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「偉大なソフィアはちっぽけなフィア」 ~白き乙女と言われたとある少女の物語  作者: 瑞月風花
第四章 『白き乙女=陽光の竜≠竜の巫女』

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終焉の時(籠の外へ)

 

 黒い伝令鳥が窓を抜けて入ってきた。影と呼ばれる、幻術の鳥だ。

 そして、その鳥からの伝言が皆の脳裏に直接入ってくる。役目を終えた影が消える。

 第二防衛線が破られたと。

 次は父のいる場所だ。オズワルトも同じはず。

 だけど、きっと父は逃げない。おそらく、父の後ろにあった連隊はすでにこちらへ向かわせて、新たな指示を待っているのだろう。


 だから、今ベルナンドがすべきことは、次の防衛線をどこにするのか。どの作戦で迎え撃つのか、準備していたもので十分なのかを考えることだった。

「地図を」

 地図を眺める。戦略を立てるための家臣を呼び集めていた。

 ベルナンドが破られた場所の石を弾いた。


 しかし、白き竜がヒェスネビに現れたという。

 白き乙女とともに現れる、あの陽光の竜が。ティリカの兵士たちの戦意を削ぐのには、打ってつけだったことだろう。もし、そんな竜が、ヒェスネビの黒を纏い城下近くに現れれば、民の心は簡単に折られてしまう。

 白き乙女の出現という噂で希望を持った民を絶望に陥れてしまう。


 民のこと、兵のこと、食料のこと。武器のこと。魔法使いのこと。

 翼竜の数。


 ここにおいて、偽竜を量産するヒェスネビに追いつけなかった。空の防衛が敵わなければ、大地は簡単に蹂躙される。


 潤沢なティリカでさえ、三年目を迎えようかというこの戦に、すでに枯渇しているのだ。

 終わらせなければ……。

 終わらせなければ……。何か、策を……。


 しかし、ベルナンドはバルジャミンと違い、動けなかった。十五にも満たない幼い弟を太子に立てて、中心を任せるなど、……。民衆の非難を浴び、それでも活路を見出し、戦場に家族を引き出させる役目など。

 しかし、それは言い訳でもある。


 いったい自分に何ができるというのだろう。竜から守られながら、こんな場所にしかいられない身。いくら、大丈夫だと言っても、信じてもらえない。

 そう、確かにベルナンドは諸刃の剣となるのだ。万が一、竜の巫女として取り込まれ、利用されれば、味方を攻撃する竜が増えてしまう。

 まるでそんなベルナンドの心を映すかのような影が、地図を翳らす。

 窓に大きな影あった。


「白い竜!」

「敵襲っ」

「殿下っ、お下がりくださいっ」


 すぐさまベルナンドを守ろうと、家臣たちが窓へ弓や剣を向ける。魔法使いが風を使い、窓を開ける。割れた窓の破片が太陽に輝くその向こうに、白い竜がいた。深い緑の瞳がベルナンドを見つめる。

「ベルっ」

 懐かしい、あの……。

 ソフィアが鬼婆のように立っていて、その後ろから顔を出したあの……。

 救いに見えた。同じように。


「ベルナンドを探しているの」


 その背にフィアがいた。誘われるようにして、一歩前に出る。警戒を解かない家臣に告げる。

「心配いらない」

 道を開けようとしなかった家臣を押しのけ、その窓辺へと歩み進める。彼女はもう、小さな女の子ではなかった。まるで、伝説の白き乙女のように凛々しく、輝かしくそこにいる。


 そうか……。


 ベルナンドは思う。竜の巫女として意識を失ったことのある彼の中には、ある思いが取り巻いていた。

 そうか、竜の巫女として、役目を果たすのだな。陽光の竜への供物として。それは、今しかない。それしかない。本物の白き竜。

 きっと、それが希望なのだ。だから、フィアが現れた。


「殿下っ」

「彼女は白き乙女だ。ティリカの救世主。『太子』はセナに引き継ぐように。支えてやってくれ。引き続き万が一を考えておけ」

「無理です。セナ殿下はまだ幼く……」

 追いすがる家臣の声に、聞く耳は持たなかった。しかし、フィアはベルナンドの思っていたことではないことを、言った。


「ジョンと呼ばれていたベルナンドを探しているのよ。自分を犠牲にするような、そんな籠の中に閉じこもったままの竜の巫女(ベルナンド)はいらない」

 どうしてそんなことを言うのだろう。竜の巫女はその身を捧げることで、竜を操るのではなかったか?

「救世の巫女は、ベル、あなたよ」

「僕が?……」


 フィアの中に、ソフィアの魔力がはっきりと見えた。そして、その魔力は、その白き竜にも流れ込んでいる。

 竜の瞳はソフィアの色。


「ソフィアなのか?」

 その問いにフィアが少し寂しそうにするが、それもほんの一瞬のことだった。

「そう、ソフィア。でも、この子はソフィアじゃない」

 ソフィアは、私の中にいるだけで、この子はソフィアの契約魔の陽光の竜なだけで。でも、ソフィアはそもそもに還っただけで。


 だけど、にじり寄る家臣に彼女が向けた声には、包み込むような安心感があった。暖かな太陽のぬくもりのような。優しい微笑みの中にある強さは、彼女の成長を表している。


「ベルナンド殿下がこの国を救うのです。心配いりません。殿下、あなたはもう呑まれたりしない」

 そう、ベルナンドは呑まれたりしない。彼は揺るがずベルナンドであり続けられるのだから。

「今だって大丈夫でしょう? だから、きっと終わらせられる。あなたは、ジョンだったベルナンド。私が大好きなベルよ」

 彼の苦しみはずっと知っていたのに。教える機会は、あったはずなのに。


 そして、ベルナンドに求められていることは、彼が幼いころに習っていたことだ。何度もルーアンに復唱させられていた、ベルナンドが嫌いだった正答。

『彼らの太陽の光となり、導かねばならぬ身』だ。ベルナンドは、その胸にあった王家の赤い紋章に拳を当てる。

 確かに『ジョン』なら飛び出していた。


 フィアの瞳は真っ直ぐにベルナンドを信じて見つめている。

 その手に力が入る。ベルナンドが使える唯一の武器、弓を持ち彼女に手を伸ばす。

 終わらせられると思った。終わらせるんだ。彼女はティリカの希望だ。人々が望む希望の象徴。

 しかし、実際に彼ら国民を守っていくのは、ベルナンド達王族なのだ。象徴ではいけない。

 導かねばならぬ者。それが国の指導者だ。


「ベルが決めるのよ」

 フィアが言う。

「殿下っ」

「白き乙女が我と共にあると言ってくれているのだ」

 ベルナンドの言葉は優しく響き、バルジャミンにも似ていた。あぁ、成長されたのだな、家臣たちはそんな思いを過らせる。言っても聞く耳は持たない。だけど、光であろうとしてくれる存在。


「心配いらない。終わらせてくる」

 家臣に迷わず告げられたベルナンドの表情に、フィアが力強く微笑み、そして、その手を取った。

「共に」

 二人の声がそろう。

 竜の巫女としての正しき在り方を示したフィアは、ベルナンドをソフィアの背に乗せた。

 願いは、生きるために叶えるもの。

 そのために竜は共にある。望みを叶えるために利用するものではない。


 白き竜が天高く、飛び去った。


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