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第78章「感動!打ち上げは夜桜と共に……(後編)」

「綺麗な夜空にソメイヨシノの桜……本当にさいっこうね!!来てよかったぁぁー!!うーん!お酒がつい進むわー!」

「遅刻してきたくせにあんたが一番楽しんでるわね……まぁ、ふふっ!たしかに来てよかったわ!いつもより何倍もお酒が美味しく感じるもの!!アイリスーー!今日は飲むわよぉー!!」


満月と無数の星が煌めく夜空の下でアイリスとアクアはレジャーシートに座りながらそんな会話をしていた。それを見たケイとフィオナは楽しそうでよかったと思うのだった。


「おっ!アイリスも楽しんでるようだ。フィオナ!企画して本当によかったな!」

「うん!!ケイ!本当に花見はナイスアイデアね!!ちょっとだけ褒めてあげる!」

「ははっ!なんだそりゃ!」


ケイとフィオナがそう言う中、隣のレジャーシートに座るタイガが絡んでくる。もうすでにお酒ででき上がっていた。


「おぉぉ!ケイぃぃーー!フィオナぁぁーー!飲んでるかぁぁ?!ほれほれっ!もっと飲むぞぉぅ!」

「うわ……タイガ、もう何杯飲んだんだよ?」

「さっきエミリアと何杯も乾杯してたものね!でもまだまだよね!!ケイ、タイガ乾杯するわよ!かんぱーい!!」

『かんぱーい!!』


一方少し離れたレジャーシートではシルファとハクがケイの話をしていた。


「あ、あの!ハクはケイと幼なじみなんですよね?!」

「せや!あの男、姫様に迷惑かけてへんか?」

「い、いえ!逆にいつも助けられてばかりですよ!……そ、それにしてもケイとは仲がいいんですね!」

「ま、まぁ……孤児院にいた頃ウチがずっと面倒みとったからな!ホンマにケーくんはウチがおらんとダメダメなんやから!!だいたい毎度毎度どれだけ……」


ハクはケイのことを悪く言いながらも顔を少し赤くしながらなんだか嬉しそうだった。シルファはずっと聞きたかったことをハクの耳元で単刀直入に尋ねる。


「あの……好きなんですか?ケイが?」

「……へ?」


効果は抜群だったらしい、ハクの顔は一気にトマトのように真っ赤に赤くなり、目を見開く。ハクは心臓の鼓動が高鳴り手も震えていた。そしてシルファに動揺しながら大声で答える。


「なぁっ、な、な、何言うとるん?!?!た、ただの幼なじみやっ!!そんなんありえへんからっ!!」

「そ、そうなのですか?あまりに楽しそうにケイのことを話すので私はてっきり……」

「ち、ちゃう、ちゃう!!か、勘違いしんといてや!!あ、あの男は弟みたいなもんやっ!!」


と言いつつもハクは今ケイの笑顔で頭が一杯だった。心の中でケイのことは好きではないと言い聞かせながらもドキドキが止まらなかった。一方シルファはハクの返事を聞き安心したのかほっと胸を撫で下ろす。


