第96章「エレクトロクイーン」
「ふふっ!フィオナ!本当に敵が来たみたいよ!海賊船で来るってことはメイメイで間違いないわね!奴らが陸地に降りてくる前に遠距離攻撃を……」
「いや!まだ出ちゃだめよ!!もしかしたら人質として民間人も乗っている可能性があるわ!!もう少し隠れて様子を見ましょ!」
「……それもそうね!!」
時は遡り、16時頃。ここトラモント王国南部でも戦いが始まろうとしていた。悠々とやってくる海賊船を南港の木々や物陰に隠れながら待ち構えるのはフィオナとエミリアを中心に総勢約400人の騎士である。この部隊もチームジーニアスによってバランスよく編成されているが、遠距離攻撃を中心とした部隊であり、すべて女性騎士だった。敵の海賊船が港にやってくるのを待っている間フィオナはボソッと呟く。
「それにしても本当にあんな占いが当たるなんてね!つくづく占いもバカにはできないわ。」
「う、占い?!フィ、フィオナ?!一体どういうことなの?」
「あっ!そっか!エミリアは知らないと思うけど、メイメイが南部に現れるって予想は占いで決まったのよ!ケイが言うにはチームシークレットがよく当たる占い師を見つけてお願いしたらしいわよ!名付けて『天にお祈り大作戦』とか言ってたわ!」
「……ぷっ!!!あっはっはっ!!!こんなに大事な戦いに占いだなんて……私達のリーダー勝負師すぎるわよ!!私だって生粋のギャンブラーだけどここまでじゃないわ!それでちゃんと予想的中とはさすがね!!」
「ふふっ!たしかにっ!!まっ!結果オーライってことね!!」
巨大な海賊船がゆっくりと少しここから距離のある港に到着する。下船してきたのは予想通りシャドウナイトであった。どうやらこちらにはまだ気づいていないらしい。人数も大体こちらと同じ約400名ほどだ。そして先頭の中心に立つ女性は異彩なオーラを纏っていた。年齢は30歳手前くらいであろう。目立ちまくるピンクの長髪、海賊ならではの三角帽子、露出の高い服装が特徴的だった。
「どうやら人質はいなさそうね……そして多分あの目立ってる女がメイメイね!!……エミリア!あの新人戦の時に使った技で何人くらいまでなら洗脳できるの?!」
「マインドジャックのことよね?んーまぁ……距離にもよるけど最大でも100人ってところね。」
「そう!!わかったわ!!じゃ敵の300人は私達で倒すから、残り100人になったらそのマインドジャックって技お願いできる?!」
「ふふっ!わかったわ!!頼んだわよ!隊長!!」
作戦が決まり、フィオナは待機している400人の部下に通信機器で連絡する。
「みんな!!聞いて!!敵は私達と同じくらいの数みたい!!作戦なんだけど敵の4分の3は私達遠距離攻撃部隊で倒し、残りはエミリアのマインドジャックの力で一気に制圧するわよ!!だからお願い!その時まで敵をエミリアに近づけないで!!作戦は以上よ!それじゃみんな行くわよ!!遠距離攻撃部隊!!構え!!」
フィオナの指示に従い、部隊は構える。エネルギアの高まりが大気中に一気に広がる。そしてとうとう一斉射撃の合図が隊長のフィオナによって下されたのだった。
「攻撃開始!!!」
敵の不意をつくかのように一斉射撃がとうとう始まったのだった。
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「なぁに?なんか誰も人がいないんだけどどうなってるの?変ねー。」
南港に下船してすぐ総勢約400人のシャドウナイトの指揮をとるメイメイ=グリムドは妙に静かな空気に違和感を感じていた。普段この時間、この辺りは人が賑わいをみせるはずだ。だがなぜか今日は誰もいない。
「まさか今日は何かイベントでもやってるって言うの?つまんないわねー!人が誰もいなければ殺せないじゃない!はぁ……どうしようかしら。」
そんなため息をついていると、シャドウナイトの1人が叫び声をあげる。
「て、敵襲!!敵襲だぁぁああーー!!」
「……はっ?」
メイメイは叫び声の方向を向き目を見開く。そしてとんでもない数の攻撃がこちらを襲ってくることを理解するが、部隊はパニックに陥り、指示が通るような状況ではなかった。結果として直撃することとなる。
『ぎゃああああぁぁぁぁーー!!』
