第84章「オリオン座」
「さてと……もう21時か。シルファを無事にトラモント城に送ったことだし、1人で酒場で少し飲んで帰るとするか……」
別荘で夕食を食べ、少し休憩した後ケイとアクアはシルファを城に送ったのだった。アクアとも解散し、ケイは夜1人で歓楽街の人混みの中歩いていた。
「夕陽処は混んでそうだし、今日は違うところに……」
「見つけた……ケイ、君を探していた……」
ケイは自分の名前が呼ばれたことに気付き、後ろを振り返る。その顔を見てケイは驚く。というのも自分にそっくりな顔をした人間だったからだ。そしてどういうわけか周りの人には見えていないようだ。ケイは自身にそっくりなその人に尋ねる。
「……何者だ?」
「……ルーチェ=アポロニア。ケイ。君は持っているのだろう?僕と同じ太陽のエネルギアを……」
ケイは彼の名前を知り、目を見開く。ちょうど先ほど父親との昔話を思い出したばかりだからだ。ケイはルーチェに尋ねる。
「……俺に何のようだ?」
「単刀直入にいうとね、僕とこのあと戦ってほしい。」
「……嫌だね。こんな夜遅くに俺はそんな面倒臭いことしたくないな。」
「もし拒んだら君が最も愛するシルファ=トラモントに僕が危害を与えるとしてもかい?」
「な、なんだとっ?!な、なぜシルファとのことを知ってる?!」
ケイは一気に目の前の得体の知れない男を警戒する。ケイのエネルギアの高まりを感じたのかルーチェは不敵な笑みを浮かべ、言葉を口にする。
「ふっ……少しはやる気になったかい?戦ってくれるよね?」
「……わかった。ただし戦ったらシルファには危害を与えないことを約束してくれ。それが条件だ。」
「ああ!約束しよう。……21時30分オリオン座という映画館で集合だ。」
「……はっ?映画館?それはどういう……」
ケイが何か言おうとした時、目の前にいたはずのルーチェは消えたのだった。一体どういうことなのか理解できなかった。ケイは動揺した様子で独り言を呟く。
「なぜだ?あんな廃墟の映画館に一体何が……だがもし行かなかったらシルファが危ない!行くしかない……!」
そう呟き、ケイはその映画館へと歩いてむかうのだった。ケイは歩きながらずっと考えていた。ルーチェ=アポロニアという男について。
(それにしても奴は一体何者なんだ?父さんが前に言っていた名前と同じだ。……偶然なのか?)
そんなことを考えながら裏通りを歩いていくうちに、オリオン座に到着する。時刻は21時半ぴったりである。こんな夜遅くにこの不気味な廃墟化した映画館に近寄る人間はケイ以外いなかった。
「誰もいない……中にいるのか?」
ケイはそう言い中に入っていく。そして中には先ほど顔を合わせたルーチェ=アポロニアがいたのだった。ケイはルーチェに尋ねる。
「……どういうことだ?まさか映画館で戦うとか言わないだろうな?」
「来てくれてよかったよ。……安心してくれ。そのつもりはない。こっちだ。」
ケイはルーチェについていく。その場所はこの時間に上映しているはずもないスクリーンの目の前だった。ルーチェは不思議なことを呟く。
「……そろそろだね。」
「何を言って……」
ケイがルーチェに尋ねた時だった。真っ暗だったスクリーンが急に光はじめ、ケイはスクリーンの中に引き込まれたのだった……




