第97章「永遠に続く幸せな夢」
「何も反応がないみたいだけど、もう降参ってことでいいのよね?」
エミリアは下を向き黙ったままのメイメイに尋ねる。状況は圧倒的有利だった。トラモント王国の騎士団約300名がまだ戦えるのに対し、シャドウナイトはメイメイしか残っていない。誰もがこの状況を見たら勝者を疑わないだろう。だがメイメイはこの絶対絶命の崖っぷちに立たされている中、不気味な笑い声をあげるのだった。
「……きゃは!きゃっはははははっ!!」
「……何がおかしいっていうの?どうみてもあなた達シャドウナイトの負けじゃない?」
「エミリアだっけ?!もう勝ったと思ってるの?バカねー!!私の能力は人数なんて関係ないのよ!!ただこの能力を発動するにはエネルギアチャージの時間がかかってねぇーー!でも今ちょうど準備が整ったわ!!」
「なぁっ?!なんですって?!?!」
「この場にいる全ての者よ!永久に眠りなさい!スリーピングっ!!テリトリぃぃーーー!!」
そうメイメイが叫ぶと同時に黒い光が広範囲に展開する。辺り一体が黒い光に包まれた後、フィオナは何が起きたのか理解できず動揺した様子で叫ぶのだった。
「な、なんなの?!この黒い嫌な光はっ?!……あ、あれっ……?急に眠気……が……」
フィオナと同じく急にこの場にいる騎士の誰もが強烈な眠気に襲われる。それから次々と眠りに落ちていくのだった。
黒い光が消える。そこに立っていたのは技を使ったメイメイとエミリアだけだった。エミリアは少し遅れて状況を理解すると目を見開く。そして焦りからか珍しく声を荒げて言葉を口にするのだった。
「な、なんなの?!なんなのよ!!一瞬でこっちの部隊が私以外全滅?!はっ……まさかこれが!!」
エミリアはここでようやく思い出す。緊急会議で話していたメイメイの人を眠らせる能力についてを。
「きゃっはっはっは!!どうやら気づいたみたいねぇー!そう!あなた以外は皆寝てしまったのよ。凄いでしょ?私の能力!それにしても最高ねぇ!人が一気に絶望に落ちる瞬間を見るのは!!」
「くっ……やはり!だけどどうしてなの!?どうして私には影響がないのよ?!」
「それはあなたが精神干渉系の能力者だからよ!私も初めてみたわ!精神干渉系の能力者が耐性があるっていう噂は本当だったのねぇ!」
エミリアは先ほど自分の洗脳の技がメイメイに効果がなかったことを思い出す。
「なるほど……そういうことなのね。……だけどメイメイ!寝ている騎士が目を覚ましたらあなたは終わりよ!あなたの攻撃は単なる時間稼ぎにすぎないわ!!」
それに対してメイメイはやれやれといった様子で答える。
「はぁ……本当にあなた賢そうに見えて実は頭が悪いタイプのねぇー!私の能力がそんな安っぽいはずないじゃない!私の能力はねぇー!ある一定の範囲内にいる人間を眠らせることができるだけじゃないの!本当に恐ろしいのは夢をみさせることができることよ!今そこら辺で寝ているあなた達の仲間は夢をみてるわ!」
「そ、それの何が恐ろしいというのよ!?結局眠りとはいつか覚めるものじゃない!!」
エミリアは苛立ちを隠さずメイメイに言い返す。このエミリアの言葉に対し、メイメイは不敵な笑みを浮かべ問う。
「ふふっ!それはどうかしらね!」
「な、なんですって?!」
「教えてあげる。人っていうのはねぇー、悪夢をみた場合は防衛本能が働き目が覚めることが多いわ。だけど逆はどうかしら?幸せな夢というのは防衛本能が働かない。むしろずっと夢の中にいたいという想いが強く働くわ。じゃあバカなあなたに質問ねぇー!人が心の底からもっとも望む欲望を寝ている間、夢の中で自由にみさせることできたらどうなると思う?」
「そんなの起きたくなくなるに!はっ……まさかっ!!」
「そう!私は人にとって最も幸せと思える夢をみさせることで永遠に眠らせることができるの!まさに人間の本能をコントロールした究極の力よ!!」
「そ、そんな非人道的な能力ありえないわ……!」
エミリアは信じられないといった表情で一歩下がる。それからメイメイはいやらしく妖艶な表情でエミリアにあることを教える。
「ち・な・みにぃー♡私はこの技を受けた人間の夢を映像化できるの!きゃあああ♡興味あるでしょ?あなたにもみせてあげる!人間の本当の欲望がどんなものかを!んーそうねー!試しにそこで寝ている赤髪の女の夢を覗いてましょう!エミリア!あの白い建物の壁を見てなさい!!ドリーム!オープン!!」
「……!!」
選ばれたのはフィオナだった。すぐ近くに立っている白い建物の壁にゆっくりと今フィオナがみている夢が投影されていくのだった……




