが名前でいいんだよね?」
「うん、そうそう……はかり、この子は日本語が喋れない子なんだ。名前は……』
俺がアトレを紹介しようとすると、彼女は割り込むように発言する。
『わたしは、あとれデスなかよくしましょーね。』
……!?日本語!?喋れてる?
もしかしてさっきはかりが喋ってたのを真似したのか?
『……!はい、よろしくお願いします!』
はかりは一度動作が固まるが、その後すぐに動き出してアトレと握手をした。
アトレはちょいちょいとこちらの肩を叩いて、自慢げに言った。
「ね、ね!どう?ちゃんと喋れてた?」
「……うん、はなまる。すごいな。」
俺が手放しに褒めると、アトレはえっへんとでも言わんばかりに腰に手を当てた。
頑張ればこのまま日本語習得しちゃうんじゃないか?成長の速さが恐ろしいな……
それにしても、人はいないのにはかりはいるんだな。
ますます夢境がどういう仕組みで動いているのかわからなくなるな。
そもそもなんでこんなに俺が知っている世界の景色が出てくるんだ?
もしかして夢境とっていうのは世界間を繋ぐ扉みたいな存在なのかな?
だけどそれじゃ、人がいないことに説明がつかないんだよなー……はかりは知らないかな?
『そういえば、どうしてここには人がいないんだ?』
はかりに聞いてみると、彼女はしばらく更新中という表記とともに、ぐるぐるアイコンを出す。
そしてそれが消えると、悲しそうな表情を作って喋り始めた。
『それが、私にもわからないのです。気がついた時には人間はいなかったんです。時々二人のような外から来た人と出逢いますが……』
混乱しているのか文章がおかしくなっているな。
それにしても……"気がついた時には人間がいなかった"、"外から来た人"がいる、ね。
『はかりは、"ここの外"を知っているのか?』
『はい、魔法という技術がある場所ですよね。』
昔にもここに来た人がいるって言ってたし、教わったんだろうな。
ここに来た人。きっと、俺たちと同じように魔素への耐性が高い体質のものだ。
その人がまだ生きているのなら、もしかしたら……俺たちの仲間になってくれるかもしれないな。
色々なことを考えていると、不意に俺の袖がちょいちょいと引っ張られる。
「あいるー……なに話してるの……?まだ情報収集が必要ならわたしが周辺の探索してくるけど……」
そちらを向くと、ちょっとしょげているアトレがいた。
やばい、考えるのに夢中になりすぎた。
彼女はその後、『あんまり役に立てそうにないし……』と呟く。
アトレって、人の役に立たないと気が済まないのかな。
自分が役に立たない場面だとこんなふうになるんだな……
アトレに探索を頼むことも考えるが、慣れていない場所で一人は危ないだろう。
はかりにもう少し色々聞きたいけど、また次回にしよう。
次回があるかはわからないけど。
「ごめん、早くこの場所を封印しなくちゃいけないんだったな。なんとなくでここまで来ちゃったけど、この後どうすればいいんだ?」
「えーっとね、周辺にいる魔物をできるだけ取り除いて、封印かな。問題は……」
『み、みなさん!危ないです!』
封印のために必要な手順を話しているとき、はかりが突然俺たちの後ろを指差して叫ぶ。
振り向くとそこには……無機質な作りのアンドロイドが数人立っていた。
そのアンドロイドは手に拳銃を持っていて、照準をアトレの方にあわせて──
「っ!アトレっ!!」
俺が彼女を押し倒すのと同時に、その引き金は引かれた。
鼓膜が破れそうなほど大きい発砲音が鳴り響き、戦闘の開始を合図する。
「あ、あいる……何が起こって。」
即座に起き上がって体制を整えようとする。
しかし、相手が再び照準を合わせてくる方が早かった。
俺は防御魔法を展開しようと手に魔素を集め始める……前に、相手は引き金を引いた。
あ、やばい。当たる。
世界がスローモーションになっていく気がする。発砲音が鳴り響いて、弾がこちらに来て、俺に……
『させません!』
俺に当たる、かと思った。
はかりがアンドロイドの一歩前に出て、その身で銃弾を受け止める。
「「はかり!?」」
『はやく避難してください!』
そうはかりは叫ぶ。
俺ははかりの指示に従ってアトレの手を掴んで逃げようとした。
しかし、アトレは立ち上がってはかりの援護をしに行った。
……そっか、アトレは日本語わからないし、はかりが機械だってこと知らないもんな。
多分彼女ははかりを置いて行ってもいいと言っても聞いてくれないだろう。
俺は杖を取り出して、アトレとはかりの周りにシールドを貼る。
今の俺にできるのは、二人に怪我をさせないことだけだ。でも、被弾することを考えずに戦えるアドバンテージは大きいはず。
「アトレ!俺が防御壁を貼る!戦闘に集中してくれ!」
「ありがと!」
彼女は俺が無から杖を出すのと同じように、剣を取り出した。そして、アンドロイドに刃先を向けると、こう宣言した。
「降参するならはやくして、殺されたいなら……かかってきなさい。」
はかりは高度すぎる処理ができない代わりに、メチャクチャ動作が軽いです。頑張れば阿部寛のホームページの次くらいに速く回答してくれます。




