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「偉大なソフィアはちっぽけなフィア」 ~白き乙女と言われたとある少女の物語  作者: 瑞月風花
第四章 『白き乙女=陽光の竜≠竜の巫女』

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終焉の時(サーカスの悪夢)


 アリアは魔女会の受付を終えて、雲隠れ中の委員長と副委員長に伝言を送っていた。受付台の上には、すでに半分の量になった花びらの砂糖漬けの瓶がある。

 ほんと、いつまで雲隠れしてつもり? 愛に満ち溢れるかわいいあたしだって、そろそろ腹に据えかねるのよ。そんな気持ちで。そして、面白いこと考えた。そんな軽い気持ちで。

 アリアはひょひょいと通行証の題目を変更していく。


『今日の議題はなし。ヒェスネビ皇国へ』と。


 理由は、人口竜の開発について。竜を縛る行為についても簡単に書き込んでおく。そして、サーカスを始めましょう? 委員長たちも久しぶりにいかがかしら? 大変なことになるわよ。


『サーカスを楽しみましょう』


 全ての魔女会出席者に伝わる通行証の伝言板。人間の魔法使いは、驚くのだろうか。それも含めて楽しみだ。


「おや、君もソフィアにたぶらかされた口かい?」

「違うわよぅ。あたしは、でも、そうねぇ、その使い魔にってとこかしら?」


 アリアはフィアを思い出す。もう会うこともないだろうが、アリアを人間の形に見た初めての子だ。ちっぽけっだった頃、どうしても人間になりたかったアリア。もう、どうしてだったかは覚えていない。魔女は契約魔とどんどん混じっていくものだから。最終はどっちが本体だったのかも分からなくなる。だけど、そんな自分の願いを叶えた子。


 だけど、何よりもフィアに抱っこされた時、なんだかふわっとした気持ちになったのだ。ずっとずっと昔に、そんな風に優しく撫でられていたような。

 温かい気持ち。とても居心地がよかった。ずっとほしかったもの。これもどっちがほしがったものなのか、もう分からない。


 アレックスに答えた黒猫のアリアがふふふと笑う。


「アレックスはソフィアに誑かされたんでしょう?」

「まぁねぇ。ソフィアほど興味深い存在はなかったからね。だけど、私のキメラの優秀さを人間どもに教えたかったのさ。同じ異端でも、素晴らしさが違うのさ。使い魔((竜))を弱めて、自分のものにしようだなんて愚かにも程がある。あんなの何が楽しいのか全く分からない。ひとくくりにされるくらいなら、壊そうかと思っただけさ。だから、君よりも正常だと思っているよ」


 アリアはやはりふふふと笑った。


「いいのよぅ。たまにはこんな異常を楽しむのも。あの子、ソフィアの片鱗持ちなのに、あたしのことずっと怖がってたから。楽しくしてあげたいじゃなぁい」

 そう、アリアは誰に対しても大きな愛情で受け止められる性質を持っている。ただ、余計すぎるお節介焼きで愛情表現がとんでもなく斜め上なだけで。


「委員長たちを行かせたのは、そのためかい?」


 しかし、アレックスはある意味で同じで、正反対だった。彼は誰に対しても敵意も持たず、否定もしない。ただ、たくさんのおもちゃに囲まれていたいだけで。その邪魔だけはされたくないだけで。

 委員長たちは、人間と付かず離れずにいたい魔女たち。そばに寄ってきてほしくないが、興味はあるから、知っておきたい。


「そうよ、みんなが楽しくなくっちゃ」

「ふはは。きっと、楽しいサーカスになる。おや?」

「ふふーん。このあたしもかわいいでしょう?」

 そして、ふたりはまったく一致しない見解に、同じ楽しさを見つけて頷いた。


 そう、魔女はやっぱり信用してはならない。


 その日、ヒェスネビ皇国の空には、たくさんの魔女たちが現れ、逃げ惑う人々をおもちゃにして遊んだそうだ。


 ヒェスネビのその空から、背中に風船をつけられたキメラが大小さまざま降って降りてきていた。

 空を見上げた人々は、一見楽しそうなその様子にサーカスが始まると思ったかもしれない。

 まるで、猛獣使いのように、笑いを誘うピエロのように。笑いおどけ、時に悲鳴をもたらし、歌い続けるサーカス。


 町の中心に現れたシルクハットの双子が一礼して姿を消すと、城下町と城を巻き込んだサーカスが開幕した。


 ウサギカメが飛び跳ねて、人を転がし、獅子コウモリが雄叫びを上げて、空を飛びながら、あの骨抜きさんたちが凧のように風に舞っていた。カエルトカゲが鍋から飛び出し、頭から花を生やした人が、ワシタカ蝶につつかれる。逃げようとして足が伸びてしまい、逃げられなくなった者が城へと続く川の橋になり、ネズミたちがマーチを始める。それなのに、橋を渡り終わったネズミは猫に変わっていた。


 綺麗な王冠を被った皇女さまたちが、猫のマーチに合わせて、踊り出し、兵たちはおもちゃの兵隊になって太鼓を叩き始める。よく見れば手足にある金色の糸が、天空にある巨大な操作棒に結わえられていた。

 賑やかで華やかなその行進が町に向かう時、子どもたちは耳が二倍になったことを純粋に笑い合い、嘘つき前歯の伸びが止まらない大人たちが悲鳴を上げて、ついには大地にその前歯を突き刺してしまう。

 いったん準備時間に入ります。お菓子はいかが?

 とんがり帽子が一人で喋り、甘いにおいを漂わせる。


 甘いシャボンが人々の口に、その甘さが眠りに誘う。町がすっかり静かになった。おもちゃを壊してはいけないのだ。

 いつまでも大切に、ずっと遊んでやらなくちゃ。

 それぞれに食べたいものをポンポン出して、魔女たちが食事を始める。次はどうしようかと鼻を突き合わせている。


 まるで(※1)やくちゃな時間。


 しかし、それは、魔女にとっては、閉幕の虹が架かるまで続けられる楽しい時間でしかなかった。

 だが、一方で仕返しでもあった。

 そして、委員長と副委員長はその時間を決める支配人といったところだ。今日はとんがり帽子ではなく、シルクハットを頭に載せている。


 超えられない存在があることをもう一度知らせておきたかった臆病なふたりは、ちっぽけだった過去を振り返り、結局大変なことにならないように、ふたりで抱き合って身震いしている。

 それなのに、魔女の誰もがそんな彼らの魔力量に敵わない。

 閉幕の狼煙が上がるまで、虹の合図が架かるまで。


 だから、悪夢の時間は、まだ終わらない。

 魔女たちの演舞は終わらない。

※1「わやくちゃ」

めちゃくちゃ、どうしようもない、とんでもないの意


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