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バッドエンドのその後で  作者: 高菜かな
序章 忌子の聖女と記憶消失の少年
10/12

第七話 越冬のために

──news paper of Remile

立冬早まる予想、魔素の停滞が原因か。

王都気象予測・対策庁は、10月後半が今年の立冬だという予想を発表しました。

これだけ早い冬の訪れはルマイル史上初めてのことで、各地で心配の声が相次いでいます。

この事態に対し、王女殿下セシル様は──


「……今どの町村でも準備ができてないってさ。ほんとうに、アトレの勘が当たってよかった。」


今朝買った新聞を読んで、アトレにそういう。

実は、シューク町でアトレがこんなことを言っていたのだ。


『なんだか、まだ一応夏のはずなのに、もう秋みたい……収穫祭だって、普段は二月くらい先のはずなのに。』


季節が変わるのが早いなーとは思っていたが、それほどのだとは思っていなかったな。

その後、彼女は

『冬が早めに来るかはわからないけど……億が一に備えて次の町で冬支度をしよう』といいだしたんだっけ。

俺たちは今、王都近隣──といっても、王都に行くには二週間はかかる──町の宿に泊まっている。

今は十月の上旬だが、すでに外は極寒だ。どのくらい寒いかと言うと、暖房の魔術具のそばから離れられないくらい。

アトレもそう感じているようで、今は二人で暖房の周りを囲んでいる。


「ほんとだねー……この感じだと後三ヶ月くらいは宿にいるだろうし、早めに準備できてよかった。」

「さ、三ヶ月……!?」


そんなに冬って長いのか……?俺、生き残れるかな?

それも……三ヶ月も、アトレと二人。

俺は彼女を横目で見た。

あの日から日を追うごとに、アトレは可愛くなっていってる気がする。

三ヶ月後となったら、もう眩しすぎて光をはなってるかもしれない。

そしたら、もう直視なんてできないぞ。今でさえ、あいつの顔を見てドキドキするのに。


「長いよねー。せっかくだし論文でも書こっかなぁ。」

「さ、三ヶ月もお前と二人きり……三ヶ月……」

「……そんなに嫌?」


ぶつぶつと呟くと、アトレに悲しそうな顔をされてしまう。

俺は人生で一番大きい声を出して否定する。

そこから、二人で過ごす冬の日々が始まった。



──……



そして、翌日。


「おそらく、年内にはお届けできるかと。」

「ほんとう?ありがとう。」


アトレは役所に向かい、手紙の配達を頼む。

俺はそんな彼女を椅子に座って待っていた。

いきなり手紙を出しに行くって言ってここに来たけど、いったい誰に当てたものなんだろう?

戻ってきたアトレは安堵したような顔をしていた。小さく息をついた彼女は、『宿に戻ろう』と言う。


役所の外へ出た後、アトレに聞く。


「なあ、誰に手紙を出したんだ?」

「え?…………………………同僚、かな?」


なんだよその間は。本当にただの同僚か?


