第111章「シルファの覚悟とサンセットホープズの絆」
「西部で何がっ?!?!」
「わ、わからないです……!で、ですがフィオナ達の身に何かあったのは間違いないです!!」
先ほどのフィオナからの電話の声を聞き、アイリスとシルファが戸惑いながら話し合う中、ケイは一言呟く。それはこの場にいたシルファ、アイリス、アクア全員の興味を引くものだった。
「……間違いない……奴だ。ダークネスジャイアントが現れたんだ……」
『?!』
皆、ダークネスジャイアントという言葉に反応し、目を見開く。アクアは信じられないといった様子でケイを尋ねる。
「……えっ?……ダ、ダークネスジャイアントって……この前の日記の伝説の怪物……よね?嘘でしょ?!」
「そうだ。『英雄は夕陽に輝く君のために』という日記に出てきた伝説の怪物だ。」
ケイは真剣な眼差しで答える。嘘を言っているようには思えなかった。そしてそのことに疑問に思ったのかシルファとアイリスはケイに動揺した様子で尋ねる。
「あ、あの……ケイ!どうしてダークネスジャイアントだとわかるのですか?」
「そ、そうよ!なんであなたは知っているのよ!!他の化け物かもしれないじゃない?!」
「それは……今は言えない!だが約束する!この戦いが終わったら必ず説明する!だから今だけは俺の言葉を信じてほしい!!」
シルファ、アイリス、アクアは顔をお互い見て頷く。どうやら決心が決まったようだ。
「わかったわ!あなたを信じるわ!だけど後で何かちゃんと教えてね!」
「アイリス……私も信じるわ!ケイが嘘を言うとは思えないし!」
「アイリス、アクア……助かる!」
「ケイ……私はあなたの言葉を疑ったことはありません!この先もずっとあなたを信じています!」
「シルファ……!ああ!いつもありがとな!」
ケイは安心した表情で3人に返事をする。そしてケイはシルファにとあるお願いをする。
「シルファ!!頼みがある!陛下とロイ、ジョーカーに事情を説明してもらえないか?国民を中央部に引き続き待機させておいてほしいからな!あとは今動ける全騎士に連絡し西部へ向かわせてほしいんだ!大仕事だがいけるか!?」
「は、はい!!任せて下さい!それからケイ!私からもお願いがあります!私も今言われたことが終わったら西部へ向かわせてほしいのです!」
「……えっ?!」
「私の力は他者のエネルギアを増幅させること……きっとお役に立ちます!だから一緒に戦わせて下さい!」
ケイは初めてこんなにもシルファの覚悟に満ちた姿をみた。いつも穏和で優しいシルファが真剣な表情で自分を見つめてきたことが心に響き、ケイはふと笑みを浮かべ、そのシルファのお願いに答える。
「ああ!わかった!シルファ!一緒に戦おう!!」
「は、はい!!」
その後アクアが意見をまとめる。4人が今自分が為すべきことが決まったようだ。
「じゃあシルファ!先に私とケイとアイリスは西部へ向かってるわね!!後で現地で合流よ!」
「わ、わかりました!皆さん!くれぐれも気をつけてください!」
こうしてケイ、アイリス、アクアの3人はダークネスジャイアントのいる戦場へ、一方シルファは城内にいる父親とロイ、ジョーカーの元へ向かったのだった。
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「それはまことか!?シルファよ!!西部でそのようなことがっ!!」
「はい!お父様!!ケイ、アクア、アイリスは先に西部へ向かっております!」
時刻は22時半。ここはトラモント城の玉座の間で国王とロイ、ジョーカーはシルファの西部にダークネスジャイアントが現れたという話を聞いていた。国民を安全のため引き続き中央部に待機させてほしいことと今動ける騎士を西部へ向かわせてほしいことをシルファは話したのだった。
「シルファよ!迅速な対応感謝する!今話してくれたことは直ぐにとりかかるとしよう!」
「最後にお父様!お父様にお願いがあります!」
「ん?どうした?話してみよ!」
「私も戦場へ向かい、彼らと共に戦いたいです!!」
『?!?!』
シルファの覚悟に3人は驚きを隠せなかった。最初に反応したのはロイとジョーカーだった。
「い、いけません!姫様!御身に何かありましたら!」
「そ、そうだぜ!シルファ姫!それは危険すぎる!」
「ロイ……ジョーカー……心配ありがとうございます。ですが私も戦いたいのです。騎士様が最前線で命懸けで戦っているのに、私だけ安全な場所に隠れているわけにはいきません!戦う彼らの少しでも力になりたいのです……」
シルファの真剣な眼差しを暫くみていた国王は口を開く。その表情は優しいものだった。
「シルファ……成長したな。……ロイ、ジョーカーよ。」
『はっ!』
「シルファを戦場へ連れていってやれ。何かあったらお前たちが守ってくれ。」
『?!』