「よ、よかった……これで安心です……」

「ど、どないしたん?」


ハクの質問にシルファは夕陽のように純粋でまぶしい笑顔でケイへの気持ちをハクにだけ聞こえる声で伝える。


「私ケイのことが好きなんです!内緒ですよ……」

「……えっ?!そ、それってどういう……」


ハクがそう尋ねると同時にシルファに酔っ払ったルナが抱きつき絡んでくるのだった。


「シルファ殿は本当にぬいぐるみみたいでかわいいですぅぅー……でへへ!」

「あ、あのルナさん?大丈夫ですか?あ、あとほっぺたぷにぷにしないでください……」

「ちょ、ちょい待ちぃーや!!まだ姫様との話が……」


一方ハクもまたウルとエミリアに話しかけられるのだった。


「やぁハク!久しぶり!」

「……なんや!?ナンバーズ・ワン……ウル=グレイシヤ!二つ名は『アイス・エンペラー』やったか??ずいぶん出世したもんやな!」

「ははっ!色々な運が重なってね!それより試合観てたよ!やっぱり強いね!」

「当たり前や!この部隊で最強はジブンかウチやろ!いつかナンバーズ・ワンの称号奪いとったるわ!覚悟しときーや!」

「ああ!その挑戦いつでも待ってるよ!」

「ちょっとーハク?私のこと忘れてる?私はあなたがナンバーズ・フォーに納得してないんだからね!!」


ハクはエミリアを見て不思議そうな顔で尋ねる。それはエミリアの高いプライドをへし折るのにぴったりな言葉だった。


「……ジブン誰なん?」

「あ、あ、あんたっ!私の名前すら覚えてないの?!あーそう!!私なんか眼中にもないってことなのねっ!」

「……えーと、お、思い出したで!!アイリス部隊のマリアンヌ=ミミガーやろ?!なんでここにおるん?!」

「い、一ミリたりともかすってないわよっ!!そ、そんな名前の人、アイリス部隊にもいないし!きぃーー!本当ムカつくわーー!!絶対あんたにだけは負けないんだからっ!!あと私の名前はエミリア=オルコットよ!!二つ名は『ファントムミスト』!覚えておきなさいっ!!」

「あーナンバーズ・ファイブの……そんなことより!」


ハクはケイを見つけるやいなやすぐにレジャーシートから立ち上がり歩いて向かって行く。ちょうどケイは楽しそうにアクア、レイラと飲んでいた。アクアは今のケイ部隊について自身が素直に思ったことを話していた。


「ケイ!それにしてもあんたの部隊すごいわ!本当によくあんな凄いメンツ集めたわね!それに新しい制度をどんどん取り入れてて本当にどっちが先輩なんだか……」

「いや俺の方こそアクアに学ぶこと多いぞ?」

「えっ?」

「部下とのコミュニケーションの取り方や統率力とかそういうのは勉強になるよ。あとなんだかんだアクアは優しいから面倒見もいいよな!俺がわからなかったこともすぐに教えてくれただろ?先輩として本当に尊敬してる……いつもありがと!」


ケイは初めてアクアに自分の素の笑顔をみせ、感謝の気持ちを伝える。アクアはケイの儚げで優しい笑顔を見て一瞬ドキっとするのだった。


(……あ、あれ?今……っ!!わ、私はおちないから!!絶対!!シルファを応援するんだから!それに4歳も歳下に私が本気になるはずがないっ!)


そんな姉の姿を見て、レイラは少し顔を赤くしながら思ってしまう。


(……や、やっぱりお姉ちゃんと私は同じ血が流れてるのね!そんなところは似ないでよ……!!)


「ん?レイラ?どうかしたか?」

「い、いえ!なんでも!……そういえば前から気になってたんですがケイ様はどうして二つのエネルギアが使えるんですか?」


レイラは気を紛らわせるためかパッと思いついた質問をする。


「ああ!それは父がトラモント王国出身で母がムーンアイランド出身だからかな。俺は二つの異なる次元の血が混ざったハーフなんだ。それが多分影響してると思う。」

「ム、ムーンアイランドって無人島じゃないんですか?!それに異なる次元って……」


レイラがそう尋ねた時だった。


「ムーンアイランドはこの地球上にはないで。みんなが見とるんはただの幻や。なぜならパラレルワールドの世界やからな。信じられへんかもしれへんけど……」

『ハク!』


レイラの最後の質問に答えたのはケイではなくハクだった。レイラはハクに尋ねる。


「パ、パラレルワールド?!そんなのただの都市伝説じゃ……」

「嘘ちゃうよ。ウチもムーンアイランド出身やから。」

「えぇぇー!?だからケイ様みたいな不思議なエネルギアだったんだ!」

「あの力は幻とも言われる光系統、月シリーズのエネルギア……ムーンアイランドで約10年に数人産まれる不思議なエネルギアなんや。ウチのは新月の力、そしてまさかケー君が持ってるとは思わんかったで。最強の三日月の力……ハーフやったんやな。」

