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恋も書類も華麗に捌きます  作者: 浦 かすみ


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泊まり込みの必需品

泊り込みってどれくらい泊まるんだろう。


私の知ってる泊り込みってデスクの上で突っ伏して眠ってて、栄養ドリンクの瓶が転がってて生きる屍と化している状態なんだけど…


栄養ドリンクはこの世界に無いにしても魔力系の回復薬があったわよね…あれの、がぶ飲みコースかな?


取り敢えず三日分の下着の替えと洗面道具…化粧品、お泊りセットを準備していく。私の横でボストンバッグに着替えを押し込んでいるメイドのミナが


「婚姻前のお嬢様が泊まり込みだなんて…醜聞になりませんでしょうか?」


と聞いてきた。


「え~?無いでしょう、だって軍の施設内よ?密室でもないし…」


私が軽く否定しても、ミナの顔は晴れない。


まあ、この世界のご令嬢が妙齢の男性と一つ屋根の下、雑魚寝なんて普通なら卒倒ものだと思うけど…前世の記憶持ちの私からすれば問題ないとつい、思ってしまう。


次の日、ボストンバッグを抱えて出勤すると、ギナセ中尉とヒルズ少佐がすんごい顔で私を見てきた。


「フローア嬢…その荷物は何ですか?」


「え?!それってもしかして泊り業務の荷物なのですか?」


淡々と聞いてくるヒルズ少佐も、ギナセ中尉も何故そんなに驚くの?


「はぁ…そうですけど…」


男ふたりは驚愕の表情を浮かべていた。


んん?もしかして泊りって一泊だけなのかな?


「念の為に三日分の必要なものを持って来たのですが…」


「三日でそんな大荷物なの?!」


ギナセ中尉の言葉に内心、そっちかい!とツッコんでみた。


「着替えと化粧品とか…でしょうか」


「化粧品…それがそんなに大荷物になるのですか…」


私の言葉にヒルズ少佐はボストンバッグを見詰めながら唖然としている。


実はそれらのお泊りグッズ以外に大量のお菓子を持ち込んでいるのだけど、何となくこれ以上所持品のことをバラすと更にツッコまれそうなので黙っておいた。


そして異世界の繁忙期が始まった!


「昨年の資料がこれ…今年はこの地域の討伐、魔物群れの目撃情報から毎年の討伐地域は変わる」


抱えている資料の上に更に資料を載せられて、ヨロヨロしながらヒルズ少佐のデスクから離れた。


「おーい今年の参加人数は何名だ~」


「食料備蓄庫から在庫の数があがってきました」


「はい、こちらが全討伐隊の総人数です!はい、在庫数確認します!」


殿下に資料を渡し、ギナセ中尉から在庫数のリストを受け取り確認をしていく。


この忙しさに普段の政務作業も入ってくるのだ。急ぎの決済の書類の確認をした後、役人棟の後に備蓄倉庫によって支給物の確認を…と頭の中で段取りを組み立てる。


「フローア嬢、昼食を取ってくれよ。俺達もここが一段落したら食堂に行くからね」


手を高速で動かしながら、こちらを見て微笑むアイレンルーガ殿下。疲れているよね、絶対。


「御意」


そう言って頷いてから小走りに廊下へ飛び出した。


小一時間ほど動きまくって、いつの間にかお昼休みになっていた。お腹空いた…完全に電池切れだ。


食堂に辿り着くと、窓際の席で私に向かって手を振るアイレンルーガ殿下の姿が見えた。こんな距離で私が食堂に入って来たって何故、気付けるのだろう…


さて…今日の日替わりは、森の恵みゴロゴロの魔獣肉のシチューか。付け合わせは…三種類から選ぶと、よーし。


食堂のおばちゃんが並んでいる私に気が付くとニヤリと笑った。


「シチューの大盛り出来るよ…付け合わせはどうする?」


「シチュー大盛りで、付け合わせ全種類お願いします」


「よしきた!」


私の周りの軍人さん達がまたざわめいている。


大盛りのシチュー皿はもはや、どんぶりの入れ物のような大きな器だった。付け合わせの揚げ物の魚と肉と野菜のサラダがこれまた大盛りになっている。


「付け合わせの大盛りは私の奢りだよ!」


食堂のおばちゃんが良い笑顔でお皿をトレーに乗せてくれた。


「ありがとうございます」


トレーを持って、アイレンルーガ殿下の座っている窓際の席に向かうと、ヒルズ少佐とギナセ中尉もすでに着席されていて私の大盛りランチを見てまた、絶句している。


「今日も豪快だな…」


アイレンルーガ殿下が私のトレーを見て仰け反っている。さて…頂きますか!


ふむふむ、シチューはデミグラスソース系ね。ホワイトシチューにしても良いかも?これはキノコね、異世界のキノコって色が毒々しいのよね。逆に毒のあるキノコは地味な色なんだって~


「今日も、食べる速さがすごいな…」


私の正面に座っているアイレンルーガ殿下から、生温かい目を向けられている。私の大盛りランチを覗き込んでいたギナセ中尉が


「そろそろパンが無くなるんじゃない?おかわり取って来てあげましょうか?」


と聞いてきた。心配はご無用だ!