こうしてロイとジョーカーの大反対をおしきり、シルファも戦場へ赴くことになるのだった……
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「くっ……!本当にダークネスジャイアントがいやがった……そしてそこら辺で死んでるのはみんな騎士だっていうのかよ!ちくしょぉぉーー!!」
「そ、そんな……みんなあのダークネスジャイアントの仕業っていうの!?……って!アイリス?!1人で何するつもり?!やめなさい!!無謀よ!!」
「止めないで!!アクア!!みんなのかたきをとるんだからっ!!」
時刻は22時半すぎ。ケイ、アクア、アイリスは西部のカーラ橋に到着する。そこで見たものは悪夢そのものだった。カーラ橋だけでなく周囲の建物は粉々に破壊され、地面の至るところに黒き巨人に立ち向かったのであろう騎士達の死体が転がっていた。そしてアクアは偶然にもあることに気づき、そのダークネスジャイアントが歩いて向かっている方向を指差す。
「ねぇ!!ちょっと!!あそこに倒れてるのって!!」
「ま、まさかっ!!!」
ケイはアクアが言いたいことの意味を理解し、真っ先に走り出す。その方向にはとある見覚えのある赤髪の少女が血だらけで倒れていた。立ち上がろうともがいているが立てそうもなかった。一方非情にもダークネスジャイアントはその倒れた少女に向かい、容赦なく拳をかざす。このまま直撃すれば絶命は確実であろう。そう悟ったケイは急いでいつものサンライズ・モードとなり、その少女の目の前に瞬間移動する。そして不気味な獣のような雄叫びをあげながら襲ってくる巨人の漆黒の拳に対して、ケイはその大切な赤髪の少女の名を叫びながら朝陽のように黄金に輝く拳で迎え撃つのだった。
「ヴオォォぁぁぁぁーー!!!!!」
「フィオナぁぁぁぁ!!!!俺はっ……!!絶対にお前を死なせねぇぇぇーー!!悠久なる朝陽の力よ!!今こそ何よりも光輝け!!キングダムっ!!フィストぉぉーーー!!」
「……ケ……イ……」
光の拳と闇の拳が衝突する。その衝撃は凄まじいものだった。鼓膜が破れそうになるほどの嫌な音と共に周囲の空気は震え、様々な瓦礫が宙を舞う。
「ヴオぁぁぁぁっ!!ガァアアアアーー!!!!」
「くっ……重い!!!!重すぎるっ!!!!だが……絶対に負けねぇぇーーー!!俺はフィオナを守るんだ……はあぁぁぁぁぁぁぁぁっーー!!!!」
ケイは押されつつもなんとか強引に力を上空へと逃がし、凌ぎきることに成功するのだった。
それからケイはフィオナをお姫様抱っこで抱え、ダークネス・ジャイアントから急いで離れフィオナに話しかける。その表情は優しいものだった。
「よく頑張ったな……フィオナ!助けにきたぞ!」
「……ケ……イ……し、信じてたわよ……あ、りが、と……大……好き……」
フィオナは安心したのかそう呟いた後、ケイの腕の中で意識を失う。ケイはその後アイリスとアクアの元へ行き、真剣な表情でお願いする。
「アイリス!アクア!城から持ってきた回復薬だ。フィオナを頼んでいいか……?俺が時間を稼ぐ!!」
「えっ?!ちょっ……ケ、ケイ?!まさかあんた1人であの化け物と戦うつもりなの?!今のでわかったでしょ?!1人じゃ無理よ!!」
「アイリスの言うとおりよ!!確実に殺されるわ!!」
「……だがっ!!」
ケイが何か言おうとした時だった。ボロボロになりながらもゆっくりとルナ、ボルグ、クルミがこちらにやってきたのだった。
「フィオナは私達に任せてください!」
「っ!?クルミ!!それにボルグとルナも!!」
ケイとアイリス、アクアは彼らが生きていたことにホッとする。それに対してルナとボルグがクルミの言葉の続きを言う。
「アクア殿!アイリス殿!奴を倒すにはあなた達2人の力が必要です!」
「みての通り俺達はもう歩くのがやっとだ……だがあの化け物に勝つにはルナの言う通りサンセットホープズの力なしには厳しいだろう!アイリス様、アクア様!ケイと一緒に戦ってくれないか?!」
アイリスとアクアは彼らの切実なお願いに一瞬の間の後、同時に頷き答える。その表情はサンセットホープズとしての誇りに満ちたものだった。アイリス、アクアの順で言葉を口にする。
「まかせなさい!!あなた達もここまでよく持ちこたわね!ケイは私達が支えるわ!」
「そうね!アイリス!それにレイラから連絡がきてたんだけど増援ももう少しで着くみたいよ!それまで私達サンセットホープズ3人で凌ぎきれれば勝利の可能性がありそうね!」
真剣な表情でそう言うアイリスとアクアを見て、ケイは感謝の言葉と一緒に戦う意志を伝える。
「ありがとな!クルミ、ボルグ、ルナ!フィオナを頼む!……アイリス、アクア!奴を倒すぞ!!」
『了解っ!!!』
こうしていよいよ世界の存亡をかけた最終決戦が本格的に始まるのだった。




