第118章「夕陽に輝く君のキス」
「タイガぁぁーー!!お前の技借りるぞ!!」
ケイはその黄金の羽を羽ばたかせ、上空から親友のタイガに向かって叫ぶ。
「おう!!ぶちかましてこいや!!ケイ!!」
タイガは笑顔で真っ直ぐケイを見てエールを送る。そして闇の巨人に二人の絆の合体技が炸裂する。
「友を守るために光輝けぇぇぇーー!!ダイヤモンドっ!!フィストぉぉぉーー!!!!」
「ヴォアアアアアァァァァーー!!!!」
ダークネスジャイアントの頭上からケイの黄金のダイヤモンドをまとった拳が直撃する。その破壊力は尋常ではなかった。伝説の闇の巨人は頭から粉々に砕け散っていくのだった。
その光景をみた騎士達は驚きに満ちた表情をしていた。アクアは隣にいたアイリスに抱きつき喜びを露にする。
「ア、アイリス!!こ、今度はタイガの技を……凄い!!」
「な、何が起こっているの……?でも今の一撃……さすがに今度こそ!!」
だがそんな喜びも一瞬だった。闇の巨人は再び自身の身体を再生させていく。フィオナとシルファは不死身の化け物を見てケイを心配する。
「き、キリがないわ!何度でも再生するんじゃ……」
「た、多分ですけど……肉体の一部でも残ってたら再生できるのではないでしょうか……」
完全に再生を終えると、咆哮と共に地響きを立てて拳を振り下ろす。
「ぐっ……!」
ケイは黄金の羽を一閃させ、瞬間移動のような速さでその場を飛び退く。
衝撃で地面が裂け、無数の瓦礫が飛び散った。
だが巨人の腕は鎖のような黒い闇に変わり、鞭のようにケイを追撃する。
「あ、アカン!け、ケー君危ない!」
「よけろぉぉぉーー!ケイ!」
ハクとボルグの声のおかげで一瞬速く反応する。そしてケイは敵の一撃を防ぐために仲間の力を再び借りる。
「ちぃっ!そんなこともできんのかよ!!だったら……羽ばたけっ!!無限の水鳥よ!!!ルミナスっ!ブルーバードぉぉぉーー!!」」
ケイはアクアの技をコピーし、闇の巨人の攻撃を凌ぐ。
「う、嘘っ?!ケイ……あなた!!」
「お、お姉ちゃんの技まで……」
アクアとレイラはまさかの技に胸が高鳴る。その表情は顔を赤らめ、少し嬉しそうだった。
それから緋色のオーラが空間を震わせ、ケイの残像が幾重にも走った。
「跡形もなく消し去れば自己再生できないんだろ!?うらぁああああーー!!!!」
「ヴォアアアアアぁぁぁーー!!」
光の拳と闇の拳がぶつかるたび、雷鳴のような衝撃が迸る。
巨人の拳は大地を抉り、ケイの拳は光の矢のごとく突き抜ける。
「ケイの奴、すげぇ……!」
「そうだね。アラン……彼はもう人の域を超えてる……!まさに史上最強の英雄の力だ!」
アランとウルがそんな感想を言いながら見上げる。
しかし巨人の再生は止まらない。
砕けば砕くほどに闇の結晶が膨張し、闇の瘴気がケイを覆おうと迫る。
「……ッ、まずい!」
その時、巨人の眼光が後方にいる少女へと向いた。
シルファ――彼女を見つけた闇の巨人は、不気味な笑みを浮かべると、伸縮自在の黒い触手を放った。
「シルファっ!!」
「ケ、ケイっ!!」
ケイは羽を広げ、瞬間的に割り込む。だが触手の数は十を超え、まるで彼を試すかのように襲いかかってきた。
「この程度で……!」
拳を振るうごとに触手は光の粉と化して砕ける。
一撃ごとにケイの拳は夕陽のように赤く輝きを増していた。
(……わかる。この力は……戦いが続くほどに、俺を燃やして強くする。そして俺は――守りたいものがある!)
