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第117章「夕陽のキズナ」

「……ケ、ケイ……なの……?」


アクアの瞳からも、堰を切ったように涙が溢れ出す。彼女は嗚咽をこらえながらも、喜びに震え、心の奥底から込み上げる想いを抑えきれなかった。


そしてその神々しいケイの姿を見つめるうち、ふとアクアの脳裏に一つの物語が蘇る。この前ケイとシルファと3人で話をした不思議な日記――『英雄は夕陽に輝く君のために』。そこに登場する「太陽の翼の英雄」。いま目の前にいるケイは、まさしくその姿と重なっていた。


「……嘘……ケイ……あなた……」


アクアの呟きは、感嘆と驚愕とで震えていた。


そのとき、戦場を駆け抜ける二つの影があった。

金髪を高く結ったポニーテールの少女であるシルファ。そして赤髪のショートを揺らす、鋭い眼差しのフィオナ。 二人は涙を浮かべ息を切らしながら、アイリスとアクアの立つ場所へと駆け寄ってくる。


「ア、アイリスっ!!アクアっ!!無事で……本当によかったです……!!」

「も、もう!!二人とも心配したんだからっ!!バカぁっ!!」


シルファとフィオナが感情を爆発させる。アイリスとアクアは涙を拭いもせず、そんなシルファ達に問いかけた。最初に尋ねたのはアクアだった。


「シルファ……あれは……ケイのあの翼はまさか!」

「そうです……かつてダークネスジャイアントを倒したと言われる伝説の太陽の翼です……」

「な、何よ……太陽の翼って!?フィオナも知ってるの?!」

「……『英雄は夕陽に輝く君のために』って言う有名な日記があるの。その中に登場する英雄の力よ……でもまさかケイも同じ力を持ってるなんて……」


アイリスはムーンアイランド出身ということもあり、初耳だったのだろう。フィオナの話を聞き、驚きに満ちた表情をしていた。


そしてケイはその深い海のように澄み渡る藍色の瞳でこの場にいる全騎士の方を見て、はっきりと伝える。


「みんな……ここまで持ちこたえてくれてありがとう……奴は俺がたおす。」

『!!!!』


その後ケイはシルファに向かって話しかける。彼の目には決意が宿っていた。


「シルファ……」

「は、はい……!!」

「……俺に力を貸してくれないか?今の奴を倒すためにはお前の想いの力が必要なんだ……」

「ケイ……」


昔の臆病な彼女なら、自身にできることはないと戦いの場に立つことを避け、癒しの祈りだけを捧げようとしたかもしれない。だが、目の前で光翼を広げるケイの真剣な表情を見て、シルファの心の中に勇気が溢れるのだった。


彼女は胸の前で両手をぎゅっと握りしめ、深く息を吸い込む。その今のケイと同じ藍色の瞳が、恐れを超えた強さを帯びる。頷いたその姿は、いつもの控えめな少女ではなく――仲間と共に立つ戦士だった。


「ケイ……私も一緒にあなたと戦います!あなたを一人になんてしません!」

「ああ!!行くぞっ!!シルファ!!」

「はい!!……あなたに……力を……」


その言葉と同時に、シルファの全身がまるで夕陽の光のように輝きを放つ。そしてその光はケイを優しく包み込むのだった。闇と光がぶつかり合う中、ケイとシルファの二人の心はひとつになっていた。


ケイの全身に熱が走る。黄金の翼がさらに眩く拡がり、ただの光ではなく、燃え盛る太陽そのものの輝きへと変貌する。


「……エネルギアがみなぎる……これならっ!!」


胸の奥に溢れる熱を、右腕へ、その先へと込めていく。そして右の拳を天へと突き上げた瞬間、声が大地を揺るがすほどに響き渡った。


「――サンクチュアリ・サンセットッ!!」


光が爆ぜる。

黒雲が裂け、闇の夜空が燃えるように紅と黄金に染まる。荒れ果てた大地は一瞬で姿を変え、見渡す限りの荒野が夕陽に照らされる聖域へと変貌していった。そこは死と絶望の戦場ではない。仲間を守り抜くための、ケイの祈りと決意が形になった聖なる夕陽の荒野だった。この奇跡の光景を見て、この場にいた誰もが目を見開き、信じられないといった反応をする。


