第102章「相性最悪 」
時刻は18時45分。北部の戦場で立っていたのはたったの5人だった。騎士側はウル、アクア、レイラの3人、一方のシャドウナイト側はシモンとアトラスの2人だけだった。敵味方関係なく襲ったアトラスの無差別攻撃により騎士側の圧倒的な優勢が一瞬にしてなくなるのだった。さらに最悪だったのは地面が至る箇所で縦に大きく割れ、騎士の3人のいる位置はバラバラとなったことである。このことにより本来の作戦であったウルがシモン、他方のアクアとレイラがアトラスと戦うというプランが崩れることとなる。ウルの前には今相性最悪のアトラスが立ちはだかっていた。ウルはアトラスに対して内心動揺しながらも、ポーカーフェイスで話かける。
「……まさかこんなことになるとはね。はじめからこうするつもりだったのかい?アトラス!」
「なぁに?ぼぉや。私のこと知ってるの?有名になると大変ねー!まぁ……その質問に答えるとするとノーよ!私達が出るまでもなければさっきの紅蓮噴火は使うつもりはなかったわ。あなたの戦いもみてたわよ。まぁまぁ強いのね。名前は?」
「……っ!!ウル=グレイシアだ!そんなことよりまるで自分の方が強いっていう言い方じゃないか。まだ戦ってもいないというのに!」
「あっはっはっ……!!ウル、あなた意外と負けず嫌いなのねっ!でもざーねん。相性は最悪よね。私はマグマを操るエネルギアであなたは氷でしょ?ふふっ……大丈夫?」
「あまり俺をナメないほうがいいよ。俺の氷はそこら辺の氷とは違うからね!!それよりお喋りはここまでだ!行くぞっ!アトラス=シャウナ!」
「あら!もうやるの?まぁいいけど……退屈なのはやめてよね?ふふっ……」
とうとうウルとアトラスの戦いが始まる。先手を仕掛けたのはウルだった。
「アイススパイクっ!!」
「……っ!!下から?!……がぁっ……!!」
地面から巨大な氷柱が突き上げる。正面からくると思い込んでいたアトラスは防御に間に合わなかった。結果直撃をくらうこととなる。アトラスは攻撃を受けた後、空中で体制を立て直し着地する。先ほどの敵をナメていた表情はもう消えていた。
「……頭いいのね。あなた。正面からの攻撃じゃ私のマグマで焼き付くされてしまうと読んでいたみたいね。」
「……ちょっとはやる気になったかい?」
「ええ。カチンと来たからここからは本気でいかせてもらうわ。」
そう言いアトラスは右手をウルのいる方向へつきだし、手のひらを広げ呟く。
「……十字炎岩。」
「……っ!こ、これはっ?!くっ……!」
ウルは本能的に横へジャンプする。元いた位置の地面が十字に割れる。そこからマグマが吹き上がるのだった。直撃したら即死である。
「……さっきのお返しかい?まぁなんとなく想定してたけどね。」
「……戦闘センス抜群ね。じゃこれはどうかしら?……業火の剣よ。」
アトラスはマグマのようにもえる剣を生み出し、ウルに向かって走りだす。今度は接近戦のようだ。
「なるほど……今度は接近戦ということか。ならっ!出でよっ!グラキアリスセイバぁぁーー!!はぁああああーー!!」
氷の剣とマグマの剣の攻防が始まる。そして数分の互角の戦いにアトラスは感心したかのように呟く。
「へぇ……頑丈ね。私のマグマでも簡単には溶けない剣なのね。それ。」
「言ったはずだよ。俺をナメないほうがいいって。」
「ふふっ……でもいつまで耐えれるかしらっ?」
「!!」
怒涛の連続攻撃が続き、ついに氷の剣が折れる。アトラスはニヤっと笑い、ウルにトドメをさすため一歩踏み出し、真横にマグマの剣を振り抜く。
「……死になさい!!紅蓮一閃!!」
「……っ!?ま、まずいっ!!イージス・オブ・フロスト!!」
空中に氷の壁を生み出し攻撃を防御するが、やはり相性が悪い。氷の壁はあっという間に溶け去り、ウルに一撃が直撃するのだった。
「ぐ、ぐあぁぁあーー!!」
ウルはあまりの痛みに膝をつく。本来ならマグマの剣であるため、即死の一撃だったがウルの氷の壁により温度と威力が下がったことで死は免れたようだ。だがそれでも直撃により腹部から大量の血が流血していた。もう一度くらえば今度はあの世行きが確定するだろう。苦しむウルに対して、アトラスは素早く接近し、非情にも頭上に剣を構える。
「ふふっ……さようなら。」
「!!」
マグマの剣がウルに向かって振り下ろされる。ここまでなのか……ウルがそう思った時だった。
「どうした?!ウル=グレイシア!お前の力はその程度か?!」
誰かがアトラスの一撃を青い炎の剣で弾き返す。ウルはその技を見てすぐに理解する。それは誰もが知るトラモント王国の英雄だった。ウルは目を見開き、その名を呼ぶ。
「せ、先生っ?!」
「大丈夫か?ウル!」
教え子の絶対絶命のピンチに颯爽と現れたのはサンセットホープズの1人、ロイ=フェニックスだった。




