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第113章「ハクの言葉」

「ア、アクア殿っ!!そこは危険です!!しっかりなさって下さいっ!!」

「ルナっ!俺はケイを……!!お前はアクア様を頼む!!」


23時半。瀕死の重症を負ったケイと精神的に追い詰められ我を忘れて泣き続けるアクアを、ボルグとルナが安全なクルミとフィオナのいる場所へと急いで連れて行く。その後クルミはベンチに運ばれてきたケイの姿を見て目を見開き、顔を青ざめる。それもそのはず、ケイの胸部と腹部から噴き出した尋常ではない量の血が止まる気配を見せず、ベンチから流れて地面を一瞬で真紅に塗り潰していったからだ。ボルグはクルミにこれまでにないくらい焦った様子で尋ねる。


「くっ……かろうじて生きてるがヤバいぞ……これは!!クルミ!!回復薬は!!」

「さ、さっきフィオナさんに全部使って……」


そうクルミが泣きそうな表情で答えた時だった。背後から馴染みのある聞き覚えのある仲間の声がした。


「フ、フィオナっ!!ケーくん?!?!ど、どないしたん?!?!」


クルミ、ルナ、ボルグは声のする方向へ振り向く。そこにいたのはハクをはじめ北部、南部、東部へ見回りに行っていた騎士達だった。どうやら増援が来たようだ。そして未だに気絶したフィオナと血まみれのケイを見て、すぐに声を張り上げ、泥を蹴り飛ばしながら駆け寄るのだった。そして二人と大親友のタイガは誰よりも早く駆け寄り、ボルグの胸ぐらを掴みながら必死な表情で尋ねる。


「おい!!ボルグっ!!ケイとフィオナは生きてだろ?!なぁっ!!なぁっ!!」

「フ、フィオナの方は大丈夫だ!回復薬を使って、怪我は完治してる!だが……ケイは……」

「……ケ、ケーくんは……ケーくんはどうなん?!?!」

「ボ、ボルグさん!ケイ様は生きてますよね……!?」


ハクとレイラは目を見開き、号泣しながらボルグに尋ねる。それに答えたのはルナだった。ショックだったのだろう。俯きながら言葉を口にする。


「かろうじて生きてはいる……だが瀕死寸前だ……回復薬もつきて私達では何もできないんだ……」

「……嘘や……いやや……いややっ!いややっ!!ケーくん!!ケーくん!!」

「ハク!!君のヴァンパイアの再生能力でケイ様を治療できないのか?」


そう案をだしたのはラキだった。いつも冷静な彼にしては珍しく苛立った様子だった。


「ラキ……そうしたいのはウチだってわかっとる!!わかっとるよ!!せやけどウチの再生能力は月がないとできひん!!みてみぃ……!空を!!」


皆空を見上げる。そこに広がっていたのは月も星も何も無い夜空だった……


「っ!!月がない……どうしてなのっ?!」

「多分あの怪物の影響だろうね……月が隠れてしまっているということか!くそっ!!」


エミリアとウルがそんな反応をした時だった。ベンチの上で倒れているケイの目の前にある白衣を着た女騎士がやってくる。その女騎士はチームジーニアスの1人でヒーラーのロゼッタだった。


『ロゼッタっ!!!』

「……右肺、膵臓、胃のあたりが特に損傷しています。だけど幸いにも心臓には攻撃が当たっていない……奇跡ですね。」

「お、おいっ!ロゼッタっ!お、お前はケイを治せるのか?!」


アランの質問にロゼッタは一瞬目を瞑り、少しの間の後答える。その表情は自信と誇りに満ちたものだった。


「アランさん。私を誰だと思ってるんですか?ケイ様が認めてくれたチームジーニアスの一員でありハイヒーラーですよ。2つ名の『ドクター』にかけて必ず治してみせます。」


ロゼッタは右手をケイにかざす。そして目を閉じエネルギアを集中し赤く優しい光を放つのだった。どうやら治療に入ったようだ。それからロゼッタは呟く。


「ケイ様は私が助けますのであの化け物と1人で戦っているアイリス様を助けてあげて下さい。フィオナさんも私が見てますから大丈夫です。」

『!!』


その言葉を聞き、皆ロゼッタを見て頷く。その後気絶して横たわるフィオナを除き、次々とアイリスとダークネスジャイアントのいる場所へと走っていくのだった。ただ1人を除いて……


「…………」

「お、お姉ちゃん!?!?どうしたの?!?!」

「な、何ボーッとしとるん?!早くアイリスの援護いくで!!」


ただ1人その場を動こうとしなかったのはアクアだった。レイラが強引に引っ張るも足が地面に縫いとめられたように動かない。目の奥から光が消え、虚ろに一点を見つめている。そんな姿を見て不思議に思ったのかレイラはまさにアイリスの元へ向かおうとしていたクルミを止め尋ねる。


「ク、クルミさんっ!!お姉ちゃん、どうしたんですか?!何だか様子がおかしいです!」

「そ、それはですね……」


クルミはアクア本人の前で言いたくなかったのか言うのを躊躇っていた。そんな時だった。アクアが自分の口から何があったのかを下を向き涙を流しながら静かな声音で説明するのだった。


「……私が油断したせい……」

「……はっ?な、なに言うとるん?!」

「……ケイが……ケイがこうなったのはあの化け物の攻撃を私の代わりに受けたからなの……だから……だから私のせいで……!!!」


涙混じりの声は震え、言葉は途切れ途切れに零れるだけ。そんなアクアに苛立ったのかハクは、アクアの目の前に立ち、はっきり言う。


「アクア!!今自分を責める暇があるん?!」

「……えっ……?」

「歯くいしばりっ!!!!」


ハクはアクアの右頬を思いっきりビンタするのだった。驚きのあまりアクアは顔を上げる。そこで見たのは顔を赤らめながら涙を流すハクの姿だった。


「……!!」

「ロゼッタを信じたれや!!今ジブンがすべきことはなんなん!?ただウジウジしてるだけなん?!なんのためアクアを助けたとおもっとるん?!あんたサンセットホープズやろっ?!しっかりしーや!!どアホっ!!」


言葉は刃のように鋭く、アクアの胸を突き刺した。だがその痛みが、凍りついていた彼女の心をわずかに動かしていく。アクアの瞳に光が戻る。


「……ありがと。ハク。目が覚めたわ。そうね!ロゼッタを信じるわ!……私も戦う!私は誇り高きサンセットホープズの1人、『夕陽のマーメイド』、アクア=アズーロよ!!」

「ふ、ふん……何カッコつけとるん!?ま、まぁちょっとは元気になったみたいやし今回は許したるわっ!いくで!アクア!レイラ!クルミ!」

『了解!!』


こうして3人もアイリスの元へ急いで向かうのだった。

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