第116章「あなたに出会い、命輝いて」
「くっそぉぉーー!!並の攻撃じゃかすり傷一つつきやしねぇ!!強すぎんだろっ!?……おいっ!!ロイ!?危ない!!」
「くっ……!!一撃でも喰らったらただじゃ済まないな、これは!!」
「ヴォァァァァァァァァーー!!!ガァァァァァァァァァァぁぁーー!!!」
時刻は24時。騎士達はダークネスジャイアントと激戦を繰り広げていた。サンセットホープズのロイとジョーカーが加勢に加わり、戦力が大幅に強化されたとはいえ、ダークネスジャイアントの勢いは止まらなかった。次第に苦しい展開に変わっていく。
「ラキっ!!お前の植物の力で奴の脚を!!その間に俺の最強の技で仕留める!!」
「はい!!タイガさん!!わかりました!!いきます!!!!……ローズ・ウィップっ!!」
ラキの無数のバラの鞭が闇の巨人の脚に巻き付き、動きが止まる。この僅かな時間はタイガにとって最大のチャンスとなる。
「ラキっ!!よくやった!!あとは俺に任せろっ!!」
「タイガさん!……くっ!!あまり持ちません!!急いで!!!」
「うぉぉぉーー!!!友を守るため、輝けぇぇーー!!!ゴールデン・ダイヤモンド・アーマぁぁーー!!!」
地上に目映いほど輝く光の柱が現れる。タイガはドラグナ戦で見せた奇跡の力を再び顕現させたのだ。その姿は神秘的だった。身体全体が黄金のダイヤモンドに包まれ、闇夜を霞ませる。その輝きを初めて見た騎士達は目を見開き反応する。
「アクア!!な、何?!あれ!!あんなの見たことない!!」
「わ、わからないわ!!タイガ……あなたいつの間に!!」
「アイリス殿!アクア殿!!あれはドラグナを倒したタイガの切り札です!!」
「ダチを助ける為に輝く奇跡の太陽の力だ!!あれならいける!!行けぇぇーー!!タイガぁぁ!!俺はお前のその力を信じてる!!」
ルナとアランがアイリスとアクアにそう説明した後、タイガは驚きに満ちた表情のグレンの名前を叫ぶ。
「グレぇぇぇぇーーン!!!!お前の力で俺を奴の頭上まで飛ばしやがれぇぇぇぇーー!!!!」
「っ……!!なるほどそう言うことかい!!タイガぁぁーー!!受けとれぇぇ!!エアリフトっ!!」
グレンは空気を操り、優しい上昇気流でタイガをふわりと浮かせる。そしてタイガが空中でダークネスジャイアントよりも高い位置に到達した時、重力に従い落下していく。タイガは両手に持った黄金のダイヤモンドを纏わせた巨大なハンマーを構え、想いをぶつける。
「悠久なる光よ!敵を葬りされっ!!!ゴールデンっ!ネクサスっ!バスタぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっーーーーーーーー!!!!!!!!」
黄金に輝く超巨大なダイヤモンドハンマーが頭上よりダークネスジャイアントに直撃する。その破壊力は重力の落下まで加わり異次元だった。全てを破壊しつくし、凄まじい衝撃波が辺りに響き渡りながら天空まで再び光の柱がそびえ立つ。
--光が消える。轟音と共に巨体が地に沈む。 大地そのものが悲鳴をあげ、崩れた黒き巨影は山のように横たわった。 闇を纏っていた漆黒の鎧はひび割れ、溢れ出す黒煙が夜空へと散っていく。
「はぁ……はぁ……勝った……のか……」
全てのエネルギアを使い果たしたタイガは膝を折り、意識が遠のきかける。
「タイガ!」
駆け寄ったウルがその身体を支え、仲間たちの歓声が戦場に響いた。 長き戦いは、ついに終わった、誰もがそう信じた。
だが。
倒れた巨体から、黒き靄が再び噴き出した。 ひび割れた肉体はずるりと蠢き、砕け散った装甲の間から新たな肉が盛り上がる。 大地を覆う絶望の気配に、喜びの声は凍りついた。
「……まだ、終わっていないのか……!」
『!!!!!』
ヴァンパイアモードのハクの一言が、重苦しい沈黙を裂いた。
「ガガ……ギギ……ガガガガァァァァァァァァァァーー!!!!」
「わ、私の時と同じ!!何度倒しても再生するっていうの?!?!」
アイリスは誰に言うわけでもなくそんな一言を言う。そして再び自己再生をし、立ち上がるダークネスジャイアントを見上げ、この戦場にいた誰もが絶望的な表情をしていた。それからアイリスは自身の満月の未来予知の力で何かわかったのか、顔を青ざめ味方の騎士全員に聞こえるよう大声で叫ぶ。
「……っ?!う、嘘っ?!ま、まずいわっ!!!!みんなぁぁーーーー!!逃げてぇぇぇーーー!!!」
次の瞬間、戦場を切り裂くような咆哮が轟く。
「グォォォォォォォォォォォォォッッ!!」
空が震え、砕けた大地が跳ね上がる。 その咆哮は耳を聾する音ではなく、魂を直接握り潰すような衝撃だった。 騎士たちの身体が一斉に凍りつき、剣を構えたまま硬直する。 膝は震えているのに、指一本すら動かせない。
「な、なんだとっ?!?!身体がっ!!」
「う、動け……っ!」
誰かが呻くが、声は恐怖にかき消される。 目の前で巨影がゆっくりと立ち上がるというのに、誰ひとり抗うことができなかった。 それは絶望そのものを具現化した咆哮だった。そしてダークネスジャイアントはアイリスの方を振り向いた後、その闇の拳を振りかざす。直撃したら即死であろう。一方アイリスの身体は咆哮の呪縛に囚われ、指先ひとつ動かすことができなかった。
「う、動きなさいっ!!動きなさいよっ!!……い、いやだ!!た、助けて……助けて!!!!!ケイぃぃぃぃぃぃぃーーーー---!!!!!」
瞳に涙を浮かべ声をあげるアイリスに迫りくるのは、闇を凝縮した巨拳。大地を砕き、命を消し去る絶望の一撃。
『いやぁぁぁぁぁ!!』
アクアと、その妹レイラの悲痛な叫びが戦場を裂く。 仲間たちの顔に浮かぶのは、ただ「終わり」を悟った諦念だった。 だが……
その瞬間――
黄金の閃光が、闇を貫いた。
アイリスの目の前に立ちはだかったのは、黄金に輝く長い髪をなびかせ、 緋色のオーラを纏い、背には二枚の金色の羽を広げた男。その顔には神秘的な紋様が浮かび上がり、そのまるで命の灯火が燃えるような光の拳は、闇の巨人の拳と正面からぶつかり合っていた。
轟音。衝撃。
しかしアイリスに届くことはなかった。
彼が守ったからだ。
「……お待たせ。」
「……えっ……?」
振り返ったその顔を見た瞬間、 アイリスの胸に熱いものが込み上げる。アイリスは涙を流し、口を自身の震える手でおさえる。
――アイリスの最愛の人、ケイ。
彼は、確かにここに帰ってきたのだった……




