第94章「月の宿命、月光決戦~満月VS半月~」
「は、速い!!そしてなんて重い攻撃なの?!?!」
「どうした?貴様の力はその程度か?!だとしたら笑止千万!!」
ガロードの二刀流の連続攻撃にアイリスは押されていた。反撃の隙も与えないその攻撃に防戦一方だったのだ。先ほど受けたダメージも相まってかなり苦しかったのだろう。一度距離をとる。
「貴様の『満月の波動』の能力はよく知っている!前に同じ能力を持った奴と戦った時に散々苦戦したからな!肉体と武器強化、見えない敵まで把握する力、そして数秒先を見通す未来予知だったか!だが二度目となると攻略は容易いものだ!」
「の、能力までお見通しってことね……!」
「その力の最大の武器は未来予知!だからこそその力を発動させる時間を作るために今貴様は一度距離をとったのだろう?」
「……!!」
ケイのように真っ向から打ち破った者は数人いたが、ここまで完璧に攻略されたことはアイリスは今まで一度もなかった。だからこそ全てを見透かされたかのように感じ、焦りが生じる。そしてそんなアイリスを見てガロード笑みを浮かべ宣言する。
「この間合いなら攻撃はないと思っているのだろう?甘い!!私のサイレントムーンセイバーはこの距離でこそ真の力を発揮する!!」
「な、何っ?!」
「いくぞ!これぞ我が最強の剣技!!くらうがいい!!インビジブルムーンバードぉぉーー!!!」
ガロードは左手のサイレントムーンセイバーを上段から凄まじいスピードで振り下ろす。アイリスは一瞬何をやっているのかと思ったが満月の波動の力により本能的に理解し前にとっさに素早く剣を構える。そして剣に凄まじい重さが加わり、後方へ吹き飛ばされるのだった。
「きゃあああぁぁーー!」
吹き飛ばされた後、追撃に備えるためボロボロになりがらも立ち上がるがアイリスは息を切らしながら今にも倒れそうだった。
「はぁ……はぁ……あ、あり得ない……今のは、今のは見えない斬撃だっていうの?!こ、こんなのどうやって対処しろというのよ?!」
「ほぉ……波動の力で直撃は避けたか!この技を耐えきった者は片手におさまるというのに。……だが決着は着いたようだな。」
「はぁ……はぁ……ま、まだよ!!私は……私は絶対あきらめない!……約束したのよ!必ず勝つと!だから……だから最後の勝負よ!……私の最強の一撃であなたを倒す!!」
「くっくっくっ……!!面白い!やはり剣士の戦いは最高だ!!それも強い相手であればあるほどな!いくぞっ!!アイリス!!」
両者最大の一撃を繰り出そうと構える。それからお互いに必殺技の名を叫び、技を繰り出すのだった。
「月の神よ!我に力を!はぁあああ!大満月斬り!!」
「天下無敵の斬撃!!インビジブルムーンバードぉぉーー!!」
アイリスは波動で見えない斬撃を感知し辛うじてかわした後、凄まじいスピードでガロードの懐へ入る。これで決まり、そう勝利を確信したときだった。
「私の勝…………がはっ!!な……なんで……?」
「この斬撃は鳥のように自由自在に飛び回る。いくら避けようと関係ない……」
何がおこったかというと技を繰り出す直前、アイリスの背中に先ほどかわしたはずのガロードの見えない斬撃が直撃したのだった。背中に直撃したことでアイリスは前に倒れる。もう立ち上がれる状況ではなかった。ガロードは倒れたままのアイリスを見下ろし、言葉を口にする。
「……アイリス。私の勝ちだ。」
「……私が……ま、けた……えっ?」
それからガロードはトドメを指す前にあることを伝える。それはアイリスにとって衝撃的なことだった。
「貴様の敗因は私の半月の真の力に気がつかなかったことだ。」
「……真の……力?」
「半月のエネルギアの真の力……それはサイレントムーンセイバーではない。人の心を読む力、『半月の心』……それこそが真の力だ。だからこそお前の戦術は全てわかっていた。もし私の能力に気づけていたら未来予知の力で対処できたかもしれないがな。だが気づかなかった。正直期待はずれだったよ……」
「ああ……ああ……あああぁぁーー!!!」
アイリスは自身の完全なる敗北に言葉にならないほどの悲鳴をあげる。剣士としての格の違いを思い知りプライドも粉々になる。地べたに這いつくばりながら泣き叫ぶアイリスを見るが、ガロードは動じない。それから冷たい眼差しで最後にこう言う。
「貴様は私の若い頃と似ている……だからこそ昔の自分をみているようで嫌いだ。情けはかけない。アイリス……お前はここで死ぬ。何も生きた証を残せないまま無惨に散るがいい。」
ガロードは上段からサイレントムーンセイバーを振り下ろす。アイリスは心が完全に折れ、抵抗もなく死を待っていた。死の直前アイリスの心に大好きな英雄の顔が想い浮かぶ。
(……ケイ。……ごめんね。……私負けちゃった。……あなたとの約束……守れなかった。……私死ぬんだ。……もっとあなたに素直に自分の気持ちを伝えておけばよかったかな。……どうしようもないくらいあなたが好き……あなたの全部が欲しい……そう……言って……)
そんなことを思い、何もかもあきらめ、ガロードの一撃がアイリスに直撃する直前だった。サイレントムーンセイバーと太陽のように輝く黄金の拳がぶつかり合い、ガロードの一撃を相殺する。アイリスはゆっくり見上げる。そこにいたヒーローはアイリスにとって世界一大切な人だった。
「アイリス!大丈夫か?!」
「ケ……イ……なの?」
「ギリギリ間に合ったようだな。……ハク!!もう夜で月がでている!ヴァンパイアの回復能力は他人にも有効だったな?治療頼んでいいか?」
「ふんっ!この負け犬は好かんが今回は許してやる。ケイ!アイリスの治療はこちらで引き受けよう!」
「助かる!頼んだ!ハク!」
ガロードは周りを見渡す。シャドウナイトで生き残っているのは自分だけだと理解する。ケイとハクの活躍により味方への被害を最小限にしつつ敵をガロード以外全滅させたのだった。ガロードは黄金のオーラを纏ったケイの目をまっすぐ見て言う。
「これは剣士の決闘……どちらかが死ぬまで終わらない戦いなのだ。どけ!!邪魔をするな。小僧!!」
「嫌だね。ガロード!これは決闘じゃない。戦争だ。勝ちゃいいんだよ!!」
「お前!それでも騎士か!!恥を知れ!!」
「どかねえよ!!アイリスを死なせるわけにはいかないからな!それより……今度は俺と勝負しないか?さしで!味方には手を出させない!約束する。お前の部隊は俺達が全滅させた。もう味方はいない。だがお前が俺に勝てば俺達は引き上げる。どうだ?お前にとってもいい話だろ?」
まさかの交渉にガロードは少しの間、沈黙する。それから決心したのかケイに答える。
「……よかろう!お前との決闘受けてたつ!私が勝てば部隊を撤収させろ!いいな!?」
「ああ!だかどうせすぐにお前が負けるだろうからそんな心配する必要はない!こいよ!ガロード!!」
「貴様ぁぁーー!!殺す!!」
こうして次の戦いの幕が開かれるのだった。