「わりーな、ハク!ずっと黙ってて。まぁ色々あってな。最近まで秘密にしてたんだ。」


そうケイが言った時だった。もう一人会話に参加してきたのだ。それはアイリスである。


「ねぇ私もその話交ぜてよ!ずっとハクのこと気になってたんだから。」

「なんや?アイリス!なんでジブンがウチなんかのこと気になるん?」

「それは私もムーンアイランド出身だからよ。そして満月の力を持ってるの。」

「え、えぇぇー!?ほ、ホンマ奇跡や……半月以外全員そろっとるやんけ……!」


まさかの事実にハクは驚愕した様子で反応する。アイリスはというとそんなことはお構い無くハクに聞きたかったことを尋ねる。


「それより教えて!なんでハクはこっちの世界にきたのよ?」

「ん?それはウチの両親はムーン・トレイダーやっとたからや。ムーンアイランドは小さい島で食料不足やからトラモント王国のお偉いさんと色々取引しとったみたい。それにウチもわがまま言うて両親について行っとったんや。」

「なるほど……それである日向こうの世界に戻れなくなったわけね。」

「せや!たしか5歳くらいやったか……あの青いヒマワリの絵画が盗まれてもうてな。それにそれだけやない。ウチの両親はタイムトラベラーズに……」

「……ケイと同じなのね。私はケイのお母さんのミコト=ミカヅキ様を探しにこっちの世界にきたの!」

「……ん?ケー君がミコト=ミカヅキ様の息子?ちゃう、ちゃう!ケイ=リュウセイやろ?何いうとんねん!」


基本的に人の話を一切聞かないハクは知らなかった。ハクはアイリスがバカな冗談を言っているのだと思い込んでいた。そんな中静かに話を聞いていたケイが口を挟む。


「本当だぞ?ハク!……リュウセイは亡くなった父の名前だからな。本当の姓はミカヅキだ。あのミカヅキの羽をみただろ?亡くなった母から受け継いだんだ。ずっと言えなくてごめん。タイムトラベラーズを追ってずっと隠してたんだ。まぁ、おかげで奴らに勝つことができたよ!」

「……な、なんやてぇぇーー?!?!じゃあ、ケー君は……ケー君はムーンアイランドではリアルに王子様やないか?!ホ、ホンマなん?それ?!」

「ホンマ、ホンマ!」

「な、何ふざけとんねん!ウチのことバカにしとるん?!」

「た、ただの冗談だよ……だがこれからも気を遣わないで変わらず接してほしい。俺たちの関係にそんなもん今さら必要ないだろ?」


ケイの最後の一言にハクはケイにビシッと指を指し嬉しそうで自信に満ちた顔で答える。


「当たり前や!ウチとケー君は誰にも負けない絆でずっとずーっとつながってきた幼なじみなんや!!せやから今さら気なんて遣わんよ!!ケー君はケー君や!」

「ああ!ハク!ありがとな!」


そんなケイとハクが固い絆で結ばれていることを知り、アイリスは嫉妬を露にする。


「ふーん……つまり兄妹みたいな絆ってことよね?それって。」

「……何がいいたいん?」


アイリスの一言にハクは笑顔でそう答える。ただし目は笑ってなかった。アクアとレイラは一瞬で察知する。これは修羅場だと。ケイはというと危険を感じたのかシルファやラキやボルグ、クルミ達がいるレジャーシートへすぐに避難するのだった。アクアはレイラに小さな声でひそひそと尋ねる。


「ねぇ!レイラ……な、なんか今嫌なスイッチが入った気がするんだけど……ケイなんてとっくに逃げてるし。」

「ア、アイリス様がケイ様のことが好きなのはテレビで試合観てたからわかるけど……も、もしかして……」


アイリスとハクはお互いの探り合いを自然な会話の中でいれる。アイリスもポーカーフェイスのつもりなのかあくまでも表面上は笑顔だった。


「さっきもそういえばケイが試合中あなたのこと妹みたいって言ったしそうなのかなって。あはは、私勘違いしちゃったかな。」

「あ、あんなん冗談やん。そ、それに……も、もー少し深い絆かもしれへんよ。」

「っ!!」


ハクは照れくさそうにアイリスから目を反らし自分の両手の人差し指を合わせながら答える。アイリスは気になって気になってしょうがなかった。二人が昔どうだったのか。声を震わせながらハクに尋ねる。


