戦記24.転生者、監獄へ
本命だった侠客コンビは特訓中でバツ。
頼り甲斐のあるマカチェリーも今は万一に備えて北方シュテンデルート城の警戒に当たっているときた。
なら手詰まり?
いんや、我がクランの層の厚さをナメてもらったら困るな。
「あらあら、私でいいのぉ? 務まるかしらー」
「………………」
ま、いいかよくないかで言えばいいわけがない。
だが、もう他に頼めそうな奴もいねぇんだわ、これが。
「信用してるぜ。少なくともあんたの腕っ節だけはな」
「正直者ね♪」
ってことで、護衛役は消去法でダリアを連れていくことになった。
日頃の素行もそうだがパープルと一触即発になりかけた例の女騎士の件もあり、できれば避けたい選択ではあったが背に腹は代えられず。百パー想定し得るメンバー同士の衝突もこうなったら道中の賑やかなBGMとでも思っておこう。
「はぁ~? なんでこいつがいんのよ!」
「護衛役で同行させてもらうことになったの。背中は私が守ってあげるから安心してね♥」
「冗談じゃない! こんな猟奇女、連れて行くほうがよっぽど危険じゃない!!」
「なら貴方はお留守番してれば? 別に弟君がいればひっつき虫のお姉ちゃんは必要ないでしょ」
「誰がひっつき虫よ! 喧嘩売ってんのっ!?」
結局、ダリアのような危険人物の傍にモコを一人にしておけないという後付けも後付けの理由でロコも同伴を主張。これでパーティーメンバーは俺・メアリ・ロコ・モコ・ダリアの五人となった。ま、最初から双子はニコイチで考えていたので何も変わらずだな。
「行くよ。さっさと入って」
城の礼拝堂の床に描かれた大きな魔法陣。その中心で気怠そうな面持ちで立つモコの言葉に従い、薄ぼんやりと光りはじめた輪の中に入る。
術者を囲むように全員が収まったところで閃光が弾けたかと思えばだった。次の瞬間にはもう俺たちは別の場所にいた。
「着いたよ。出て」
モコのにべもない発言で転送が無事成功したことの確信に至る。瞬時に変化した光景に戸惑いが口を衝いた。
「ここが監獄……?」
それにしても瞬間移動ってのは何度体験しても慣れないもんだな。信頼はしてても安全な場所かどうか確認せずにはいられない。出口側の魔法陣にとどまりつつ、その場でくるりと回ってみる。
見えたのは乳白色の石壁と扉が一つ。そして、隅に置かれたダークブラウンの机と椅子。そこはそれ以外に物と呼べる物もない酷く殺風景な部屋だった。
「独房にしちゃ少しばっかし広いな」
「ここは職員用の執務部屋ですから。囚人がいるエリアとも別の棟になります。さ、皆さんこちらへ。ここからは私が案内いたしますわ」
こちらの疑問に答えるとメアリ嬢は部屋の扉を開け、スタスタと先を行ってしまう。遅れまいと俺たちも後ろをついていく。しばらく窓のない薄暗い通路を進むもその間、誰とも擦れ違うことはなかった。
妙だな。ここが収監棟ならともかく看守棟であれば職員の一人や二人いるだろうに。
「看守たちは島の船場に最低限を残して本土に引き揚げ済みです。昨日もお伝えしましたがどちらにせよ遅かれ早かれ囚人らは処分する予定でしたし、旧都陥落直後は尋問や処刑などで人員も必要でしたから」
気になって目の前の華奢で小柄な背中に問いかけるとスラスラとそんな答えが返ってきた。冷血にして合理的な判断だ。しかし、ほぼ看守不在とかもう反乱が起きていてもおかしくない状況だろ。マジで大丈夫なのか、この監獄……。
「一応の処置として看守の仕事は島一番の模範囚にすべて任せています。もちろん全員餓死するまで牢獄に繋ぎ止めておいてもよかったのですけどね、ふふっ、ユウジさんたちから頼まれた例の事もありましたし」
「例の事って何よ? なんか怪しい……」
振り向きつつ意味深そうにウィンクするメアリに何を勘違いしたのか、はたまたそういうお年頃なのかロコが半目で軽蔑の籠った視線を俺に向ける。完全に変質者を見る目そのものだ。
俺としちゃ例の女騎士の件とわかる分、弁明するよか最後尾を歩くダリアに勘付かれちゃいないかが気になった。
「そういや知ってるか。こういう古びた監獄にはな過去の囚人が掘った脱走用の抜け穴が一つや二つ残ってるもんなんだぜ」
不自然承知で話題を変え、間を置いたあとで平静を装いながらチラリと背後を見る。
幸い、軽々と大鎌を担いで歩くダリアにこれといった変化は見当たらなかった。ただ顔の上半分が黒いベールで隠れてるんで判断に困るところでもある。
ダリアはメアリが加入する前は一番の新参だった。よって知り合った期間もまだ一年ほど。俺はこの死神のような女について、ほとんど何も知らないと言っていい。
だが限られた短い付き合いの中ですら、俺はこの女が持つ人知を超えた勘の冴え渡りってもんを再三にして目の当たりにしてきた。
いつだったかメンバー数人でやってたチンチロっぽい賭け事に急遽ダリアが参加したことがあったが、あのときは最初から最後まで百発百中で賽の目を当て続けての一人勝ち。最後に親をやった俺が一番の被害者で、最終的に身包みまで剥がされたのは今となっても苦過ぎる思い出だ。
天性の勘で全てを捻じ曲げ、挫き、引き寄せる。
そんな一瞬の気も許せない女だ。
さっきの余計な一言で例の女騎士がこの監獄で匿われていることが露見した可能性は排除できない。だが、ここまで連れて来ておいて今さら護衛役を解くのも却って怪しさが増すというもの。今さらダリアだけを帰らせるわけにもいかなかった。
「これからさっき言ってた模範囚のとこに行くんだよな」
メアリさんよ、まさかここまで見越して仄めかすような発言したんじゃないよな?
「ええ、はいっ♪」
「………………」
早足で隣に追い付き、疑いの目を向けるとだった。これでもかっていうほどに無邪気で妖艶な微笑が返ってきた。
悪女め。
誤用のほうだが、どうやら確信犯で間違いなかったらしい。