「なんで?」

「アイルに話してなかったっけ。本当はね、王都についた時、その人と会う予定だったんだ。」

「え、俺抜きで?」

「いや、アイル別にその人と知り合いでもなんでもないでしょ。」


……それは、そうだけどさぁ。

なんとも言えない気持ちだ。ちょっともやもやする。

アトレは続けて話した。


「でね、情報交換をしたあと、王女様にわたしの無事を報告してもらう予定だったんだ。」

「それ、手紙じゃだめなのか?」


手紙でした方が速く済むだろ。わざわざ会う必要はない気がする……


「手紙は運んでる途中で見られちゃうかもしれないし、本当にわたしかどうかわかんないでしょ?」

「あー……」


それもそうだな。筆跡を真似るくらいだったらいくらでもできるだろうし。

でも、でもなー……なんだろ、なんか嫌。アトレがそいつと会うのがちょっと嫌。


「でも、アイルだったらあの人と友達になれるかもね。あなたと同い年の男の子なんだよ。たぶん、話合うと思う。」

「え?同い年ってことは……」


12才で王宮勤めってことだよな。

そこまで言おうとして、不意に鼻先に冷たいものが当たる。


「あれ、雨?」


俺の言葉に、アトレが立ち止まって上を見る。


「……いや、違う。雪だよこれ。」

「ほんと!?」


確かに寒いとは思ったけど……雪国でもないのに、十月に雪が降るっておかしくないか?ここはちょっと法則とかが違うのかな。


話しているのはほんの20秒くらいのはずだったのに、すぐに雪の量は増していく。


「すごい。めちゃくちゃ降って来たな。」

「!アイル、すぐ帰るよ!捕まってて!」

「へ?……うわぁあ!?」


初めて見る雪をずーっと眺めていると、急に視界が高くなる。

下を見ると、アトレが俺を抱えて走っていた。

なに、なになに!?なんで抱っこすんの!?どこにそんな力があるの!?

