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17.隠匿している聖魔法


「ど、どうして……ですか?」


 ダムラスは聖魔法を使うことができる。

 だが使わない。

 使えないのではなく使わないのだ。

 その理由をナルファムはよく知っていた。


「あの特別なレイスは武器に魂が宿ってて、それが具現化したもの。彼らは全員、ダムラスの教え子なんだ」

「顔馴染みが……襲ってくるってことですか?」

「まぁ有り体に言えばそういうことだね。だから殺せないんだろう。長い間任せてたし実害もなかったから乗り越えてたと思ってたんだけどね。どうやら、まだ甘いままみたいねぇ」


 背もたれにもたれ掛かりながら、ナルファムは嘆息する。

 この話を聞いて彼がまだなにも乗り越えていないことをようやく知った。

 全て任せたというのに。


 実はこの話を知っている人間は少ない。

 その理由は墓守であるダムラスが何者かに殺されてしまえば、レイスが再びキュリアス王国を跋扈するからだ。

 それに、あのレイスは強い。


 呪いの影響かどうかは定かではないが、もとの実力を有したまま出現する厄介な存在だ。

 一体現れるだけでも面倒だというのに、それが毎日出てくるなど考えたくもない。

 聖魔法を使える冒険者は少ないし、使えたとしてもなかなか浄化させてくれないのだ。

 あのレイスは、自分の驚異がなにかよく理解している。


 もう彼だけに頼ることはできないだろう。

 こちらで全てかたをつける時が来た。


「こうなった以上、ギルドも動かないとね」

「ちょ、ちょっと待ってください!」

「んん?」


 早速準備に取りかかろうと立ち上がったナルファムをタリアナが止めた。

 まさか止められるとは思わず目を白黒させる。


 このままギルドに動かれたら、テレスのことが露見する。

 そうなれば墓地のことも、手紙のこともバレてしまいリヴァスプロ王国が暗躍していたことも把握されるだろう。

 これが国に知れ渡れば最悪戦争に発展するかもしれない。

 このまま秘密裏に全て処理できるならば、テレスも未遂で済むし戦争にまで発展することはないだろう。

 だから、ここでナルファムに動いてほしくない。


 勢いで止めてしまったが、止める理由を一切考えていない。

 冷や汗を流しながらなんとか理由をこじつけようと懸命に頭を回転させた。


(なんで止める……?)


 ナルファムは目を細くし、思案する。

 二人は何かしらまだ隠しているということはこれで明らかになった。

 冒険者ギルドに動いてほしくない理由がある。

 それがギギに話を通して欲しくない理由でもあるかもしれない。


 この二人が、なにか大きな事件に巻き込まれている気がしてならなかった。

 大人として戦う術も持っていない若い一般市民に任せられるようなことではない。


 眉を潜めてこちらを見ているナルファムにロロは少し恐怖した。

 完全に疑われていると察したのだ。

 ロロもタリアナの雰囲気でナルファムに動いてほしくないということは今分かった。

 だが……。


(だけどギルドマスターを止められる理由なんてないよー!)


 半ば涙目である。

 どうしよう、どうしようと焦っていると遂にナルファムが口を開いた。


「あんたたち、何を知ってるんだい?」

「「ええーーーーっとぉ……」」


 ロロは資料をパタンと閉じる。

 タリアナは座っている椅子から少しだけ腰を上げた。


「逃げようったってそうはいかないよ? ここを何処だと思ってるんだい。私の城だよ」


 二人の行動から逃亡を図っていることを看破したナルファムは釘を刺した。

 今まさに逃げようとしていたタリアナは静かに着席する。


 冷汗が止まらない。

 どう頑張っても二人の頭ではこの状況を打開できるような術がなかった。

 いっそのことすべて吐露してしまおうかなども頭をよぎるが、そうなれば最悪なことが起きる可能性が高まる。


 よって、二人が選んだ選択肢は……黙秘であった。


「「……」」

「まぁ賢い判断かもしれないけどね」


 若干感心したようにそう口にすると、ロロの頭をわしゃしゃと撫でる。

 予想外の行動にびくりと肩を跳ね上げるがそれ以上のことをするつもりはない様だ。


「これは独り言だけど」


 そう前置きしてから席を立つ。


「ダムラスは家にいるかな。話は本人から聞いた方がいい。あいつは隠し事を嫌うから、包み隠さずすべて話してあげないと話はそれで切り上げられるよ。腐っても元副ギルドマスターだからねぇ。頭が切れるのさ」


 懐から小さな水晶を取り出した。

 それをロロの目の前にコトリ、と置く。

 半透明の美しい球体。

 中には魔石が埋め込まれているらしく、周囲には魔法陣のような物が幾重にも描かれている。


 タリアナはこれを見てハッとした。

 これは通信水晶という小さな魔道具だ。


「どうしようもなくなったらそれに連絡しなさい。私もすぐに出られるようにしておくから。もし不要になったら返しに来てね。連絡しなければならない程詰まったなら、全部話してもらうからそのつもりで。ではご武運を」


 最後にそう言い残し、元来た扉を開けて部屋を後にしてしまった。

 詮索されなかったことに驚きつつ、ロロは通信水晶を丁寧に手に取る。

 描かれている魔法陣が美しい。

 だが使い方が分からなかった。


「タリアナ、これ使い方分かる?」

「……指で二回ノックすると繋がるわ」

「へぇ……。ありがとう……」

「ッスー……はぁ……。予想外だったわね……」

「うん」


 てっきり無理矢理にでも説明をさせられるものだと思っていた。

 それなりの覚悟はしていたのだが、どうやらナルファムはこの一件を二人に任せることにしてくれたらしい。

 どういった心境の変化があったか分からないが、これを無下にしてはならない。


 二人はすぐに立ち上がった。

 目的地は既に決まっている。

 一度タリアナが訪問したことがあるし、迷うことはないだろう。


 ギルドを出た二人は早速元副ギルドマスターで、現在は墓守を務めているダムラス・カートムの家へと向かったのだった。


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