戦記1.竜殺しと姉妹喧嘩
ちょい遅くなりましたが、八千字前後でちょいいつもより長め。
あと本章は各話タイトルに「幕間」の使用をやめて戦記1~といった感じでナンバリングしていこうかと思います。
早朝。なんだか妙な昔の夢で寝汗をかいた。
起き抜けに露天風呂へ。
小鳥が囀る中、優雅な朝のひと時を終え大広間に戻ると朝食の用意ができていた。巨大な大理石のテーブルには、がらんどうといった様相でシホルとリリの姿だけがある。
「おはよ、パメ姉」
「ぱーちゃん、おはざいます!」
「おう。二人とも早いな」
キングモール家では夕餉は全員でという決まりがあるが、さすがに朝食となると別である。従者であるメイドとミニゴブリンは基本、主人よりも早く起きて一日の仕事をはじめている。夜のように全員が大広間に集うことはない。
しかし、ここ最近姿を消してるあの得体の知れない自称天使は別として、主人であるエミカの姿が朝食の場にないのはめずらしかった。
「エミカの奴、今朝は寝坊か?」
「ううん。もう部屋にもいないよ。日も昇らないうちに出かけて行ったって、さっきコントーラバさんとチェーロさんが」
「王都か、それともまた西の魔術都市にでも遠出しに行ったのか」
「なんかね、どこに行くのか訊く間もなく『晩ごはんまでにはたぶん戻るから!』ってすごい勢いで出て行ったみたいだよ。それといつもと違って手ぶらじゃなく、少し大きめの荷物も背負ってたみたい」
荷物ありってことは、十中八九で商売関係か。エミカのことだから見知らぬ遠くの地までまた足を運んでる可能性も高そうだな。
ま、なんにしろいつものことだ。
端から心配する必要もないし、心配する気も更々湧いてこねぇ。
早々に話題を消化し終え、続いては朝食のほうを消化するためフォークとナイフに手を伸ばす。と、そこで見計らったように陰湿な声が背後から飛んできた。
「パメラ様が責めたからっすよ。ご主人様、気にしちゃったんじゃないっすかねぇ~」
自分でも自覚できるほど顰めっ面を浮かべて振り向くと、そこには意地悪くにたにたと微笑むイオリの姿があった。
この碌でなし、わざわざ気配まで消して近付きやがって……。
しかも、オレがエミカを責めただと? 妙なことを言いやがる。
「駄メイド、誰が誰を責めたって?」
「え、覚えてないんすか? パメラ様、昨晩のお食事中に〝薄情者〟ってご主人様を罵ってたっす。それも心底冷たい目で」
「あ? オレがそんな酷いこと言うわけないだろ」
「いやいやいや、絶対言ってたっす! シホル様リリ様、言ってたっすよね!?」
「あー、はは……。そういえば言ってたかも」
「いってたよー! さーちゃんのことでぱーちゃん、おねーちゃんに、このはくじょーものーって!!」
「………………」
ほう。
ってことは昨日の今日だ。
エミカの奴、もしかしたらサリエルの奴を捜しに行ったのかもしれねぇな。
行方を晦ました友を案じて行動を起こす。その美しい友情関係を示すため、オレの些細な一言がエミカの背中を押すきっかけとなったのならばこれ以上に素晴らしいことはないだろう。今はそういうことにしておく。
「ときには上の立場である姉として厳しい言葉も必要ってことだな。思えばオレもガキの頃はガラの悪い姉連中によく絡まれては生意気だからちょっと顔貸せって言われてたし。ま、いつも返り討ちにしてたが」
「それは厳しい言葉でもなんでもなく、複雑な家庭環境が生み出した悲しい軋轢っす」
「人が無理にでも話をまとめようとしてるのに茶々を入れるな、茶々を」
「それでも、真実っす!」
「……わかった。もう真実でもなんでもいいからお前はあっち行ってろ。てか、普通に家事サボってんじゃねぇ。あとで絶対にメイド長に言い付けてやるからな」
「ひぃ! そ、それだけはどうかご勘弁っす!!」
朝からこんな無駄話に付き合ってるほどオレも暇じゃない。しっし、と手を振りイオリを追い払うと急いで食事を終えた。
そのあと自室に戻って準備を済ませ、日課である教師の勤めを果たすべく、オレは地下二階の談話室の隠し通路から教会経由でエミカが建てた学校の校舎に向かった。
「パメラお姉ちゃん、おはよー!」
「わー、パメラ先生ー!」
「おはようございます、先生」
「おう。お前ら早く席着けー、今日も授業はじめんぞー」
遅れることなく時間どおりに一階の教室に入室。隣の宿舎から通ってる孤児たちやモグラーネ村の子供たちに今日も勉強を教えていく。
ただまあ、学校が創立したばかりとあってあらゆることがまだ手探り。それに勉強を教える教員も全員が毎日来れるってわけじゃない。現状は生徒同士の学力にかなり差があるため、一番下の底上げを中心に据えて全体レベルの均一化を図っているところだ。
学校自体がそんな過程にあるのもあり必然として今、オレが開く授業に集まっているのは十歳に満たないような小さなガキ共ばかり。
中には性格がヤンチャで生意気な奴もいるが全員が例外なく真剣に授業に取り組んでいるだけあって、もう生徒の大半が簡単な文字の読み書き程度なら熟せるようになった。
教会でもガキ共に勉強は教えていたが、やっぱできなかったことができるようになる瞬間ってのは他人事でもなぜか嬉しく感じちまう。