「へ、へぇ……そ、それはどういうことかなー?ち、小さい頃の記憶は美化されるっていうじゃない。そんなに思い出に残ったことが何かあったのかなー、なんて。」


この質問にハクはしばらく何も言い返さなかった。よほど恥ずかしくて言いづらいことなのだろう。顔は真っ赤で瞳はうるうるしていた。


「ほ、ほらー!や、やっぱり何もないじゃない!ケイもきっと忘れてるわよ!ねっ?!」

「い、一緒に……」


アイリスはこれでトドメにしたかったのだろう。上手く話を丸め込もうとする。しかし逆にこのことが火に油といったパニックを引き起こす。というのもハクは目を瞑って、恥ずかしさを誤魔化すかのようにこう言ったからだ。


「い、一緒にお風呂に入っとたんやからぁーー!!!」

「……へっ?」


アイリスはポカーンとする。目を見開き信じられないと言った表情でそんな反応をする。一方アクアとレイラはというと徐々にトマトのように顔を真っ赤にし、ハクの方に注目する。


「ハ、ハ、ハク……?しょ、しょれは本当にゃの?!ケ、ケ、ケイ様とお風呂……」

「う、うん……」


レイラは鼻血を垂らしながら呂律が回らないほど興奮してしていた。アクアもドキドキしながら体を震わせながらハクに質問する。


「えっ?!?!い、い、いつ一緒に入ったのよ?!」

「さ、最後に一緒に入ったのは10歳の夏……お互い恥ずかしくなってそれで最後……」

「な、なんか思春期に入るか入らないかの甘酸っぱい時期ね……も、も、もちろん!お、お互い水着着ながらよね?!ねっ?!」


アクアは興奮しながら尋ねる。このエピソードで一番気になったことを。ハクはこの質問にこう返事をする。照れながらも優しい表情で。


「……ちゃうよ。お互いうまれたままの姿で……全部全部みとるよ。ウチも……ケー君も……!えへへ……ホンマ恥ずいわ……」

『きゃああぁぁぁーーーー!!』


アクアとレイラが悲鳴を上げる中、アイリスは想像する。幼い頃のケイとハクが一緒にお風呂に入っている姿を。そしてお互い16歳になったケイとハクがベッドで裸でイチャイチャしている姿を。それからアイリスはショックのあまりか、お酒の飲み過ぎかわからないが顔をトマトのように真っ赤にしたまま気絶するのだった。


「……は、は、はだか……ふにぁぁあー……」

「えっ?ちょっと!ア、アイリス?だ、大丈夫?」

「お、お姉ちゃん!アイリス様気絶してる!!」

「……ま、まぁこれで修羅場もおさまるわね、少し寝かせてあげましょ……」

「そ、そうね……」


アクアとレイラがそんな会話をしていた一方、ケイは桜にもっとも近いレジャーシートに移動する。そこにいたメンバーはシルファ、ラキ、ボルグ、クルミである。ケイは酒を呑気に飲みながらボルグとクルミにメンバーについて尋ねていた。


「あー!やっぱりこっちは平和だな……ところでボルグ、クルミ!チームジーニアスとチームシークレットにふさわしい人材集まりそうか?」


その質問に最初に答えたのはボルグだった。


「ああ!ケイ安心してくれ!さっき筆記試験の採点が終わったんだが、飛び抜けて頭のいい奴が数人いてな!そいつらをスカウトするつもりだ。」

「へぇ……それは頼もしいな。それにそいつらがどんなエネルギアを持っているかも気になる。俺が直接スカウトした騎士の能力は全員把握してるが、自己志願で入隊した騎士の能力はまだまだわからないことが多いからな。」

「なるほど…俺はそいつらの能力を知ってるが結構面白い能力だったぞ。期待しててくれ!」

「ああ!期待してる!クルミの方はどうだ?」

「わ、私はまだ……ただ何人かいいかなと思う人はいますが……」

「そうか……まぁ慌てなくて大丈夫だからな!時間かかってもいいがクルミが本当に信頼できるやつをスカウトしてくれ!」

「は、はい!ありがとうございます!」


それから話は変わり、ナンバーズの序列の話となる。ラキはケイに尋ねる。


「ケイ様!話が変わりますが今日の大会でナンバーズの序列はどのように決めたのですか?自分は全く気にしてないのですが、エミリアが妙にハクに対してライバル意識を持ってるようで……おそらくハクが上だったことを気にしてるのかと。」

