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第104章「アズーロ家の奥義」

時は遡り時刻は19時。アクアとレイラはシモン=カラカセビッチと戦っていた。アクアは何か気がついたのか少し離れた距離からシモンに宣言する。


「ふふっ……わかったわ。シモンっ!あなた攻撃する時は必ず固体か液体になり、逆にこちらの攻撃を避けようと思った時は気体になるようね!!」

「……そんなことか。それを知ったところで貴様ら姉妹がここで死ぬのにかわりはない。……切り裂けっ!流転刃!!」

「来るよ!!お姉ちゃんっ!!」


レイラがそう叫ぶと同時のことだった。シモンは自身の右腕を液体状にし、鞭のようにしならせ斬撃を放ち、地面を切り裂きながらアクアとレイラを襲う。当たったら即死は免れないだろう。一方アクアもシモンの斬撃攻撃に対して、右手を前にかざし技を発動する。


「私もその斬撃、真似させて貰うわ!打ち消しなさい!!ブルーっ!サイズっ!!!!」


水流を鎌状に形成し、弧を描いてシモンの技に向かっていく。まさにそれは水の斬撃だった。技と技のぶつかり合い。威力は互角。衝突と共に爆発が起こるのだった。


「ほぉ……なかなかの威力だ!これを凌ぐか!」

「……感心している場合かしらっ?」

「何っ……!!」


アクアがニヤっとしながらそう忠告する。シモンは一瞬遅れながら意味を理解する。爆発の煙に紛れ、自身の背後にレイラが回り込んでいたことに。


「ハイドロっ!リボルバぁぁー!!!!」

「背後にっ!?がはぁっ……!!」


レイラの螺旋状に渦巻く水を纏った拳がシモンに直撃する。とっさのことで気体への変化には間に合わなかったのだ。シモンは吹き飛び、周辺の民家に激突する。


「ナイスっ!レイラっ!よく私の意図を察したわねっ!!」

「お姉ちゃんの考えてることなら何でもお見通しなんだから!!」


レイラは自信満々の笑みを浮かべ、そう答える。これで決まりか……そう思った時だった。崩れた民家の瓦礫の中からシモンは立ち上がる。シモンは目の色を変えアクアとレイラに言う。


「俺の三態変化の隙をつくとはいいコンビネーションだ。もう油断はしない!ここからは本気で行かせてもらう!幻霧幻影っ!!」

「き、霧?!気体の力ね!レイラ!私から離れないで!」

「う、うん!!」


戦場のフィールドが霧で覆われる二人は何も見えない中、相手の気配を探る。そして反応したのはレイラだった。


「見つけたっ!!そこっ!!」


レイラは水を纏った拳を振るう。しかしその攻撃はすり抜けるのだった。


「なぁっ!?ま、幻っ?!?!」

「遅いっ!!くらいがいい!結晶拳っ!!」


レイラは唖然とする。敵はどこ?そう思った時だった。標的は自身ではなく姉のアクアだったことに気づく。シモンは霧に紛れてアクアの懐へ接近し、腹部に拳の一撃を与えたのだった。


「ごほっ……!!」

「お、お姉ちゃんっ!!」


アクアは拳の一撃に宙を舞い、地面に転がる。しばらく立つことができなかった。霧が晴れた後レイラは敵のシモンを睨み付け、こう言う。


「ゆ、許さないっ!!シモン!あなたは必ず倒すわ!!」

「威勢だけはいいな。だがこれで自慢のコンビネーションは崩れた。あとは貴様だけだ。……液状潜行。」

「っ!!」


シモンの姿が再び消える。先ほどみたいに霧があるわけではないにもかかわらずだ。いったいどこに……レイラがそう思った時だった。


「はっ……まさかっ!!」

「星雲っ!!衝波っ!!」

「がはっ……!!」


シモンは今後は液体に変わり地面の水溜まりに溶け込み、レイラの背後に接近したのだ。まさかのことにレイラも直撃をくらい、大ダメージを負うのだった。レイラは姉のアクア同様吹き飛び、意識がとびかける。他方シモンは地面にひれ伏すアクアとレイラを冷たい眼差しで見つめた後呟く。


「終わったな。次の一撃で貴様らは二人とも死ぬ。そして俺はこの差別に満ちた腐った世界を変えてみせる。」


普段であればあきらめていた。だが今回は違った。自分達が負ければ世界が終わることを思い出す。大切な仲間、家族、愛する人、様々なことが頭をよぎる。そしてとうとうアクアとレイラはボロボロになりながらもゆっくり立ち上がる。彼女らの瞳は闘志で溢れていた。まだ諦めてはいなかったのだ。


「……じ、自分の思い通りにならないからってとんだ八つ当たりね!私達は必ずあなたを倒して生きて帰るんだから。そうでしょ。レイラ。」

「……そ、そうよ。まだ負けたわけではないわ。……お姉ちゃん。……あの技を使うしかないみたいね。」

「……やむを得ないわね。成功率はゼロに近いけどっ!」


アクアとレイラはアイコンタクトの後頷き、両者目を瞑りエネルギアを集中する。シモンは何か仕掛けようとする二人を見て焦りか怒りに満ちた表情で最大威力の攻撃を仕掛ける。


「貴様らが何をしようと無駄だっ!この世から消えるがいいっ!!星辰っ!!結晶!!!」


空に散らした結晶が星座のように輝き、陣形を描く。その全てが凄まじいスピードでアクアとレイラに向かって落下していくのだった。それはまるで結晶の流星群のようである。直撃したら即死であろう。今度こそ決まりか、そうシモンは思ったがそうはならなかった。アクアとレイラは海の如く藍色の光に包まれ、攻撃をはじくのだった。


「な、なにっ?!バカなっ!」

『キングダムっ!!アクアリアスっ!!フィナーレぇぇぇーーー!!!!』


アクアとレイラが同時に叫ぶと共に、天空へ巨大な水の杯が顕現する。そしてそれが倒れ、滝のような奔流がシモンを襲う。その奔流はシモンを包み込んだ後、形状を変える。それはまるで「水の棺」のようにである。シモンは抵抗しようとするが無意味だった。その不思議な水に触れられた瞬間、エネルギアが吸いとられ力が入らなかったためだ。結果シモンは「水の棺」に幽閉されたのだった。まさに姉妹の切り札、最終奥義にふさわしい技である。そしてシモンの気配が完全に消え、少しの時間が経った頃、勝利を確信したアクアはレイラにボソッと呟く。


「はぁ……はぁ……勝ったわ。成功したのね。初めてじゃないかしら?」

「アズーロ家に伝わる奥義……こんなに凄いなんて。」

「レイラ……あなたがいたからよ。1人だったら成功しなかったわ!ありがと!」

「お姉ちゃん……うん!!」


アクアとレイラは笑みを浮かべながらそう言い、嬉しそうに握手をかわす。姉妹の絆がこの熱戦を制したのだった。

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