第106章「黄金のダイヤモンド」
「なんてスピードだっ!くっそぉぉー!!」
タイガは苦戦していた。ドラゴンアーマーによって強化されたドラグナのスピードは尋常ではなかった。攻撃があたりさえすれば……そんな願いはまるで通じなかった。ドラグナは容赦なく、タイガの死角より攻撃を仕掛ける。
「俺はこの腐りきった世界を一度リセットする!それを邪魔する奴は誰だろうと殺す!!ダークネスっ!クロー!!」
「がぁああああーー!!!!くっ……!!」
何度も何度も鋭い竜爪で切り裂かれる。そして激痛のあまりタイガはハンマーを地面に叩きつけ、砂を巻き上げるのだった。視界を奪われたドラグナは一旦タイガから距離をとり、怒りを露にしながら語りかける。
「お前らは疑問に感じていないのか?今のこの世界が差別と貧富の差で溢れかえっていることを。勝者と敗者……それは生まれながらの地位、エネルギアの能力、財産……そういったくだらないもので決定する。それがないものがどんなに惨めに扱われるかお前らは知っているのか?知らないだろうな。俺たちのように庶民にすらなりえなかった敗者がどんな生活をしていたのかを!社会から切り捨てられ、存在しないものとして扱われてきた日々がどれほど苦しいかを!!俺はリセットし作り上げて見せる!真の平等に満ちた世界を!!」
「はぁ……はぁ……うるせーよ。だからといって今のこの世界を好き勝手にぶっ壊していいわけがねぇー!てめえがやってることはただの逆恨みだ!!関係ない人を巻き込むんじゃねーよ!命はそんなに軽くないんだよ!!」
「バカに何を言ってもわからないか……やはりな。だがお前に勝ち目はない。お前のとろい攻撃が俺に当たることはないからな。」
「はぁ……はぁ……関係ねーよ!!俺は死んでもあきらめねー!!」
「なぜだ?力の差は歴然だろう?」
「そんなの決まっている!俺が騎士だからだ!」
「……理解不能だな。……まぁいい。お前の命は次の一撃で終わる。死に行く者の言葉など俺にはなにも響かん。……死ね。オブシディアン・クロー……」
ドラグナは超高速でタイガの懐へ接近する。そして禍々しい巨大な闇の竜爪を顕現させ、タイガの右肩から腹部にかけて大きく切り裂くのだった。宙に尋常ではない血飛沫が舞う。
「ぎゃあああああーー!!!!」
『タイガぁぁーー!!』
タイガの悲鳴が戦場に響く。それからタイガは両膝をつく。上から見下ろすドラグナ。ここまでか……アラン、ルナ、ラキがそう思った時だった…………
「あきらめんなっ!タイガぁぁーー!!!」
「あんた男でしょ!?勝ちなさいよっ!タイガぁぁーー!!」
タイガは意識がとびそうな中、叫び声の方向を振り向く。そこにいたのはかけがえのない親友のケイとフィオナだった……
「ケ……イ……フィ……オナ……」
「!?」
タイガの瞳に再び闘志が宿る。身体は限界に近い。だがそんなもの関係なかった。全身が血まみれになりながらもゆっくりと立ち上がる。この光景を見て、ドラグナは一歩下がり呟く。
「……ありえない。不死身か?!立てるはずがない!!」
「……はぁ……はぁ……お……俺は……と……友達のためなら……何度だって……立ち上がる。」
タイガはケイとフィオナ、3人で過ごしてきた日々、互いに研鑽し合った日々を思い出す。そして真剣な表情で言葉を口にする。
「ドラグナ……お前はつえーよ。俺1人じゃ絶対に勝てねーわ。……だけどな。今の俺が負けることはない!俺にはお前にはない強さがある……」
「何を言って……」
「ははっ……お前にはわかんねーだろうな。じゃあ教えてやるよ。それはな。この世で最も尊い強さ……」
「っ!!何をしようと無駄だぁ!今度こそ死ねぇぇぇーーー!!デス・インフィニティ・クロぉぉーー!!」
「大切な友とのっ!永遠の絆の力だああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーー!!!!!」
ドラグナの超巨大な闇のオーラを纏った竜爪がタイガを襲う。そんな攻撃に対してタイガは感情を爆発させ、自分にとっての最も大切な物を叫ぶのだった……
「な、なんだとっ?!なんだその輝きはっ!?」
ドラグナの一撃はタイガの黄金に輝く光に弾かれる。この神秘的な光にドラグナ以外この場にいた誰もが目を見開き、驚きのあまり言葉を失っていた。はるか上空まで輝く光の柱がおさまり、タイガの姿が明らかになる。
「ば、ばかなっ!お前の能力は物質をダイヤモンドにする力!だがその姿は……?!」
持っていたハンマーだけでなく全身が黄金のダイヤモンドで肉体強化されたタイガを見て、初めてドラグナは恐怖を覚える。一方タイガは真っ直ぐドラグナを見つめ、静かに呟く。
「……ゴールデン・ダイヤモンド・アーマー。この戦い……これで終わりにしよう。」
「な、なめるなぁぁぁぁ!ガキがぁぁーー!!……なぁっ?!」
ドラグナは自慢のスピードでタイガの懐に再び接近しようとしたがそれは叶わなかった。足首までがダイヤモンド化され、動くことができなかったのだ。タイガはゆっくりとドラグナの元へ歩いて行く。
「……ひっ!!来るなっ!来るなぁぁぁぁぁ!!分かってるのか?!この戦いは今後の人類の存亡が懸かった戦いなんだぞ?!てめぇみたいなガキがどうこうできるものじゃないんだ!!止まれっ!!止まれぇぇぇぇぇーーー!」
タイガは歩みを止めない。そしてドラグナの目の前まで行き、再び感情を爆発させる。
「ごちゃごちゃうるせぇーー!!!未来なんて知ったことかっ!!大事なのは今なんだよっ!!皆今大切な家族や友人がいる!それを壊しそうとするお前は許せねぇ!!覚悟っ!!」
「ひっ!!嫌だ……嫌だぁぁぁーー……!!」
「悠久なる光よ!敵を葬りされっ!!!ゴールデンっ!ネクサスっ!バスタぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっーーーーーーーー!!!!!!!!」
黄金に輝く超巨大なダイヤモンドハンマーが頭上よりドラグナに直撃する。その破壊力は異次元のものだった。全てを破壊しつくし、凄まじい衝撃波が辺りに響き渡りながら天空まで再び光の柱がそびえ立つ……
光がなりやむ。ドラグナは地面に倒れ、竜人化が解除される。意識はもう当然ながらなかった。自分の勝利を確信しタイガはふらふらになりながらも最後の力を振り絞り喜びを露にする。
「……か、勝っ……」
『タイガぁぁぁぁーー!!』
どうやら限界だったらしい。タイガは満足そうな笑みを浮かべそのまま前に倒れる。その姿を見て仲間は急いで駆け寄るのだった……