「ああ!どっちが優秀かとかではないんだ。1人で何人倒したかと時間できめた。」

「な、なるほど!ハクとエミリアは倒した人数は同じですが、ハクの方が早く試合が終わりましたよね。」

「そうだ。まぁ説明不足だった俺が悪いな。レイラが気づいてたみたいだから、みんなも知ってるのかと……ははっ!すまん!」

「い、いえ!そうとわかればエミリアも納得するはずです。」


そんな中ラキとケイが古くからの友人のように仲が良いことをシルファは不思議に感じ二人に尋ねる。


「ふふっ!お二人は仲が凄くいいんですね?何で知り合ったんですか?」


それに対して答えたのはラキだった。よくぞそれを聞いてくれたといった表情をしながら返事をする。


「それはですね!意外かもしれませんが実は音楽関係で知り合ったのです。」

「音楽関係ですか?」

「はい!私の実家では楽器店をやってまして……姫様はご存じないかもしれませんがケイ様は……」

「ス、ストップ!!ラキ!そ、それは内緒だろ?!」

「……はっ!」


ラキは何かを言おうとするが、ケイはストップの合図を出す。ラキはしまったと言った顔をしていた。

二人が何かを秘密にしているとわかり、シルファは気になり尋ねる。


「楽器……ケイはバイオリンが弾けますよね?ラキさんのお店のお客様とかでしょうか?」

「ま、まぁ……そんなところです。ん?……ま、まさかとは思いますが姫様はケイ様の演奏を聴いたことがあるのですか?!?!」

「はい!一度だけ!!アマネセル学園の学祭で一曲弾いてるのを聴きましたけど……」

「な、な、な、なんですとぉーー?!?!ケ、ケイ様!!本当に学祭ごときでケイ様が演奏されたのですか??あなた様が?!」

「あ、ああ……弾いたぞ?」

「ラ、ラキさん?ど、どうしたんですか?」


ラキは学祭でケイがバイオリンを弾いたことを知り、目を見開き驚愕していた。それからラキは興奮した様子でケイの両肩を掴みぶんぶんと振りながら質問責めをする。


「……ま、まさか無料で安売りしたわけではないですよね?」

「い、いや学祭なんだから無料だろ?」

「……ム、リ、ョ、ウ?」

「な、なんで片言なんだよ?!?!」

「な、なりますよ!!だってあなた様は……じ、自分の意志で演奏されたのですか?」

「い、いや?え、えーと、あそこで飲んでいる150人隊長のタイガとフィオナに無理やり出場を迫られてな、それでしぶしぶ……」

「そうですか……わかりました。……あの二人を殺しに行って良いでしょうか?」

「い、いやいやいやいや!!そこまでしなくてもいいわ!!俺も久しぶりに弾けて楽しかったし。」


ラキとケイの会話を聞きシルファは思う。やはりあの時のケイの演奏は凄かったのだと。そしてシルファはラキに言う。


「や、やっぱりケイのあの演奏は凄かったのですね!私もあの時、感動のあまり泣いてしまいました……聴けて良かったです……」


そんな感想を言うシルファにラキはなんだか自分のことのように嬉しく感じる。ラキにとってケイはどうやら憧れのようだ。ラキは落ち着いたのかシルファに謝罪しながら話す。


「姫様、先ほどは取り乱してすみません。……ですがケイ様のバイオリンは本当に凄いですよ。生で演奏を聴けて羨ましい限りです。実は自分はプロのアコーディオン奏者でして、いつかケイ様と一緒に演奏するのが夢なのです。」

