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第101章「デス・トマト」

北部での戦いも終盤に差し掛かる頃、双方の戦力差が明確となる。ウル、アクア、レイラを筆頭にトラモント王国の中でも選りすぐりのエリートで集められた騎士団側が圧倒的に優勢だった。そしてとうとう先ほどから少し離れた場所で一歩も動かなかったシモンとアトラスが動き出したことにアクアは気づき、レイラとウルに向かって忠告する。


「ねぇ!二人とも!あれを見て!シモンとアトラスが動きだしたみたいよ?」

「終盤になってやっとお出ましなのね!私達相手にずいぶん余裕ね!」

「奴らはそれだけ自分たちの強さに絶対の自信を持っているってことだろうね!アクア様、レイラ!油断は禁物だよ!」


アクアとレイラは頷き、戦闘に集中する。3人は事前に緊急会議で話した作戦を思い出す。シモンはウル、アトラスはレイラとアクアで対処するという話を。だがここで3人の予想外な事が起こる。それはアトラスが戦場のフィールドに対し、無差別遠距離攻撃を放ったのだった。


「ふふっ……終焉のときよ……消し炭になりなさい……紅蓮噴火っ!!」


地上に数え切れないほどの溶岩が降り注ぐ。数の優勢など関係なかった。敵味方問わず襲うこの攻撃により戦場に大混乱をもたらし、まさにこの世の地獄といった光景となる。


「な、何よっ?!あの攻撃!!敵味方お構い無しなのっ?!」

「お、お姉ちゃんっ!!このままじゃっ!!」

「ま、まずいっ!!まとまっていては危ない!みんな!今は逃げることに集中するんだぁぁー!!」


ウルは珍しく焦った様子で味方の全騎士に大声で命令する。だが逃げ場などほとんどなかった。地面は溶岩で灼熱を帯び、まともに動ける状況ではなかったためだ。結果地上に悲鳴が響き渡ることとなる。


----------------------------


時刻は18時半。ここ中央部のトラモント城近辺には多くの民が避難していた。この中央部に敵の侵入がないように残った100名の騎士はサンセットホープスのジョーカーを中心とし警備にあたり、城内にいる者は東西南北の状況報告、その他の情報の共有、戦場に取り残された人がいないかの安否確認などの内容の話し合いを評議の間で行っていた。今現在、城内の評議の間で話し合いをしていたのは国王、シルファ、チームジーニアス、チームシークレットの各メンバー、アイリス部隊のジュリーとアロンである。そして話し合いの中、シルファの携帯に電話がなる。


「……っ!す、すみませんっ!お父様っ!こんな時にっ!」

「気にするでない。シルファよ。それよりもしかすると大事な要件かもしれん。電話を確認せよ。」

「は、はい。……あ、あのっ!ケイからですっ!」

『っ!!!』


この場にいた皆は西部での戦いについての報告だと察し、一気に緊張感の溢れる空気となる。シルファは深呼吸した後、電話にでる。


「も、もしもし……?ケイ?!」

「シルファ!!本当によかった……無事で!!」

「あのっ……ケイも無事で本当によかったです!!それで西部の戦いは……」

「心配ありがとなっ!こっちは勝ったぞ!味方も怪我人は多いが死傷者はゼロだ。アイリスがガロードとさしで戦っている間、ハクと俺がほとんど倒したからな。今さっき倒した敵は全員拘束具で捕まえたところだっ!」

「さ、さすがケイです!!勝ったのですねっ!!しかも死傷者ゼロだなんてっ!」


西部の戦いに無事勝利したことがわかり、この評議の間にいた誰もがホッとしたのか安堵のため息をつく。さすがサンセットホープス最強の男だと改めて皆思うのだった。ケイはシルファに尋ねる。


「あっ!そうだっ!そういえばシルファは南部の状況を聞いたかっ??」

「えっ……!?た、たしかフィオナとエミリアさん中心の部隊が……」

「そうだ!あいつらも俺らと同じくらいの時間にメイメイに勝ったみたいだぞっ?3分前にフィオナからメールきてたから間違いない!多分そっちにも直ぐに連絡いくはずだ!」

「そ、そうですかっ!!ではフィオナ達も勝ったのですねっ?!」

「ああっ!だから安心してくれ!俺はこのあと東部に、アイリスとハクは北部に向かうつもりだ!また状況がわかったら連絡する!」

「は、はいっ!!ケイ!あなたの吉報をお待ちしてます!!」


そう言い電話が終わる。まさかの2つの勝利が同時に判明し、この評議の間にいた皆が喜びの声があがる。アロンとジュリーはこの勝利に弟子の成長を感じたのか特に嬉しそうだった。


