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第77章「感動!打ち上げは夜桜と共に……(前編)」

時刻は19時半。満月と無数の星が広がる空の下、ケイは1人でアマネセル学園の近くの公園、ヴィクトワール・パークのベンチに座り、コンビニで買った缶チューハイを飲みながら、今日の1日を振り返っていた。


「あー。今日は疲れたな……酒が最高にうまい……」


今日は朝から大忙しだったなとつくづく実感する。筆記試験の準備に、新人戦の対応、疲れないはずがなかった。1人で今日はこの公園で飲んで帰ろう、そう思っていた時だった。携帯電話が唐突に鳴る。それはフィオナからだった。


「……もしもしー?フィオナかー?」

「あ、ケイ?!あんた今どこにいんのよ?」

「ヴィクトワール・パークのベンチで1人で酒飲んでるが……どうかしたか?」

「あんた今暇でしょ?打ち上げするわよ!」

「はっ?明日の任務朝5時からだろ?今日はきつくないか?」


まさかの誘いにケイが戸惑う中、フィオナは夜はこれからといったノリの明るい声で話を続ける。


「なーに言ってるのよ!おバカっ!それは明後日よ!スケジュールは前にタイガと一緒に変更したじゃない!」

「ま、まじか……!忘れてた!!だがどうする?今から空いてる店なんてあるか?」

「たしかに店では厳しいかもね……あっ!私いいこと思いついたわ!あんたが今いる公園、たしか広い芝生あったわよね!!そこで飲むわよ!!」

「こ、公園で?!たしかに今日の夜空は最高に綺麗だからいい考えかもしれないが季節的にちょっと寒くないか?」


無風で暖かいコートとニット帽を着ているため、そこまで寒さは感じないが長時間は厳しいだろう、そんなふうにケイが思っていた時だった。フィオナは自慢気にケイに話す。


「ふふーん!驚くんじゃないわよ!!私実は前に激レアのエネルギアアイテム、『クラシオン』を任務の成功報酬として手にいれたの!」

「な、何?!あれか?!キューブ型の置物みたいなやつだろ?!周りの空気が暖かくなるって噂の!」

「そっ!その公園の芝生くらいの広さならカバーできそうよ!今ちょうど寮の自分の部屋にいるから持って行くわ!これで防寒対策も完璧ね!メンバーはタイガ、アスカ、ナンバーズの7人、グレン、ボルグ、クルミ、それから今日応援に来てくれたシルファ、アイリス、アクアあたりを誘うつもりよ!」

「へぇ!楽しそうだな!まぁそういうことなら急だがやるか!さすがに全員は来れないだろうが……そうだっ!」

「どうかしたの?」


ケイはまさかの激レアアイテムをフィオナが持っていることに感心すると同時にあることがひらめく。


「なぁ!俺すごくいいこと思い付いたんだが、こんなのはどうだ?!」


フィオナは電話越しにケイの案を聞く。そして驚いたのか興奮気味の声のトーンで返事をする。


「……えっ?!それいいわね!!最高だわっ!!絶対にラキにはきてもらわないとね!」

「だよな!ヴィクトワール・パークの芝生エリアに20時半に集合でどうだ?その間俺はレジャーシート、酒、食べ物を調達してくるつもりだ!フィオナも一緒に買い物いくか?」

「なぁっ?!ふ、二人で?」

「ん?そのつもりだが?荷物多くなりそうだし俺としては人手が多いほうが助かる。……あ、もしかしてさすがにこの時間俺と二人で歩くのは嫌だったか?!わ、わりーな、デリカシーなくて!」


(ふ、二人で一緒に買い物……それって買い物デートじゃない……)


フィオナは心臓の鼓動が高鳴る。そして自分でも今の顔見られなくてよかったと思えるくらい顔を赤くする。それから一瞬考え、ケイに電話越しに答える。


「い、嫌じゃないわよ……行くわ!重い荷物は全部もちなさいよね!」

「わかった!この公園の近くにショッピングモールがあるから今から来てくれるか?」

「う、うん!着いたらメールするわ!」

「了解!」


電話が終わり、フィオナは唇に手を当て、照れた表情で自室で独り言を呟く。


「……買い物に一緒に行くだけでドキドキしてたらもたないわよ……」



時刻は20時15分。フィオナとケイは無事ショピングモールでの買い物を済ませ公園へ歩いて向かう。歩きながらケイはフィオナに尋ねる。


「なぁ、そういえばこんなに色々買ったがみんなからの連絡帰ってきたのか?」

「ええ!全員返ってきたわ!グレンとアラン以外は全員くるみたいよ!二人はなんか外せない先約があったみたい!次は絶対行くって!」

「そうか!グレンとアランは残念だが思ったより出席率高いな!盛り上がりそうだ!」

「そうね!まさかこんなに参加するとは思わなかったわ!今日は死ぬほどケイとタイガに飲ませるから覚悟しなさいよね!」

「さ、先に言っておくが、俺はほどよく楽しく飲むぞ!い、言ったからな!!」


そんな会話をしながら夜空のもと歩いていくとヴィクトワール・パークへ行く途中にある酒屋の出口から見覚えのある人物三人が出てきたことに気づく。どうやらお酒を買いに行ってたようだ。ケイはその三人の名前を手を振りながら呼ぶ。


