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第84章「太陽の翼」

「へぇ……ここがケイの別荘!スッゴい立地いいわね!私、海が好きだから気に入ったわ!」

「それはどうも!……な、なぁシルファ機嫌直せよー……」

「ケ、ケイとの二人の休日が……うぅぅ……」


3人は買い物を終えた後、西海岸沿いに立つケイの別荘に到着する。小さなコテージではあるが、みはらしが何よりよかった。ベランダからは絶景の海が見渡すことができ、また夕方になれば絶景の夕陽が観ることができるであろう場所だった。その後ケイが鍵を取り出しドアを開け、3人は中に入る。


「……お、おしゃれー!!え、いいわねーー!!まるでカフェみたい!!」

「まぁ俺インテリアについては少し独学で勉強したからな!喜んでくれてよかったよ!」

「わ、私とケイの秘密の場所……言ってしまった私が馬鹿でした……」


アクアは大喜びする一方、シルファはミスをしてしまった後のような表情をしていた。それからアクアはキッチンへ行く。昼食の準備に取りかかるのだった。


「ケイ!キッチン借りるわよ!!」

「ああ!ありがとな!アクア!」

「……わ、私もキッチン借ります!」


シルファのその一言にアクアは急に顔を青ざめ尋ねる。いったい何をするつもりなのかと。


「え……?シ、シルファ?な、何してるの?」

「決まってます!私も料理作るのです!」

「げっ!…………わ、私1人で十分よ!シ、シルファは休んでていいわよ!」

「やります!!アクアには負けませんから!」


それからキッチンにいたアクアはまるで瞬間移動したかのようなスピードでケイの元へいき、ケイの胸ぐらを両手で掴む。


「ケ、ケイ!シルファの料理、今すぐやめさせなさい!」

「はっ?い、いきなりどうしたんだよ?!」

「あ、あんたシルファの料理食べたことあるの……??」

「いや、ないが?ん?どうしたんだ?アクア!」

「……シ、シルファの料理は殺人兵器よ!まずいで済む次元じゃないんだから!前に陛下がシルファの料理を食べて死にかけたのよ!?命にかかわるわ!」

「はっ?……いやいや!シルファに限ってそんなことないだろ?」


それからケイは一応シルファの様子を見に、キッチンへ向かう。シルファは鼻歌交じりに楽しそうにもう料理を始めていた。


「玉ねぎとにんじん、鶏肉、じゃがいも……カレーライスか?」

「はい!!あまり料理はしたことありませんがカレーは自信あります!ケイは辛めが好きでしたよね?」

「ああ!ありがと!作ってくれて!楽しみにしてるよ!!」

「はい!任せて下さい!」


ケイはそう言いリビングにいたアクアの元へ戻る。そしてアクアに伝える。


「……普通だったぞ?カレーライス作るみたいだ。」

「ほ、本当に?ならいいんだけど……」


アクアはケイの感想に答えた後、キッチンへ戻る。さりげなくシルファの料理を覗き、驚きのあまり目を見開く。シルファは楽しそうに独り言を言いながら大量のスパイスを鍋に入れていた。


「スパイスは大事ですよね……唐辛子、カラシ、冷蔵庫にあったわさびも全部入れましょう!あ、このソース結構辛いって誰か言ってましたね!これも全部入れましょう!それに隠し味にハチミツ……たしかカレーに合うと聞いたことがあります!それからそれから……」


スパイスを何かわからないまま手当たり次第辛いものを鍋に入れていくシルファを見てアクアはドン引きする。


(ど、どこが普通よ!!絶対ヤバいわよ!!あれ!!わ、私は知らないわよ!!)