「や、やったなっ!ジュリー!ケイ部隊、大活躍じゃねーか?!」

「ええっ!後輩達がこんなに成長するなんてね!あとわからないのが北部と東部ね!私的には北部が特に厄介だわ!シャドウナイトの中でも二人の最高戦力がいるんだから……」


ジュリーの一言に反応したのはチームジーニアスのグレンだった。作戦があるのかその表情は自信に満ちていた。


「ジュリーさんっ。北部にはある人を先ほど向かわせました。」

「えっ?!このタイミングで!?」

「はい。意表をつくためです。」

「だ、誰なの?!」

「それは……」


グレンが答えようとした時だった。評議の間のドアが勢いよく開く。そこにいたのはジョーカーと共に警備にあたっていたサイだった。いつもクールな彼には珍しく息を切らし、何か焦った様子だった。


「はぁ……はぁ……陛下っ!!緊急事態です!」

「どうした?サイよ。珍しいな。お前がそれほどあせるとは。」

「す、すみませんっ!!ですが緊急のため、報告しますっ!!ゼファーが単独で中央部に現れましたっ!!」


ゼファーが中央部に現れたと言うサイの発言にそれまで冷静だった国王は目を見開く。それは事前に想定したこととは違ったからだ。前日実は緊急会議が終わったばかりのケイは国王に東西南北にシャドウナイトが襲撃してくることを報告していた。その時国王はゼファーが脱獄したことを直接伝えている。そして国王自身はシャドウナイトの最高戦力が2人もいる場所を除いたいずれかの方角にゼファーは現れるだろうと言っていた。だがケイはその考えに疑問に思ったのか眉をひそめ『本当にそうでしょうか』と国王に確認していたのだ。それに対し国王はこう断言していた。『間違いない。奴は過去に一度お前と一対一で戦い、惨敗している。おそらく1人で戦おうとはしまい。お前の能力の前ではどんな能力も無意味なのは奴も実感したはずだ。必ず誰かと組み、確実な勝利をねらうだろう』と。だからこそ国王は信じられないといった表情でサイに今一度確認する。


「な、なんだとっ!?!?このタイミングで中央部にゼファーが現れただとっ?!」

「はいっ!それだけではありませんっ!!ゼファーは……ゼファーはある恐ろしい技を発動したのですっ!!!」

「恐ろしい技とはどんなものだ?!それは!!」

「それは……『デス・トマト』という技です。」


ゼファーが現れたという情報に加え、初めて聞く技に皆戸惑う。サイは続けて説明する。


「自分は一度だけ任務でゼファーと一緒だった際、その技を見たことがあります……これはある範囲をバリアの結界内に閉じ込める技です。」

「それの何が恐ろしいというのだ?!答えよ!!」

「陛下……この技の何が恐ろしいかというと、徐々に結界のバリアが内側へゆっくりと移動して、圧縮していくのです。その結果、結界内の内側にいる対象物は逃げ場がなくなり、最終的に全方位からのバリアの圧力により潰れることになります。そして……そして奴はこの技をトラモント王国中央部全域に放ったのです!!!!これがいかに恐ろしいことかもうおわかりでしょう?!?!この中央部にいる人間は全方位からの結界のバリアに押し潰され、血の海に変わるのです!!」

「……バ、バカなっ……中央部には今避難してきた国民で溢れている……」


技の恐ろしさを知り、絶望する中チームジーニアスのボルグが口をはさむ。


「陛下……最初から国民を中央部へ集めるのが狙いだったようですね。東西南北で戦争を勃発させれば皆中央部に避難するしかない……そして避難が完璧に完了し人が中央部に集まった段階でゼファーが現れ、その『デス・トマト』を発動する。集団同時殺戮をおこす……そうとしか考えられないです。そしてさっきのケイと姫様の会話を聞くところ、ケイはおそらく何もご存知ないかと。脱獄を手引きしたリーダーはゼファーにしかこの話をしてないんでしょう。そうすれば仮に負けても何も知らないわけですから、作戦がバレることがありません。」

「っ!!ボルグよっ!!……ケイに……ケイに連絡せよ!あのミカヅキの羽なら無効化できるはずであろう?」

「陛下……お言葉ですが厳しいかと。ケイが前に話していたのですがミカヅキの羽は莫大なエネルギアを要求する能力らしいのです。今先ほどガロード達と戦ったばかりでは……」

「なぁっ……!!」


国王はボルグの言葉にショックのため顔を青ざめる。あの時のケイの疑問と違和感にもっと耳を傾けていれば事態はかわっていたかもしれない、そういった後悔の念で一杯だった。国王は下を向き、恐怖で身体を震わせ、歯をカチカチ鳴らしながらポツリと静かに呟く。


「わ、私のとりかえしのないミスで……沢山の民が死ぬというのか……そ、そんな……」

「お、お父様……お気をたしかに!!」


シルファが小さく見える父を励ます中、サイは口を開く。それは最後の希望となりえる言葉だった。


「陛下……ただ1人結界外に避難できた者がいます。」

「っ!誰だ!その者は!?!?」

「ジョーカー様です!たまたま近くにいた彼は結界外へ……そして今ゼファーと交戦中です!!」

『っ!!!!』


国王を含めこの場にいる皆、一筋の希望がみえた。すべてはサンセットホープスの1人ジョーカー=アルカディアという男に託されたのだった……


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