「おーい!アクアー!レイラー!アスカー!」


自分達の名前が呼ばれた方向に振り向き、3人もケイとフィオナに気づくのだった。


「えぇー?!?!ケイ様ーー?!?!……それとお姉ちゃんとさっき観客席で一緒だった人?なんかスッゴいケイ様と仲良さげだけどあの人は?」

「ああ!フィオナね!!ケイ部隊の150人隊長なのよ!」

「ケイさんとは中学からずっと一緒みたいですよ!」

「なぁっ!なんて羨ましいシチュエーション……」


レイラがアクアとアスカにそんな説明してもらった後、合流し一緒に公園へ向かうことになる。歩きながらフィオナは3人に笑顔でお礼を言う。


「アクア、レイラ、アスカ!急な打ち上げに参加してくれてありがとね!」

「私が打ち上げに参加しないわけないじゃない!レイラとアスカも誘ってくれて嬉しそうだっわよ!」

「それはよかった!今日は楽しもうぜ!」


アクアに対してケイがそう答えた後フィオナはレイラと目をあわせる。


「えーと、そういえばあなたにはまだ自己紹介してなかったわね!私はフィオナ=トキハ!!ケイ部隊の150人隊長よ!よろしくね!」

「ナンバーズ・セブン『テンペスト』のレイラ=アズーロです!よろしくお願いします!そ、それよりフィオナさんっ!ちょっと気になることがあるのですが聞いてもいいですか?」

「ん?何かしら?!」


レイラは歩くのを止め一瞬立ち止まる。そして後ろを振り返ったフィオナに勇気を出して尋ねる。


「あ、あ、あの!フィオナさんってケイ様の恋人なんでしょうか?!さっきスッゴい仲良さげだったので気になって!!」

「ふぇ……?!な、な、何言って……!?!?」

「フィ、フィオナと俺が?!」


フィオナはまさかのレイラのド直球な質問に顔をこれ以上ないくらい真っ赤にする。心臓の鼓動が一気に高まり思考が混乱していた。ケイもまた端からみたらそんなふうに見えるのかと動揺するのだった。フィオナは恥ずかしさのあまりレイラから目を反らし、その質問に声を震わせながら答える。


「……つ、付き合ってないわよ!!ケイのことなんてなんとも思ってないんだからっ!!」

「えっ?!そ、そうなんですか?私の勘違いでした!す、すみません!」

「あ、あれ?……な、なんか俺、何もしてないのにフラれた気分なんだが……」


フィオナの答えにアスカとアクアはやれやれといった表情をしながらこう思う。


(……そ、その返事はまずいですよ。フィオナさん……ケイさんも誤解しちゃいます。)

(相変わらず素直じゃないんだから……本当は大好きで大好きで仕方ないくせに……まぁ私はシルファを応援するって決めたからいいんだけど……)


一方レイラはほっとしたのか少し顔を赤らめ嬉しそうな表情をしていた。そして誰にも聞こえない声で静かに呟く。


「……よかったぁ」


そんな会話をしている内に、ヴィクトワール・パークの芝生エリアに到着するのだった。時刻は20時25分、5人は人が集まっている場所に向かう。そして少し離れた距離から手を振る少女に気づく。


「ケイ!」


そう手を振り、ケイの名前を真っ先に呼んだのはシルファだった。相変わらずまぶしい笑顔である。合流した後ケイは尋ねる。


「シルファ!もう着いてたんだな!寒い中待たせてすまん!」

「いえいえ!私もつい先ほど着いたところなので気にしないで下さい。逆に疲れている中買い出しに行っていただきありがとうございます!」

「ははっ!俺は元気さ!それはそうとアイリス以外もうみんな集まったみたいだな。」


ケイは辺りを見回し人数を確認する。そしてフィオナと顔を合わせてうなずき、来てくれたメンバーに伝える。


「みんな!打ち上げ来てくれてありがとな!今寒いと思うが安心してくれ!フィオナがエネルギアアイテムのクラシオンを持ってきている。そして……ラキ!」

「なんでしょうか?ケイ様?」


まさかの自分の名前が呼ばれるとは思わなかったのか戸惑った様子でラキはケイに尋ねる。


「ラキにお願いがあるんだ。この辺りにお前の植物を操る能力で桜を何本か咲かせてくれないか?」

『桜?!?!』


誰もが想定していなかった発言に皆同時に反応する。ラキは驚愕した表情でこう答える。


「た、たしかに時期によっては可能ですが今は2月……!桜を咲かせるには厳しい気温かと……私が薔薇をメインで使うのは薔薇が四季咲きだからです。ですから…………そうかっ!」


