第80章「アクアの初恋……憧れのバイオリニスト(前編)」
「きゃあああー!!お、おねーちゃん!!!た、大変だよーー!!」
「……レイラさんどうかしたんですか?」
「んー……うるさいわねー。どうしたのよ?今日は休日よ。しょうもないことなら昨日の任務の疲れでまだ眠いんだから寝かせてよ……」
新人戦から約1週間たったある日の朝7時半。アクアの部屋に住むレイラは朝からよほど驚いたのだろう悲鳴をあげていた。アスカとアクアは一体何事かと布団から起き上がる。
「あのZEROが今度復活するって!!!!メンバー5人の新グループ『サザンクロス』を結成して1週間後、カーラ橋で急遽ライブするのよ!!これ見て!!!!先着1000名様だって!!」
「えっ?」
アクアはレイラの一言に一気に目が覚める。布団から勢いよく飛び出し、そしてレイラの携帯の画面を覗きながら真剣な表情で尋ねる。
「レイラ!?!?これ本当なの?!?!」
「あのー……アクアさん、レイラさん、ZEROって誰ですか??」
アクアとレイラが異常に興奮した様子を疑問に思い、アスカが尋ねる。そしてアクアがそれに泣きそうな表情で答える。よほど嬉しかったのだろう。
「仮面を身に付け誰もその正体を知らない伝説のバイオリニスト、ZERO……!数年前は出された全曲が社会現象になるくらい売れたのよ!トラモント月間曲ランキングも全曲首位!その経済効果は1年間で約900億のお金が動き『傾国のバイオリニスト』と言われてるわ。でも人気絶頂の時、なぜか姿を消したの……そのZEROが急に復活するだなんて……!!それよりレイラ!今すぐライブチケット予約して!!早く!!」
「や、やってるわよ!!とっくに!!でもネットへのアクセスが集中しすぎて全く携帯が動かないの!!」
「す、凄い人気なんですね……」
一方ケイは休日にも関わらず朝から秘密にとある場所へ向かっていた。防音対策がされた音楽スタジオである。そして目的地に8時頃到着する。
「おはよう!ラキ!ボルグ!グレン!」
「おはようございます!ケイ様!あとはウルだけです!」
ラキはとても嬉しそうな表情で挨拶をケイにする。ボルグとグレンもまさかこのようなことになるとは夢にも思わなかったと思いながらもなんだか楽しそうだった。グレンとボルグは先日ケイの正体を知り、思ったことを言う。
「まさかケイがあの伝説のバイオリニスト、ZEROだとわね……初めて聞いた時、僕は自分の耳を疑ったさ。ボルグは知ってたか?」
「いや……知らなかったぞ。ずっと元々ファンだったんだぞ。まさか憧れだったアーティストがすぐ近くにいたとは……ははっ!人生何が起こるかわからんな。」
「本当にありがとな!二人とも!俺のわがままに付き合ってくれて……どうしても普段世話になっている奴にお礼したくてな。」
「いやケイ!こちらこそ光栄だよ。しかし趣味でギターを6歳からやってたとはいえ、こんな形で役に立つとはね!」
グレンが照れくさそうにそう言った後、ケイはグレンのギターの腕を素直に褒める。
「いや、俺は普通にびっくりしたぞ!グレンがそんなにギターが上手いと思わなかったからさ。」
「ははっ!好きこそ物の上手なれってところさ。ボルグのチェロも凄いね。何年やってたんだい?」
「12年だ。まぁ騎士になってからは練習する頻度が減ったがな。」
そんな会話をしている内にウルも遅れて到着する。よほど急いで走って来たのだろう。いつもクールなウルは息を切らしていた。
「はぁ……はぁ……す、すまない、みんな。遅刻して。ファンの女の子に囲まれて身動きがとれなかったんだ。」
相変わらずモテモテなウルにケイは気にしてないさといった表情で挨拶をする。
「おはよう、ウル!いや気にしてないさ。逆にこんなことに付き合ってくれることに感謝してるくらいだからな。……よしっ!それじゃピアニストも揃ったことだし、今日もみんな練習するぞっ!」
『了解!!』
こうしてライブに向けてサザンクロスの練習がその日夜まで続いたのだった。
夜20時。アクアとレイラは部屋で朝のハイテンションに代わってかなり落ち込んでいた。
「はぁ……売り切れ……見に行けない……」
「お、おねーちゃんごめん……もう少し早く私が起きてれば……」
「ふ、二人とも元気だしてください……またきっとチャンスありますよ!」
そんなアクアとレイラを見てアスカが励ましの声をかけた時だった。携帯に一通のメールがアクアのもとへ届く。シルファからだった。
『~アクアへ~
お休み中すみません!前にアクアが話してくれたZEROのライブチケット、当たってしまいました!そしてケイ、ウルさん、ラキさん、ボルグさん、グレンさんも当たったみたいですが、その日用があって観に行けないそうです!そのため5枚のチケットが余っています。良かったら3枚はアクア、レイラ、アスカに差し上げようと思うのですがいかがですか? あともし行くのでしたら是非とも一緒に行きませんか?席も一番前で隣みたいですし!
~シルファより~』
そのメールを観てアクアとレイラは歓喜の叫び声を上げる。相当嬉しかったらしい。
「きゃあああー!シルファ!いや、神よぉぉ!」
「やったねぇーー!!おねーちゃん!!ずっとずっと会えるこの日を待ってたんだからぁぁーー!」
「し、しかも一番前の特等席……姫さま凄いです……」
こうしてシルファと3人は奇跡的に一週間後サザンクロスのライブに行くことが決まったのだった。




