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「偉大なソフィアはちっぽけなフィア」 ~白き乙女と言われたとある少女の物語  作者: 瑞月風花
第二章『忍び寄る戦火と竜の巫女と』

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24/51

暗転のサーカス➀

 

 外に出るともうすでに夕暮れに近く、陽鉱石を仕込んだ提灯が、至るところにぶら下げられていた。賑やかでこちらもお祭りみたいだ。


「楽しかったね」

 フィアは嬉しそうにオズワルトに伝える。

「あ、あぁ。フィアは初めて見るんだもんな」

「うん」

 サーカス自体は楽しかった。

 以前にベルナンドから聞いていた通りとても華やかで、とてもドキドキして、とても面白い。手回しオルガンから奏でられる音楽は、どこか異世界へと誘うような不思議さと不安定さがあって。それが、夢の中にあるような気がして。


 演目終わりに、ピエロがおどけて風船をくれていた。

「お楽しみいただけましたか? これをどうぞ」

 と。一組ごとに渡しているようだった。フィアとオズワルトはベルナンドの瞳の色である水色を選ぶ。

「今日で最後なんだね」

「あ、あぁ、また来年かなぁ」

 風船を見上げながら、少しぼんやりしているオズワルトが、フィアの言葉に少し慌てていた。

「これ、お前が持てよ」

「なんで?」

 もらったのはオズワルトだから、オズワルトが持てばいい。


 風船には空に向かうような魔力が込められている。だから、誰が持っても落ちてこない。やっぱり魔力なしのオズワルトでいいと思う。

 だけど、どこか……。フィアが考えていると、目の前の赤い風船が飛んで行った。

 女の子が「あたしのふうせん」と手を伸ばすが、もう遅かった。

 魔法を使えば、……。

 フィアがそう思っていたら、オズワルトがその手にあった水色の風船を女の子に差し出していた。

「色は違うけど……」

「あかじゃない」

 両親と思われるふたりが頭を下げて、「大丈夫です。この子、言い出すと聞かないんです」と言っていたら、女の子の手がその水色の風船に伸びていた。

「……」

 オズワルトが笑う。

「どうぞ」

 家族に手を振った後「ベルの土産、買いに行こう」とオズワルトが外にある出店に向かった。


 出店にはたくさんのお土産物が売ってあった。あの時お土産にもらったホワイトライオンもあった。瞳の種類で言い合ったというそのホワイトライオンを持ち上げて、「オズはケチ」と呟やいてみたり、「ちびに価値が分かるもんか」と呟き返されたり、今回お留守番になってしまったベルナンドへのお土産は何がいいのかと出店を冷かして回ったり。

 楽しい時間だった。


 それなのに、フィアはなんだかずっと違和感の中にいる気がして堪らない。しかも、その正体は掴めない。言い表すのなら「なんか変」が一番しっくりくる。

 お土産物の中には魔力が秘められているものもある。おかしいことではない。

 さっきの風船のように、空へ向かわせたい。光るようにしたい。動かしたい。

 おもちゃであっても、多少の魔力を込めて値段を上げることも知っていた。

 魔力を込めて、別のものを生み出す。驚きを、含ませる。

 魔法は、時に楽しみを。時に、恐怖を含ませる。

 サーカスに似ている。

 何か掴めそう……。


 『ソフィア、みてっ』

 の後に響いた、パキっという音。

 フォギーがキメラの竜に飛ばされて、魔核に傷がついたピシリという音。


 フォギーが『ポチフォギー』として、フィアの使い魔になった時。


「あ」

 フィアの足が急に止まる。

「急に止まったら危ないだろ、まったく……」

 オズワルトがフィアを人の流れから庇ってくれていた。そして、フィアはそのオズワルトの腕を掴んだ。伝えたくて仕方なかったのだ。きっと、オズワルトなら分かってくれる。

「オズ、分かった。なんか変なの。ここ、変なの」

 フィアの言葉にオズワルトの様子が少し変わる。だけど、それに気づかないくらい、気づいたことを伝えなくちゃという使命感が、フィアの中で上回っていた。

「ずっと、変で。楽しいのに、どこか」

「落ち着けって。聞いてるから」

「うん……」


 フィアは深呼吸をして、声のボリュームを下げるように努めた。言葉を少しずつ整理していく。

「ここ、あのキメラがいるんだよ、きっと。サーカスだから? でも、変。竜のにおいもなの。演目に竜は出てこなかったのに。竜を使い魔になんて、……そんな膨大な魔力の持ち主は感じられないのに」

 そう、ソフィアくらいなら、竜を満足させられる魔力を供給し続けられるけれど、人間の魔法使いで、そんな極みに立つことは、まずない。


「ソフィアみたいな魔女の気配もない」

「フィア、それどっちの方角にあるか分かるか?」

 大きくうなずいたフィアを覗き込んだオズワルトの表情は、フィアの知らない顔だった。

「あっち」

 フィアの指さした方向には、サーカスの舞台が設置されている天幕があった。しかし、あの中に、キメラはいなかった。ということは、

「きっと、物置用の方」

 大きな天幕の向こう側には、少し小さめの天幕がある。そこは大きな天幕とつながっていて、演者たちがはける場所でもあった。


「分かった。確かめてくるから。フィアは、ここで待ってろ」

「私も行くよ。魔法なら使えるし、それなら、オズより強いかもだし」

「確かに、フィアは、……役に立つな。でも、まだ分からないだろう? 対人だったら、攻撃魔法は御法度。目立ったことになったら、……俺じゃ、庇えなくなる。フィアは、魔女じゃないから。指定魔法使い扱いだから」

 一般人を傷つければ、投獄されることになる。もちろん、ティリカが、魔女が人を傷つけることを許しているわけではなく、魔女なら生命保障のない指名手配がすぐになされる。

「だけど、それってオズも一緒でしょう?」

 そう、騎士であれ同じだ。一般人を傷つけてはならない。フィアはオズワルトが心配ということよりも、一人にされることに不安を感じているのだ。

 ソフィアみたいに、フィアを置いて消えてしまうかもしれない。


「そうだけど、大丈夫。戻ってくるから。それに、戻ってこれなかったら、その事実を誰かが伝えないといけないだろ?」

 だけど、十八歳のオズワルトは、まだ小さなフィアを言いくるめるくらい簡単にできる。

「それに、ベルナンド付きの俺がいなくなれば、騒ぎになる。国が公に動けるようになる。フィアじゃ無理だ」

 だから、言い返せなくなったフィアは頬を膨らませた。

「分かった。役に立たないって言いたいんだね」

 オズワルトは苦笑いしながら「まぁ、お前ならそう取るよな」と零した。

「もういいもん!」


 頬を膨らませたフィアの頭にそっと手を置いたオズワルトは、「ごめんな」とだけ言って、ほんとうに行ってしまった。


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