アクアは何も見なかったことにし、自身の料理を進めていくのだった。



時刻は14時30分。リビングのテーブルにシルファとアクアの料理が並ぶ。どちらも美味しそうだった。


「シルファはカレー、アクアはパエリアか!!どっちも美味しいそうだな!!」

「でしょ?!食べたら感想聞かせてね!!……ちなみにシルファに聞くけど味見はしたのよね?」

「いえ!ケイに一番最初に食べて欲しかったので!ですが自信作ですよ!」

「そ、そう……」

「シルファ!アクア!ありがとな!じゃあ食べるぞ!いただきまーす!」


ケイとシルファは最初にアクアのパエリアを口にする。その味は高級レストランで出てくるのではないかと思えるくらい美味しかった。二人はアクアに笑顔で感想を伝える。


「めちゃくちゃ美味しい……プロの料理みたいだ!」

「は、はい……そうですね!アクア、料理上手かったんですね……びっくりです!」

「口にあってよかったわ!家にはアスカとレイラがいるからね!自然と上手くなるわよ!ふふっ!」

「そっか!アクアと結婚できる男は幸せだな……こんな美味しい料理を食べれるんだから。」

「ふぇっ?!な、何いってるのよ!!」


爽やかな笑顔でそんなことを言うケイにアクアは顔を真っ赤にさせる。心臓の鼓動がバクバクと高鳴る中、アクアは目をそらしながら恥ずかしそうにケイに言う。


「そ、そんなに喜んでもらえるなら……ケイにならまた作ってあげてもいいわよ……」

「ほんとか?!ありがと!楽しみにしてる!」


一方アクアがケイにデレデレしている様子を見て、シルファは嫉妬を露にする。頬っぺたをムッと膨らませたあと、まるでアクアに対抗するかのようにケイにカレーを食べるよう促す。


「ケイ!アクアのパエリアより、絶対私のカレーのほうが美味しいですから食べてみてください!」

「お、おう!たしかにシルファが作ったカレー、見た目はスッゴく美味しそうだ!いただきます!」


シルファに言われた通り、ケイはカレーをスプーン一杯にすくい口にする。そして……


「ね、ねぇ……!?シ、シルファ?!?!……ケイ、気絶してない?!?!」

「……本当ですね!!きっとあまりの美味しさに感動して気絶したのかもしれませんね!!」

「そ、そんなわけないでしょ!!あ、あんたも食べてみなさいよ!!」

「へっ?!……わ、わかりました!私も食べてみます!絶対美味しいですよ!!」


そういいシルファもカレーを一口食べてみる。それからはケイの時と同じ展開だった。シルファもスプーンを床に落とし気絶するのだった。


「……よ、よかったわ、私は食べなくて……ってよく考えたらこの状況どうするのよ!!」


嫌そうな顔をしながらなんだかんだ面倒見の良いアクアは何とかシルファを寝室のベッドまで運び寝かせる。それからリビングに戻り椅子に座ったまま意識のないケイをしばらく見つめる。


(や、やば……ま、間近でみると本当に綺麗な顔ね……)


アクアはケイに自然と引き寄せられ、唾をごくりと飲み込み呟く。


「……だ、誰もみてないわよね……??」


アクアは周りをキョロキョロと見渡した後ケイの顔に自身の顔を近づける。そして顔を真っ赤にしながらケイの頬に優しくキスをするのだった。



時刻は18時。ケイはやっと意識を取り戻す。椅子に座りながら気絶していたことに気付き、周りを見渡すとアクアとシルファが心配そうな顔をしていたのだった。


「あ!やっと目を覚ましたわね!よかったわー!」

「ケ、ケイ……!!だ、大丈夫ですか?」

「……ああ!大丈夫だ!今何時だ?」

「もう18時よ。シルファもさっき目を覚ましたのよ!」

「シ、シルファもカレー食べて気絶してたのか!大丈夫か?」

「わ、私は大丈夫です!それよりごめんなさい!ちょっと失敗してしまったみたいで……」

「ちょ、ちょっとじゃないわよ!あ、あの後あなた達の看病で私がどれほど大変だったか……それにもう夕食の時間よ。まだほとんど食べてないパエリアあるからそれにしましょ!」


それから3人は夕食を食べながら、先ほど図書館で読んでいた本についての話をする。アクアは二人に興味深そうに尋ねる。


「そういえば二人はさっき図書館で何の本を読んでいたのよ?」

「『英雄は夕陽に輝く君のために』という本です!私、あの本が一番好きなんです!」

「あー!懐かしいわね!私も小さい頃から知ってるわ!あの謎の日記よね!?ダークネスジャイアントと戦った太陽の翼を持つ英雄の!」

「そ、そうなんです!まさに私達が今生きているのはその英雄様のおかげだと思うとなんだか凄いなと思いませんか?」

「たしかにね……まぁ本当にそもそもダークネスジャイアントとその英雄が実在したかも怪しいけどそれでもロマンあるわよね!」


シルファとアクアが盛り上がっている中、ケイはアクアの『太陽の翼』と言う言葉が頭に残っていた。その理由は亡くなった父との、忘れかけていた昔の会話について思い出したからだ。


(とおーちゃん!この力は何?)

(ははっ!ケイ!詳しくはわからないがお前のそれはルーチェ=アポロニアという英雄と同じ力のようだ。前に冒険した砂漠のオアシスに、そういうのに詳しい友人がいてな。その友人いわく『太陽の翼』と言っていたが何のことかはとーちゃんにもわからん。)


「まさかな……」

「どうしたんですか?ケイ?」

「いや何でもない。」


シルファとアクアはそんな奇妙なことを呟くケイを不思議に思うのだった……

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