第91章「朝陽はまた昇る」
「ケ、ケイ!!」
「シルファ!ただいま!」
決戦前夜の現在、時刻は20時。緊急会議が終わり、国王に状況を説明した後、ケイはシルファとトラモント城内の人通りのない廊下で合流する。シルファはケイが無事で安心したのか涙目になりながらケイに勢いよく抱きつき、想いを吐露する。
「し、心配したんですから……!!」
「わ、悪かったな!心配かけて!!」
「もう急にいなくならないで下さい!ぜ、絶対ですよ!」
「ああ!約束するよ!本当に今回はごめんな!」
ケイが優しい表情でそう約束した後、シルファはケイの瞳を見つめる。その後顔を赤くし、あるお願いをする。
「……ここでキスしてくれたら許して差し上げます!」
「なっ?!……ひ、人がくるかもしれないぞ?」
「そ、その時はその時です!でなければ許しませんよ?」
そんなケイが動揺して焦っている中、シルファは関係なくキスを今ねだる。その時ケイの背後からいつもの聞き覚えのある声が聞こえるのだった。
「ダ、ダメぇぇー!!ケイぃぃー!!」
叫んだのは嫉妬の炎で全快のフィオナだった。そしてフィオナの横にはアイリスも一緒にいたが大層ご立腹の様子だ。アイリスはシルファに向かって声を荒げて言う。
「シ、シルファ!!あんたねぇー!!キスなんて許さないんだからっ!!今すぐケイから離れなさいよ!早くっ!!」
「げっ!!フィ、フィオナ!アイリス!!こ、これはだな!……ちょ……ちょっと?!シルファ!?!?二人がみてるぞ?!というか今はそれどころじゃ!!」
ケイが必死の言い訳を考えている中、逆にシルファは見せつけるかのようにケイの腕を組み密着する。
それからはっきり2人に宣言する。
「もう!!アクアといい、フィオナもアイリスも邪魔しないで下さい!今大事な時なんですから!!」
『じ、邪魔ですってぇぇー?!』
この言葉に相当カチンときたのか、二人同時に同じ反応をする。それから3人でいつものケンカが始まる。アイリスとフィオナが無理やりシルファをケイから引き離そうとするが、シルファはケイの腕にしがみつき抵抗するのだった。
「は、離れなさいよ!!」
フィオナのその一言に、意外にも頑固なシルファは断固拒否する。絶対離さない、そんな強い拒否だった。
「いっや!!」
「っ!!何が嫌よ!!離れなさいよ!!こ、こうなったら!!」
「ぎゃあああー!!い、痛い!!アイリス!!お、俺の腕の骨が折れる!!や、やめて!!そ、それに本当に今それどころじゃ……」
緊急事態にも関わらず、いつも緊張感のないケンカが10分ほど続いた後、やっとおさまるのだった。冷静さを取り戻したフィオナはケイに言う。
「……こほん!私としたことが取り乱したわ!でもそれよりケイ!ふらっと帰ってきたと思えば何も謝罪もなしにミーティングなんてびっくりしたんだからね!」
「わ、悪かったよ!さっきも説明した通り緊急事態でな!つい忘れてたよ!」
「まぁ、たしかに気持ちはわかるから今回だけは許してあげる!それよりシルファとアイリスにもあの事話したら?」
「さ、最初からそうするつもりだったよ!シルファ、アイリス実はな……」
アイリスとシルファが戸惑っている中、ケイにその詳細を説明する。あまりの事の大きさに驚いたのか二人にしては珍しくパニックになっていた。
「えっ……ど、どうしましょう!?どうしましょう!?ケンカしてる場合じゃないです!!アイリス!!」
「ま、待ってよ!本当に明日そんな大事件が発生するの?!私の部隊明日オフでもう解散してるのよ?!?!」
「お、落ち着け!二人とも!一応さっき陛下には説明した!だからアイリス部隊にももう連絡がいっている!今から城内に戻るって!!」
「な、ナイス!ケイ!!」
「アイリスの部隊にもサイ、アロン、ジュリーを中心しチーム編成をしてほしいんだがいけるか?!」
「も、もちろんよ!!ありがとう!すぐいくわ!!」
アイリスが走って去った後、ケイは今度はシルファの方を見て、お願いする。
「シルファにもお願いがある!」
「は、はい!なんでしょうか?!」
「ロイとジョーカー、アクアに事の詳細を説明してもらえるか?!多分まだ城内にいるだろ?」
「わ、わかりました!!」
こうしてシルファとアイリスが急いで今自分がやるべき事のためにそれぞれの場所へ向かう。今廊下にいるのはケイとフィオナだけだった。
「はぁ……な、なんかどっと疲れた!明日世界の命運をかけた戦があるっていうのに!」
「シルファとイチャついて自業自得よ!!バカ!それより明日勝つわよ!!」
「当たり前だ!それに今の俺は負ける気がしない!」
「な、なによ!自信満々ね!なんかあったの?!」
「……さぁな。」
フィオナの疑問に、ケイは目を反らして素っ気なく返事をする。実はケイはルーチェと会ったことと太陽の翼の事を誰にも話していない。未来を大きく変える可能性のある会話はあまりしないほうがいいとルーチェに言われたからだ。そしてできればダークネス・ジャイアントの復活自体を阻止し太陽の翼は温存するつもりだった。
「ま、まぁ!自信があることは頼もしいことだわ!いざとなったらあんたがなんとかしなさい!!」
「わかったよ!あと何かあったら俺の名前を叫べ!!どこにいようが必ずフィオナのもとへ行くから!!」
「……ふぇ?!な、なに急にカッコつけてるのよ!!バカ!!そんな恥ずかしいことしないんだから!」
真剣な表情でそんなことを言うケイにフィオナは顔を真っ赤にする。フィオナは心臓の鼓動が激しく高鳴りもうケイの顔をまともにみれなかった。そんなフィオナにケイは言いたいことをはっきり言う。
「バカはお前だ!今回の敵はわけが違う!命懸けなんだ!!大切な仲間を守るためなら俺はなんだってする!!だからいざとなったら叫べ!俺の名を!俺はお前を必ず守るから!!」
「っ!!……わ、わかったわよ!!もう!!」
「ああ!約束だ!!明日よろしくな!さっきもいったが必ず勝つぞ!」
「う、うん!」
そう約束しケイはフィオナの元を去っていく。フィオナはというと男らしい真剣な眼差しで気持ちをはっきり伝えたケイの事を思い出して顔を真っ赤にさせていた。心臓の鼓動の高鳴りがおさまるまで廊下に立ちすくむ。そして誰にも聞こえない声で不思議な独り言を呟く。
「……俺はお前を必ず守る、か……忘れてるみたいだけどずっと変わってないのね……あの時から。しょうがないからこの戦が終わったら、あなたにずっと言っていなかったこと……教えてあげる……ケーちゃん……」