「な、なんやこれっ!? 闇夜が一瞬で……荒野が夕陽に染まっとるやん!」

「クハハッ! やりやがったなケイ! クソッ、胸が熱ぇ……!さすがオレの親友だぜ!」


ハクとタイガがそう言った後、他の騎士達もそのあまりの美しく幻想的な光景に言葉を発せずにはいられなかった。


「……フッ。やるじゃねぇか。ここまで空間ごと変えるとはな……。」

「ふふ……♡アランにしては珍しく素直に褒めるわね。それにしてもまるで神話の一幕ね。ケイ、あなた……今最高に輝いてるわよ!」

「……確かにエミリアの言う通り君は今最高に輝いてるよ。ケイ、これが君の“守る力”なんだね。俺たちの未来は、きっと照らされる……」


ウルのその言葉の後、レイラは姉であるアクアに向かって涙を流しながら優しい声音で素直な気持ちを伝える。


「……お姉ちゃん……私ケイ様の部隊に入ってよかったわ……誇りに思う……こんな英雄と同じチームでいられることに……」

「……そうね……羨ましいわ……ずっとケイと一緒にいられるレイラが……」


そして夕陽の荒野の中、いよいよケイとダークネスジャイアントの世界の命運をかけた最終決戦が始まる。先手を仕掛けたのは闇の巨人だった。先ほどケイに致命傷を負わせた無数の闇の鎖がケイをとんでもないスピードで襲う。


「ヴォァァァァァァァァァァァァーー!!!!」

『ケイっ!!!!』


味方全員がケイの名前を呼んだ時だった。彼は叫ぶ。仲間の名前を。


「アイリス!!フィオナ!!お前らの技借りるぞ!!」

『えっ!?』


アイリスとフィオナの二人は同時に声をあげる。ケイは夕陽のエネルギアの力により、アイリスの未来予知の力をコピーし闇の鎖が襲ってくる軌道を先読みする。そして……


「黄金の雷よっ!!闇の鎖を打ち消せ!!サウザンド・エクレール・アロぉぉぉぉぉぉーーー!!」


闇の鎖全てとケイが放つ千の電撃を纏った矢がぶつかり合い爆発を起こす。その結果敵の技を打ち消すことに成功したのだった。アイリスとフィオナは驚きのあまり、信じられないといった表情で言葉を口にする。


「……えっ?!嘘でしょ?!今のは私の未来予知の力?!」

「な、な、なんで私の砂鉄に電撃を纏わせた矢を使えるの?!ケイっ!!」

「……お前らが大切な仲間だからだ。」


ケイの言っていることは二人にとっては答えになっていないため、アイリスとフィオナ戸惑いを隠せなかった。そんな中ケイはシルファの方を振り向き自身の想いを伝える。


「シルファ……俺は必ずこの戦いに勝つ。お前がいれば、負ける気がしない……何度だって立ち上がれる……」


シルファは一瞬だけ目を潤ませ、微笑みを浮かべる。普段の控えめな彼女には似合わぬほど、凛とした強さをその笑顔に宿して。


「……はい……私も信じてます……ずっとずっと!だから……この戦いが終わって、平和が戻ったら……また、一緒にデートしましょ!」


夕陽のように頬を赤らめながら、シルファは小さく呟いた。その言葉は、戦場の中で確かな未来を照らす灯火だった。


ケイは静かに頷き、再び巨影へと視線を戻す。彼の瞳には、ただ勝利とその後に待つ約束の景色しか映っていなかった……


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