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第112章「純愛」

「こんのっ……!!!真っ二つにぶった斬るっ!!チェストぉぉぉーーー!!」

「羽ばたきなさいっ!!無限の水鳥よ!!!ルミナスっ!ブルーバードぉぉぉーー!!」

「俺の自慢の拳をナメるなぁぁーー!黄金に輝けっ!キングダムっ!フィストぉぉーー!!」

「ヴオォぁぁぁぁー!!ガァぁぁぁぁぁぁぁーーーー!!!!!!」


最終決戦が始まって少し時間が経過し、現在は23時。アイリス、アクア、ケイは不気味な闇夜の中、西部の地上でダークネスジャイアントと激戦を繰り広げていた。皆この怪物を止められなければ世界が滅ぶということが本能的にわかったのか極限の集中力で己の最高の一撃をぶつけている。しかしこの漆黒の巨人の防御力は半端ではなかった。どれほど攻撃をしてもほとんどダメージを受けている様子はない。まさに鉄壁の壁だった。そしてさらに時間がたった頃、あまりにも残酷な悲劇がおこる。それは集中力が切れはじめたアクアの油断によって生まれたものだった。


「固すぎるっ!!なんて固い鎧なの?!はっ……!!しまっ……!!」

「ちょっ!?アクア!な、何してるのっ?!よ、避けてぇぇぇぇーー!!!」


戦っている最中、アクアの一瞬の隙をダークネスジャイアントは見逃さなかった。アイリスの叫び声と同時にダークネスジャイアントの足元から禍々しい無数の闇の鎖が伸び、アクアを襲う。とっさのことでバランスを崩し、防御が間に合わない。そしてアクアにとってこの世で一番起きてほしくないことか起こる。


――何が起こったのか分からなかった。

赤いものが飛び散るまで、それが現実だと認められなかった。アクアの目の前で自身にとって最愛の人の胸を幾本もの鎖が貫通している現実を……


「…………ア……クア…………大丈夫……か……」

「…………嘘よ…………」

「…………俺は……お前を…………守れ……たかな……」


声にならない声がアクアの喉を震わせる。彼の背中が自身を庇うように覆いかぶさり、崩れ落ちる。頭が真っ白になり、世界から音が消えた。


――どうして。

どうして彼が前にいるの?誰のせい?……えっ?


アクアの瞳に徐々に涙が溢れる。そして感情を爆発させ、その最愛の彼の名を叫ぶのだった。


「いや……いやだ、いやぁああああああああああぁぁぁぁーーー!!!!ケイぃぃーーーー!!!!!ああああああぁぁぁぁ……あぁぁぁぁーーー!!!!」


自身を庇い、倒れたケイを見て、アクアは精神崩壊をおこす。そしてアイリスもまたこの信じたくない悪夢が現実だとわかり、瞳から世界が色を失ったかのようにすべてが遠のいていった。最愛の人が崩れ落ちたその瞬間、胸の奥で張り裂けるような悲鳴が生まれ、それが声にならずに全身を駆け巡った。


(…俺のことはいいんだ……それより俺はお前さえ無事ならそれでいい……無事でよかった……アイリス……辛かったら誰かに甘えても俺はいいと思う……そして今はお前が辛そうだから俺がずっとそばにいるよ…)


先ほどのガロードとの戦いの後言っていた言葉とあの時の儚げな表情を思い出す。それは自身が今までの人生で経験した中で最も大切な尊い瞬間だった。そんな自身にとって最も大切な最愛の人の命の灯火が消えていくのを感じ、頭の中で何かがプツンときれる。そして本能のまま想いを爆発させるのだった。


「……あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーー!!!!!!!!」


アイリスのエネルギアである青白い満月のオーラが、無限の輝きを放つ。冷たくも清らかなその輝きは炎のように揺らめきながら、天を貫く柱となって迸る。闇夜さえも照らし出すほどの光は、怒りとも悲しみともつかぬ感情を凝縮したものだった。


「殺す殺す殺す!!貴様だけはぁぁぁぁああああ!!!!!!!!!!あいつを殺すだけの力!きなさいっ!!!きなさいよっ!!はぁあああああああ……!うわああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


アイリスの両手がさらに輝きを増す。そして次の瞬間だった……


「今こそ顕現せよ!!!スターダストっっ!!サーベル!!!!!」


アイリスの両手に二本の青白く輝く大剣が創造される。その二本の大剣はまるで彼女の故郷のムーンアイランドにだけ咲く幻の青白いヒマワリの光を想像させる……そんな美しく妖艶な輝きを放っている。アイリスはダークネスジャイアントの目を真っ直ぐ見つめる。


「私の……私の全てを賭けて……貴様を……殺す……」


アクアが精神崩壊で言葉を失っている一方、アイリスは涙を流しながら獣のような眼差しでそう宣言し、大剣を構えるのだった……


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