「そ、そうなのですか!プロに認められるケイは凄いです!ふふっ!もしそうなったら必ず聴きにいきますね!!」


シルファがそう返事をし、これでハッピーエンドで終わるはずだったがそうはならなかった。ボルグとクルミが余計なことを言う。


「ケイと一緒に演奏といえばよー!ウルもピアノすごかったな。」

「そ、そうでしたね!!それに本当に息ぴったりでした!」

「…………は?……どういうことですか?それは。まさかケイ様がナンバーズ・ワン、ウル=グレイシヤと一緒に演奏したわけではないですよね?」

「ま、まぁ……お、俺がウルに誘われてな……」


ボルグとクルミの発言により、空気が一気に凍りつく。どうやらウルがケイと一緒に演奏したことは地雷だったらしい。


「……僕の夢を僕の夢を僕の夢を……」

「お、おーい……ラキー??」


ケイの呼びかけはラキの耳に届かなかった。ウルへの怒りの感情に支配されていたからだ。そして立ち上がりラキは叫ぶ。


「アマチュア風情があっさり叶えやがってぇぇーーー!!!ウル=グレイシヤぁぁーー!!絶対絶対許さないぃぃー!!」


そう言ってウルとエミリア、ルナがいるレジャーシートへ向かうのだった。そんなラキを見てクルミとボルグ、ケイが呟く。


「……な、なんかラキさんの印象凄く変わりました……もっと落ち着いてて静かなイメージだったので。」

「ど、どうやら音楽の話になると人が別人のようにかわるみたいだな。」

「ま、まぁ悪い奴ではないから、クルミもボルグも仲良くしてやってくれ……」


その後ケイとシルファは一緒にエミリアとタイガ、フィオナがいるところへ向かう。タイガとエミリアは波長が合うのか話が盛り上がっていた。


「あっはははっ!タイガっておもしろいのねー!!ケイの二つ名、それたしかに最高!!」

「いやー!!やっぱりエミリアはわかってるな!ケイのこと!!フィオナも大変だな!頑張れよ!」

「タ、タイガのばかー!!べ、べ、別に好きじゃないんだからぁー!」


おそらくタイガとエミリアはケイの二つ名を考えていたのだろう。だが悪意を感じる。


「タイガ!俺がなんだって?凄くバカにされてる気がしたんだが!」

「よっ!ケイ!ちょうどお前の二つ名を考えていたところだ!!」


ケイの二つ名、それを聞いてシルファが真っ先に反応する。


「ケ、ケイの二つ名ですか……気になります!どんな案が出たのでしょうか?」


その質問に答えたのはフィオナとタイガだった。その表情は共に自信満々だった。


「よくぞ聞いてくれたわね!シルファ!私が考えたケイの二つ名は『パンチマン』よ!」

「究極にダセぇぇーー!フィオナ!!絶対俺は嫌だぞ!!小学生が適当に考えたようなやつだろ?!それ!」

「えぇー?!相変わらずわがままねー!じゃあタイガのはどうかしら?」

「へへっ!俺のは自信作だぜ!名付けて……『イチャイチャ・ガールズハンター』だ!お前にぴったりだろ?」

「えーと……タイガ?何いっちゃってるの?!?!」


そんなタイガの発言にエミリアは爆笑しながらも納得した表情で頷く。それに対してケイは焦った様子でエミリアに言う。


「エ、エミリア!うんうん……じゃねーよ!わ、笑いすぎだ……」

「だってぇケイは女たらしじゃない?優しく女を誘惑してその気にさせる……しかも無自覚で……悪い男ねぇ……!あっはっは!」

「は、はぁっ?!そ、そんなことないよな?なっ!シルファ!?フィオナ!?」

『……』

「ちょっ!?!?ひ、否定してくれ!!」


2人とも身に覚えがあるのだろう。顔を赤くしながら何も返事をしない。つまり否定しなかったのだ。そしてタイガはニヤニヤと悪い笑顔で叫ぶ。


「はーい!それで決ーまりっ!!かんぱーい!!」

『かんぱーい!』

「おい、や、やめろぉぉー!」


皆が悪ノリで乾杯する中、ケイは今日一焦った表情でそう叫ぶのだった。


それからあっという間に時が過ぎ、まさかの急な打ち上げは23時半まで続く。ドタバタと騒がしいものだったが皆なんだかんだで夜桜を最高に満喫したのだった。






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