ラキは先ほどのケイの発言を思い出し気づく。それがあれば可能であることに。フィオナは皆の方を見て自信に満ちた顔で知らせる。


「ふふーん!気づいたみたいね!!クラシオンがあれば可能よ!今日はこの綺麗な満月と星空の下で花見をするわよ!!」

『えぇぇーー!?』


フィオナが企画を説明した途端、最高にメンバーの間で盛り上がりをみせる。特にタイガは今日一番のテンションだった。


「うぉぉーー!ケイ!フィオナ!お前ら天才かよ!!最高じゃねーか!それ!」

「ホンマやな!やるやん!ケーくん!!これでさっきの『いもうと』発言、チャラにしたるわ!」

「こ、この夜空の中、花見とか感動です……」


ハクとクルミもタイガの盛り上がりに感化されるように一気にテンションが高まるのだった。ウルとボルグもこのサプライズに驚きを隠せなかった。


「いつもケイの発想には驚かされるよ!グレンとアランは悔しがるだろうな!ボルグ!彼らの分まで今日楽しもう!」

「ああ!夜桜を見ながら酒は最高だろうな!今日テストの採点終らせてよかったぞっ!はは!」


ルナとエミリアは親睦を深めるため一軒目の酒場で結構飲んできたようでかなりでき上がっていた。そんな姿を見て周りに心配されるのだった。


「ルナ!あんた大丈夫?!」

「もちろんですぅーー!花見とかサイコー!!アックスさまぁ~!」

「ア、アクアよ!全然大丈夫じゃなさそうね……」


アクアがルナを心配するのと同じようにレイラもエミリアに忠告する。


「ちょ、ちょっとエミリア!あなたももう横になって休んでたら?かなり顔赤いわよ!」

「いーやよ!これからじゃないの!そ・れ・にぃー!私ナンバーズ・ファイブだからセブンのあなたの言うことには従わないわよーん!べーだ!」

「カッチーン!!せっかく心配したのに!だからおばさんは嫌なのよっ!偉そうで!」

「なっ!おばさん?!わ、私が?!言ったわねー!テンペスト!!」

「やってやるわよ!ファントムミスト!」


なんだかんだみんな打ち解けた様子を見て、ケイはふと優しい表情となりシルファに言う。


「なんかいいな……こういうの!」

「ふふっ!そうですね!ケイの周りにはいつも人が集まります!私も今日は楽しませていただきますね!」


いつもよりも楽しそうなシルファを見てケイとフィオナは恐れていることを確認する。


「シ、シルファもちなみにお酒飲むのか……?」

「そ、そうよ!ほ、ほらっ!あんたの好きなオレンジジュースも一杯買ってきたわよ?!」

「ケイ、フィオナ!心配ありがとうございます!ですが今日は久しぶりにお酒を飲みたい気分ですのでジュースは飲みませんよ?」

『…………』


シルファが酒を飲むことが確定し、ケイとフィオナが絶望する中、正面から誰かが走ってやって来ることに気づく。その人物はアイリスだった。少し離れた距離から手を振りながらケイの名前を呼ぶ。


「ケイーー!遅れてごめーん!!」


よほど走ったのだろう。合流した後もしばらく息を切らしていた。ケイは心配した様子でアイリスに尋ねる。


「アイリス!大丈夫か??」

「はぁ……はぁ……う、うん!ケ、ケイ!本当にごめんね!家に着いたら寝ちゃって……」

「アイリスは一回寝たらなかなか起きないものね!」

「ふふっ!今から始めるので大丈夫ですよ!」


フィオナとシルファがそうアイリスを励ました後、ケイはラキへ再び話しかける。


「ラキ!アイリスもちょうど来たし、お願いできるか?フィオナはクラシオンの起動を頼む。」

「かしこまりました!ケイ様!」

「わかったわ!」

「えっ?!ケイ!何が始まるの?!」

「ふふっ!アイリス!見てればわかりますよ!」


アイリスの疑問にシルファが答えた後、ラキとフィオナが叫ぶ。


「はぁぁーー!!咲き誇れ!桜よ!」

「クラシオン!起動!!」


そう叫んだ瞬間、周囲の空気と景色が一気に変わる。それはまるで春だった。4月の上旬くらいの気温となり5本の桜の木がそれぞれ満開に咲く。そして満月と無数の星の光に辺りが照らされ、まさにこれ以上ないくらい美しく幻想的な景色となるのだった。

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