凄まじい爆音と共に、悲鳴が響き渡る。それから爆発による煙が消え、メイメイは慌てて状況を確認する。だがその光景はまさに地獄絵図だった。ちょうど半分といったところだろうか。地面に倒れ、とてもではないが半分の兵士はもはや戦える状態ではなかった。
「ま、待たれてたって言うの!?バ、バカなぁぁぁーー!!」
メイメイは攻撃の方向から、トラモント王国の騎士団がゆっくりと攻撃の構えをしながら歩いてくるのがみえた。
「お、おのれぇぇーー!!不意打ちとは卑怯なぁぁーー!!貴様ら絶対殺す!!いけぇぇーー!!お前ら!奴らを皆殺しにしろぉぉーー!!」
そうメイメイが叫ぶ同時に、ようやくシャドウナイトも一斉に走りだすのだった。
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「作戦成功みたいね!!でもすぐに敵も攻撃を仕掛けてくるから油断しないで!!さっきの攻撃で半分は倒したわ!!数は圧倒的にこっちが有利よ!!あと100人!何とか倒してエミリアに繋ぐわよ!!」
『おぉぉぉーー!!!』
次々と騎士達が遠距離攻撃を繰り出す一方、エミリアは指揮をとるフィオナに感心していた。フィオナは個人としての強さはナンバーズには届かないかもしれないが、指揮官としての力は天才的な才能を持っていた。多分本人は気づいていないようだが確実に作戦を実行する力、部隊をまとめる力、自信に満ちた立ち振舞い、そういった優れたリーダーシップ性はまさに天性のものだった。
「……『エレクトロクイーン』のフィオナ=トキハ。あなた凄かったのね。さすがケイが認めた隊長だけあるわ。」
「えっ?何がっ?」
「ふふっ!!まぁいいわ!とりあえず残り100人はあなた達に頼んだわよ!!」
「任せなさい!私も行くわ!!」
それからフィオナも攻撃を仕掛けていく、敵は接近戦を得意とする部隊ということもあり、相性は最高だった。
「いくらあなた達の機動力が優れていてもこれなら関係ないわ!!逃げても無駄よ!この攻撃は対象を無限に追跡するから!必殺必中!!ターミガンアロー10連弾!!」
フィオナの攻撃だけではない。味方、敵問わず互いの攻撃に溢れかえる。いよいよこの場は本格的に戦場へと変わっていったのだった。
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それから30分立った頃、とうとうこの時がやってくる。敵の数が100人ほどとなったのだった。フィオナは待ってましたと言わんばかりに叫ぶ。
「みんなぁぁーー!下がって!!エミリアぁぁー!!」
「あとは任せなさい!みんなよくやったわ!!いくわよ!!私の奴隷となりなさい!!マインドジャック!」
その声と共に異様な紫の光に包まれる。それから光が収まり、シャドウナイトの動きが止まる。そんな姿を見てメイメイは動揺した声をあげる。
「お前達!何をしている!!!敵を目の前に何を立ち止まっている?!」
メイメイがそう叫ぶが、そうせシャドウナイトは立ったままロボットのように固まっていた。まるで誰かの指示を待っているかのように……
そしてエミリアは沈黙の中歩いていき、とうとうメイメイと対面することになる。
「あなたの仕業なの?!何者なの?!」
「ふふっ!はじめまして。あなたがメイメイ=グリムドね。私はエミリア=オルコット。2つ名は『ファントムミスト』。今私はこの子達を洗脳したの。だからあなたの言うことは聞かないわ。……でもおかしいわね。あなたには効かないみたい。」
「せ、洗脳ですって?!」
「まぁいいわ!とりあえずあなた達!自分自身に向かって最大出力で攻撃しなさい!!」
『イエス!!エミリアサマ!!』
エミリアの命令にシャドウナイトの誰も背くことなく従う。至るところで花火のような大爆発が起こり一気に決着がつくのだった。
「た~まや~。花火みたいで本当にきれいね!ふふっ……!……あとはメイメイ。あなただけね。こちらは残り300人と言ったところかしら。もう降参したほうがいいんじゃないの?」
「……」
エミリアは自身の圧倒的な力をメイメイに見せつける。フィオナを含め、騎士達全員この段階で勝利を確信していた。だがこの時はまだ誰もが知らなかった。本当の戦いがこれから始まるということに……