目の前で怯えながらも懸命に戦場の最前線で自身を応援するシルファの健気な姿。
胸を締めつけるような感情が、ケイの緋色のオーラを爆発させた。
「俺は……誰よりも大切な人のために負けない!!」
ケイは跳躍した。
黄金の髪が夕暮れのように揺れ、背中の翼は燃え上がる太陽と化す。
全身を包む光は、刻一刻と赤から橙、そして深い夕焼け色へと変わっていった。
「これで……終わらせるッ!!シルファああああ!」
「はいっ!!私のすべての力をあなたに!」
ケイの拳に、シルファの力まで加わり太陽の究極の輝きが宿る。それは日が沈む瞬間に見せる、最も力強く、最も儚い光――。ケイとシルファは同時に叫ぶ。
『レグルス・トラモント・フィストォォォォッ!』
空を裂き、大地を照らす拳が、闇の巨人の胸に直撃する。
『いけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーー!!!!!』
全騎士たちが最後の希望の英雄に声援を送る。そしてその想いに応えるかのように、闇の巨人の胸を貫通し赤と黄金の奔流が全身を駆け抜け、闇の結晶を内側から粉砕する。
「ヴォォォオオアアアアアアアアァァァァッッッ!!!!」
絶叫と共に、巨人は光に焼かれて崩壊し、ついにその巨体を支えきれず跡形もなく消え去った。
爆発的な閃光が収まったとき――聖なる夕陽の荒野に立っていたのは、拳を掲げたケイの姿。サンセット・モードは解除していた。そのケイを見て騎士達の喜びの雄叫びが響き渡る。とうとうケイが伝説の巨人を倒したと確信したからだ。
『うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーー!!!!!!』
ケイはというと、最愛の金髪ポニーテールの姫様にだけ視線を向けて、優しい表情でその名を呼んだ。
「シルファ」
ケイの言葉に、シルファの胸は熱く締めつけられた。
もう我慢できなかった。
駆け寄り、その胸に飛び込み、涙を溢れさせる。
「ケイぃぃーー!!うわぁぁぁん!ほんとに………!怖かったです……!……でも……ケイが私を守ってくれて……あなたが無事で………私!」
「もう……大丈夫だから……シルファ……勝ったんだよ俺達……約束守れたみたいだ」
そのケイの言葉に顔を上げ、涙に濡れた瞳でケイを見つめる。周りが次の言葉を聞こうと静まり返る。そして沢山の騎士達が二人を見守る中、シルファは涙を瞳に浮かべ、想いを爆発させる。
「ケイ……!」
「ん?どした?」
「ずっとずっと世界で一番あなたのことを愛します!!ケイが大好きです!!!!」
涙に濡れた瞳でそう言った次の瞬間、シルファは迷わずケイの首に手を回し、自分から唇を重ねた。
夕陽の光が二人を包み込み、これ以上ないくらい甘く、美しい光景だった。
ケイは最初少し驚いたが、すぐにその想いを受け止めるようにシルファを抱き寄せ、そっと応える。
一瞬時が止まった後、悲鳴が響き渡る。
『え、ええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーっ!?!?』
『きゃああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!』
周囲の騎士たちは一斉に絶叫。
ぽかんと口を開けた者、頭を抱える者、耳まで真っ赤にしてうろたえる者までいた。
「ちょっ、シルファ殿!? い、今なんて!? いや、見えてるけど!!」
「ケ、ケイお前ぇぇぇぇ!!姫様のキスとか、ずるい!ずるすぎる!俺だって一生懸命がんばったんだぞぉぉーー!?!?」
「た、タイガさん……タイガさんが頑張ったのは私が知ってますから!」
「え、何?!クルミ!ちょっとタイガに興味があるの?」
「へっ?!エミリアさん!!ち、違いますよ!!」
ルナは顔を真っ赤にし、タイガは芸人ばりのオーバーリアクションだった。その会話に途中から交ざったのはクルミとエミリアだった。
それからグレンとウルのイケメン二人組がこれは面白いと言った表情で会話していた。
「ケイはアイリス様とアクア様、どちらかと恋仲になると思ってたんだけどね!まさか姫様とは!ははっ!面白くなってきたと思わないかい?ウル!」
「そうだね!グレン!……そうだ!誰とケイが付き合うか賭けをしないか?負けたほうが一杯奢るってことで」
「いいね!!のった!」
勝手に賭けの対象にされていることなどケイは全く知らずに、不思議そうな顔で落ち着いた口調で言葉を口にする。
「……な、なんだよ。み、みんな知らなかったのか?もう何度も前から言われてたからそろそろ周りも気づいてるのかと思ってたんだが」
ケイが顔を赤らめ照れながらも淡々と答えると、さらにその他の騎士たちの混乱は加速した。
「はあぁぁ!? 前から!? しかも“何度も”!?」
「全然知らなかったんですけど!? 我々だけ蚊帳の外!?」
「ちょ、待て待てケイ様! モテすぎですよ!!」
「でもお似合いよね……羨ましいわ」
シルファは顔を真っ赤にしながらも、ケイの腕の中から小さく笑った。
「ふふっ……ケイ……いいですよね?もう隠さなくても……私がケイが大好きなこと……」
『きゃああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!』
再び悲鳴があがる。特に恋愛好きな女性騎士達は皆大パニックだった。
そんな中ケイは苦笑しつつも、彼女のその言葉に髪を撫でながら答えた。
「……まったく、お前には敵わねぇな」
永遠に輝く夕陽の中、騎士たちの驚きの声と、二人の甘い空気が溶け合っていった。
これで一件落着……ケイとシルファはそう思っていた。
だがケイとシルファはこの時知らなかった。ケイに想いを寄せる女性陣達がこのあと大暴走することに……