いきなりこんな展開になって困惑しているうちに、彼女は宿へ辿り着く。


「ただいまです!」

「お、おぅ、おかえ……え?お嬢ちゃん、重くないのか?」

「だいじょぶです!」


勢いよく扉を開けた彼女は店番をしている人に挨拶する。

店番の人も俺を抱えるアトレに困惑しているな。

アトレはそのまま部屋に向かい、俺をベッドに下ろした。


「へぁ……あろれ、にゃにしはの……」


気持ち悪くて呂律がうまく回らない。


「ごめんね、吹雪になったら厄介だったから。間に合ってよかった。」

「ふぶきぃ?」


窓の外を見ると、先ほどまでちらほらと言っていただけだったのに、もう吹雪になっている。

驚いて窓から外を見ると、人々が走りながら家に帰るのが見えた。その中には子供を抱えている女性や、呑気に遊んでいる子供達も見える。

アトレも窓の外を確認したようで、こんなことを言う。


「……大変。あの子達を帰らせないと。」

「え?」


彼女は防寒着を取り出し、袖を通す。そしてボタンを通すこともせず俺の方へ戻ってくると。


「アイル、わたしちょっと行ってくるね!窓閉めといて!」

「は!?そんな、危ないだろ!大人に任せるべきだ!」


窓を開けたアトレは枠に足をかけ、そのまま飛び降りようとする。慌てた俺は咄嗟に彼女の腕を掴んだ。

おいおい、ここ三階だぞ??それにこんな吹雪だ、お前が死んだらどうするんだ。


「で、でも。女性と子供は優先して助けろーって言うじゃない。」

「女性で子供のお前が言うことじゃないだろ!」

「……いってきます!」

「ああ〜!……もう!すぐ帰ってこいよ!」


半ば強引に俺の手を振り払ったアトレは、そのまま外に飛び降りる。

華麗な五点着地を見せた彼女は、そのまま人の救助に向かった。

そのあまりに手際のいい動きを見て、彼女を止めることを諦める。

……まあ、あれだけ救助に慣れてるなら、こんなことは日常茶飯事なんだろう。多分大丈夫だ。

俺はあったかいお茶を淹れたり部屋を温めたりして、あいつが休めるようにしておくかな。


その日から、一日、二日、一週間……

一度降り出した雪は勢いを止めることも知らず、ついに一階が埋もれてしまった。

町の人が朝やっているように、俺もアトレと時々雪を溶かしに行っているのだが、それでも積もる積もる。

ここ最近ずっと使っていたからか、雪を溶かすために覚えた炎魔法もめちゃくちゃ上達しちゃったな。

今日もアトレと雪を溶かしに行った。その帰り道で、アトレは雪を一握り拾って、部屋に持ち帰る。

俺は雪の使い道が気になって、彼女に聞く。


「なんで雪なんて持って帰ったんだ?それ、食べても美味しくないぞ?」

「アイル、雪食べたことあるの?」

「この間お腹壊した時あったじゃん?あの時に結構……」


アトレは呆れたような目で俺を見る。

だって、いけそうな見た目だったんだもん。


「ああ、そうなんだ。この雪はね、魔素をどのくらい含んでるか調べたくて持って来たの。」

「へ〜、どうだった?」


アトレは『今調べるね』と言ってしばらく目を瞑る。

やがて目を開いた彼女は、暗い顔をしていた。


「状況がちょっと悪いかも。予想していたよりずっと魔素の量が多い。」

「それってどうやってわかるの?」


どれが魔素を多く含んでいて、どれが含んでいないかとか、俺にはよくわからない。


「うーん……魔素を集める時の感覚ってわかる?」

「ああ、魔法を使う時にぎゅっとさせるやつな。」

「あの時の感覚を広範囲に広げる……って言えばわかるかな?」


広範囲に広げる……魔素を扱う時の感覚……

魔素を扱う時、俺は自分の体を動かすような感覚で動かせる。

だから……それを徐々に広げて、もっと離れたところまで自分と同調させてみよう。


「……!!」

「こんな感じ、か?」


やってみたけど、うまくわからなかったな。

そもそも普段からこんな広い範囲の魔素は扱ってないし。

でも、気のせいだろうか。ほんの少しだけ、雰囲気が夢境で見た東京に似ていた。

どれくらいできているか自信がないな。


俺の様子を見たアトレは、目を輝かせてこちらの手を握ってくる。


「すごい!まだ魔法を使い始めてちょっとしか経ってないはずなのに……もうできちゃうんだ!」


その後、彼女は頬を染め、小さな声で『やっぱり、あなたは……』と呟く。

普通はできないことなのかな?というかそんなに近くに来られても恥ずかしいんだけど……!


「ちょっ、は、離れて。」

「あっごめん。嫌だったよね。」


別に嫌ではないけど、なんかダメになりそうなんだよ、そういうの……

顔に熱が集まる感覚がする。多分、俺は今ちょっと赤面してるな。

隠すようにそっぽを向いて、俺は話を無理矢理戻そうとした。


「そ、それで!?魔素の量が多いからどうしたんだっけ??」

「あ、うん。魔素の停滞が原因で、今こんな大雪になってるみたいなの。ただ、それだけじゃない。他のどこかからも、ここに魔素が流れ込んできてる。」


流れ込んできてる?

その時、ぱりんと何かが割れるような音がした。


「うわ!!なんだ!?」


音の方向を見ると、暖房の魔術具が粉々に砕け散っていた。

そ、そんな……!!俺たちのライフラインが!

絶望感に声にもならない声が出る。

くそ!どうしてこんな時に!あれか!?これも組織の仕業とかか!?

アトレは砕けた暖房の魔術具に近寄り、屈んでかけらを触っている。


「……アイル、このままこの魔素の停滞を放置しておいたら、夢境ができてしまうかもしれない。どうにかして、魔力が流れて来てる元を特定しないと。」


む、夢境がここに!?

こんなところにできたら、町の人みんな死んじゃうよな?こ、怖い!一日で町民全員死亡は全く笑えない!


「嘘だろ!?」

「うん、暖房の魔術具ですら、魔素の濃さに耐えられなかったみたい。これほどの魔力となると……流れて来てる大元にも、夢境ができてるはず。早く行かなきゃ。」


アトレは早速荷物をまとめて、出る準備をしようとする。当然俺も準備をしようとしたのだが、夢境という言葉で、大事なことを思い出した。


きっと、夢境の中は東京だ。

アトレは東京について詳しくは知らないんだし、俺が教えてスムーズに進んだ方が絶対いい。

でも、東京について教えるなら、俺の記憶についても話さなくちゃいけなくなる。

でも、でも……

組織に追いかけられて、貴族として大変な生活を送って、今も俺のために頑張ってくれるアトレのこと、巻き込んでしまっていいのか……??

今回から文字数をちょっと減らしてみました。ちょっとはくどい感じが無くなったかな……?


アイルは生活の中で少しずつ魔法を習得していっていますが、自主練をサボってるのでまだ最強にはなってないです。

彼にとっては筋力をつけてアトレ依存を脱却する方が先なんです。

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