「いえ、本日はこれで…後で菓子を食べようかと…」


「菓子っ?!」


「まだ入るのか!」


また周りの軍人さん達からうぉぉ~とかの、変な歓声が上がる。何の雄叫び?


「食堂で菓子は売ってないですが…」


ヒルズ少佐が戸惑った声を上げた。ええ、知ってるわよ?


「ええ、ですから家から菓子を持って来てますので…」


と言った瞬間、ギナセ中尉が叫んだ。


「あ~あの大きな鞄!あれもしかしてお菓子が大量に詰まってるんじゃ…」


「それであんな大きな鞄なのか…!」


とうとうヒルズ少佐とギナセ中尉にバレてしまいました…ふたりから呆れたような目を向けられている。だって三日も甘い物断ちなんて無理だもの。夜食のお菓子が無いとストレスが溜まるんだもの。


私の前に座っているアイレンルーガ殿下は、ずっと肩を揺すって大笑いしている…


その日の午後…大規模討伐の軍事会議に私も参加させてもらった。討伐先での食料、医療用具の事前準備等が私の仕事になりそうだった。医療班の方と調理班の方に必要な備品のリストを見せてもらい、経費を試算してみることになる。納入先の商会にも一度面接をさせてもらって、金額等の打ち合わせをしておかねば…


「前年度の討伐の際に足りない資材はありましたか?逆に要らない資材はありませんでしたか?」


私がメモを取りながら調理班の方々と話していて、話が一段落ついた所で、医療班のおじ様から声をかけられた。


「あの…フローア=ゼルベデシ子女…」


「今は只の事務官なので、呼び捨てでも構いません」


そうよね、異世界じゃ先輩から苗字を呼び捨てとか普通にあったし…


「あ、そうですか…え~とフローアさん」


「はい、何でしょう?」


医療班のおじ様を見上げると、何だか嬉しそうな顔をされている。


「私の友人が外務省におりまして…フローアさんがライフェルーガ殿下の外交業務を取り仕切っておられたとお聞きしております」


「あ…はい、そうですね」


ライフェルーガ殿下がやらないからね…仕方なく始めたことだったけど、やり始めたら社会人の時を思い出して資料作りに熱中していたっけ。


「フローアさんは非常に優秀で在られると、友人から聞いておりましたので…納得です。今後とも宜しくお願いします」


周りの役人の方々を見ると、皆さん笑顔で私を見ていてくれた。


これだけでも、仕事頑張って良かった~と思うよね。


それから夜の刻七時…


案の定…各班から上がってきた試算を確認しているとアッという間に夜になった。


「夕食は、食堂に作り置きが置いてあるから取りに行って下さいね」


と、ギナセ中尉が伝えてくれたので、頷きながら……クッキーをモシャモシャと食べていた。


「えっと…夕食前だけどそんなに食べて大丈夫なの?」


「大丈夫です。主食と菓子は別腹なので」


「はあ…」


ギナセ中尉が若干、私を薄気味悪いモノを見るような目をして見ているが、気にしない。私の胃袋は常に外的刺激(食べ物)を求めているのだ。


ギナセ中尉に教えてもらったので早速、夕食を食堂に取りに行った。


いつも人でいっぱいの食堂は昼のみの営業なので、夜は閉まっているらしい。食堂内は非常魔灯の灯りだけがついていた。あ、カウンターの上に第一執務室用という札が置いてある所に、食べ物がある!


食べ物の匂いに釣られてカウンターに走り寄った。


おや?うちの執務室以外にも、隊長室とか、警邏詰所夜食とか、札が上がっていて大量の作り置き食事がありますよ。なるほど…事前にお願いしておけば夕食は作って貰える仕組みなのね。


うちの食事は、サンドイッチとロールパンと何だろう?調理パンとでもいうのかな…パンの中にはシチューの具みたいのなのが挟み込まれているパンとスープ……果物五種類を籐籠に詰めてある。うん?第一執務室と書かれた札の横に『フローアちゃん特別献立』という籐籠がもう一つドーーンとカウンターに乗っていた。


「わああっ!」


籐籠を開けて見ると、魔獣肉の大盛り丼みたいなのと、魔獣唐揚げっぽいものと、大量のパスタ!大きな器に入ったトマトソースパスタっぽいものがぁぁ!あ、この籐籠全体に魔術がかかっているわ。


分かった!これ籐籠製の保温ジャーなのね。魔法の底力を感じるわ!食堂のおばちゃんっありがとーーグフフ…


「うん…?」


私特製夕食メニューに心躍らせている時に、食堂の窓の外に人影が見えた。


アイレンルーガ殿下だ…


裏庭の…ガゼボに向かって歩いて行く。夜に裏庭に何の用?


そして…その殿下の後を、まだ若い兵士かな…が付いて行くのが見えた。


近衛のお兄様ではない…でも、私の知らない人だ。


これでも王族の妃候補になったくらいだ。人の顔は一度見たら忘れない…という自信がある。


知らない顔の人だわ、誰?


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