第114章「底力」
「貴様の存在をこの宇宙から抹消してやるっ!!消えろぉぉぉぉぉぉぉーー!!!!」
「ヴォオオオオオオン……!」
怒りで我を失い覚醒したアイリスはこれ以上ないくらい輝く青白い満月のオーラを全身に纏わせ、ダークネスジャイアントと戦っていた。その戦いぶりは神がかっており、互角の戦いをしていた。
「ダークネスジャイアントォォォーーっ!!!!」
怒りに任せ、両手に持った月の大剣を振るうたび空気が裂け、光と闇の衝突が生まれる。普段なら冷静に計算するはずの動きは、一切の迷いを捨てた獣のような猛攻。青白く輝く双剣は青白い炎のように乱舞し、刃と刃が巨躯の闇を刻み裂く。巨人の腕を振るうたび衝撃波が生まれるが、アイリスは怯まない。血を吐いても、足が折れても、ただ前へ……誰よりも大切なケイの優しく儚げな笑顔を思い浮かべ、ただ前へ踏み込んでいく。
「貴様にだけは死んでも負けないっ!!!ああぁぁぁぁああああーー!!!!!これでトドメぇぇーーーーっ!!!!満月残光斬!!!!」
「ヴォアアアアァァァァァァァァーー!!!」
アイリスはダークネスジャイアントの闇の右拳をギリギリまで引きつけ回避。そして二刀を同時に振り抜き、満月の円を描くような必殺の斬撃を放つ。その刃は巨大な光輪となり、巨人の体に直撃する。刹那、時が止まったかのように静寂が訪れる。ダークネスジャイアントの漆黒の体に、真円の光の線が刻まれる。
次の瞬間――
闇を纏った巨体が爆発音と共に大きく揺らぎ、地面に倒れていく。その地響きは大地を震わせ、周囲の瓦礫を跳ね上げる。そして次第に静かな空気に戻りアイリスは倒れたまま動かないダークネスジャイアントを見て呟く。
「……はぁ……はぁ……か、勝った……」
アイリスの青白い満月の双剣は消え、身に纏ったオーラが解除される。
「……終わった……のね……」
そんな一言をいい、すぐにアイリスはダークネスジャイアントに背を向ける。そして虚しさを感じ始める。勝利のはずなのに、胸の奥は空洞のように抉られていた。ダークネスジャイアントを倒したところでケイがどうにかなるわけではないことを改めて気付かされたからだ。瞳に再び涙が溢れ、膝が崩れながら想いを爆発させる。
「……ケイっ!!なんでっ?!なんでなのよっ?!一緒に帰りたいよ……私の……私の世界で一番大切な人を返してよっ!!返してよぉぉぉーーー!!うわぁぁぁぁああああ!!」
アイリスが泣き叫び数分たった頃、更なる悲劇が訪れる。ぐちゃり、と嫌悪感を催す音がアイリスの背後で響き、反射的に振り向く。倒れた巨躯の亀裂から、黒い瘴気が溢れ出していた。砕け散った部位の肉塊が蠢き、崩壊した腕がゆっくりと再び形を取り戻していく。アイリスは涙に濡れた瞳を大きく見開いた。声を発しようとしても、喉が凍りついたように言葉が出ない。巨人の胸部が盛り上がり、裂け目から闇の光が溢れでており、まさに絶望そのものを象徴していた。戦いは終わっていなかったのだ。むしろ今からが、本当の地獄の始まりだった。
「……えっ?……嘘……でしょ?自己再生っ!?」
「グガ……ガガガガガガァァァァーー!!」
不気味な叫び声をあげながら再び立ち上がったダークネスジャイアントを見て、アイリスは戦慄する。だが巨人は容赦なく再びアイリスに対して、その闇の拳を振るう。
「きゃあああああああああーーー!!!!」
直撃は避けたが、その地面と拳の衝突によって産まれた衝撃波によってアイリスは紙のように吹き飛ばされる。地面に倒れたままアイリスは自身の無力さに絶望していた。
(……ま、また負けるの?……大切な人を守れず……私は……生きた証を何も残せないで……?い、嫌だ……まだ死にたくない……)
怯えた表情で何度も立ち上がろうとするが力が入らない。そんなアイリスにトドメと言わんばかりの巨人の最大威力の拳が襲いかかる。ダメ……ここまで……そう思った時だった。
次の瞬間--
「友を救うため羽ばたきなさいっ!!無限の水鳥よ!!!ルミナスっ!ブルーバードぉぉぉーー!!」
轟、と風が鳴った。
次の刹那、眩い蒼光が彼女の眼前を駆け抜ける。巨人の拳は弾かれ、空気を裂く衝撃音が戦場に響き渡った。
「……っ!」
アイリスのかすれた瞳に映ったのは、一陣の蒼き軌跡。
「間一髪、間に合ったみたいね……!アイリス、もう一人で戦わせたりしないわ!」
その声は、懐かしいほどに力強く、優しかった。アイリスは声のする方向を振り向く。そこにいたのは
親友のアクアと多くの仲間だった。
「アクアっ!!みんなっ!!」
「せや!!助けに来たで!アイリス!!」
「お姉ちゃん!!アイリスさんは私がフォローするね!!」
「よくここまで粘ってくれた……アイリス!」
「アイリス!ケイは死んでねぇー!!大丈夫だ!今ロゼッタが治療している!!あいつの腕を信じろ!」
ハク、レイラ、ボルグの後、タイガがケイは大丈夫だと自信に満ちた表情で言う。
「ケイが生きてる……」
その言葉を聞き、再びアイリスはゆっくり立ち上がりそう呟く。アイリスの頬を伝うのは、痛みか、それとも安堵か。だが確かに彼女は知った。まだ、希望は消えていないと。
「アイリス様!無事で何よりです!」
「1人でなんとかしようとするのはアイリス様の悪い癖ですわよ?!ふふっ……!」
「サイ、ジュリーまで……!!……みんなごめん!私1人で全て抱え込んでた!!本当に助けにきてくれてありがとう!!そして改めて言わせてもらうわ!奴を倒すため力を貸してほしい!行くわよ!!みんな!!」
そのアイリスの想いに皆が頷く。こうしてダークネスジャイアントとの戦いが再び始まるのだった。