初めは正規の教師を雇用するまでの期間限定で暇なときだけ協力してくれればいいとエミカに誘われ、こっちも気楽に引き受けたことだったが、気付けば開校を迎えてからというものほぼ毎日この学校で授業を開いているオレがいた。
エミカから教員として賃金は支払われているものの、正直ダンジョンに潜ったほうが遥かに稼げるわけで得になる行為とは言えない。にもかかわらずそれを承知の上で続けているということは、ガキ共に勉強を教えるという行為そのものにオレ自身が楽しさや喜びを見い出していると考えるのが道理に思える。
まだ、はっきりと断言できるほどの自覚はない。
それでも、自分にとってこの学校での時間が苦じゃないのは否定できない事実だった。
一体、なんの因果か。王室に忠誠を誓う呪われた家の子として生まれ、たくさんの同じ境遇の姉妹に囲まれ、信念ゆえにその氏族から逸脱し、力ゆえに外の世界からも孤立し、そして今、オレはここでガキ共に勉強を教えている。
本当に、人生ってのはわけがわからねぇ。
ま、これもそれも全部エミカの所為だ。
あいつに出会ってから良い意味でも悪い意味でもオレの人生、狂いに狂ってるもんな……。うん。全部あいつの所為。今はそういうことにしておく。
「今日の授業はここまでだ。全員帰ったらちゃんと復習しとけよー」
「「「はーい!」」」
やがて午後の授業も終わり下校の時間。教卓で今日の進み具合から明日の授業範囲を考えていると、いつものように教室の大半の生徒が周りにわらわらと集まってきた。
「パメラお姉ちゃん!」
「ここでは先生な」
「先生!」
「パメラ先生!」
「子供先生!!」
「晩ごはんの時間まで一緒に遊ぼっ!」
「ボール当てて逃げるやつやろやろ!」
「またかよ……。お前ら、たまには真っすぐ帰れよな」
「「「やだぁー!!」」」
「先生と遊ぶのー!」
「遊んでくれなきゃ帰らないよー!」
「たくっ、仕方ねぇな……」
頭ばかり動かしてたら身体も鈍る。それに生徒たちに健康的な生活を送らせるってのも、この学校が掲げる教育目標の一つだ。
別にオレだって暇じゃない。が、全体の底上げ期間中は外に出て身体を動かすような授業は予定されてないってのもある。生徒たちから不満が噴出するくらいなら多少の息抜き程度、付き合ってやるのも教師として道理だろう。
「うし、お前ら付いて来い! 今日は精魂尽き果てるまで遊んでやる!!」
「「「わーいわーい!!」」」
「先生楽しそう」
「なんだかんだいつも先生が一番乗り気だよね~♪」
はしゃぐ生徒たちを引き連れ校舎の外へ。整備された広い校庭に出ると半分ほどの生徒は遊び道具を取りに用具倉庫に走って行った。
「姉御ぉ~!」
「パメラの姉御ー!!」
「ん?」
今日は何して遊ぶ? あれをやろうこれをやろうと、ガキ共が和気あいあいと話し合ってる最中だった。
ふと遠くから響く声。
振り返ると、鉄門のほうからこちらに向かって全力で走ってくる複数の姿が。
姉御なんて呼び方からして教会の年長組連中だってのは見るまでもなくわかっていたが、妙に慌てている様子が気になった。
「血相変えてどうしたんだ、お前ら」
「いえ、そ、それが……」
「姉御を捜してるって連中が先ほど教会にやって来たんです!」
「俺らは話を聞いて学校まで案内するか迷ったんですが、こっちが返事をする前に下の連中が先に安請け合いしちまったみたいで」
「ジャスパーの兄貴もヘンリーさんも不在だったんで、せめて姉御にこのことを先に伝えたほうがいいんじゃないかと思いこうして走って来た次第です!」
「ほう。オレを捜してる連中ねぇ」
どこのどいつだよ。と、しばし考えを巡らせるも思い当たる節が多すぎた。
ま、教会の子供を人質に取らず普通に捜しているってんならまだ常識的な部類の連中か。現状そこまで警戒する必要もねぇか。
「わざわざご苦労だったな」
「「「いえっ、姉御!」」」
気を利かして飛んできた教会の男子連中を労い結論付けたあと、新たな気配を感じ学校の敷地を囲う鉄柵の外に視線を向けた。
まだ遥か遠くで距離はあるが、たくさんの子供と数人の大人らしき影。
どうやら件の〝連中〟とやらがもう来やがったらしい。
あちらもすでにこちらの姿を視界に捉えたことだろう。それでも焦ることなく、ゆっくりと学校に向かってくる複数の人物。
やがて、はっきりとその顏を認識できる距離までそいつらが近付いてきたところで、オレは自身の予測の甘さってもんを痛感した。
「げっ!?」
学校の開いた鉄門からぞろぞろ入ってくる教会の子供たち。その中心には見覚えがあり過ぎる三人の若い女の姿があった。
「マジかよ。あいつら、今更オレになんの用だ……」
校庭の端から端までまだまだ距離はあるが、こうしているあいだにも着実に一歩一歩と近付いてきている。
今のうち逃げるか?
いや、逃げたところで絶対に追ってくるよな。
どちらにせよもう面倒事は確定とあれば、さっさと用件を聞いて平和的にお引き取り願うってのも手か……。
連中の用件次第で、もしそうならないのであればもうそんときはそんときだが。
「ちーっす、パメラ~♪ おーひーさーしー! 元気しってたぁかなぁ~? お姉ちゃんたちが会いにきちぇあげたれすよぉ~♥」
お互いが完全に顔を会わせる距離になり、馬鹿みたいな口調で馬鹿みたいに両手を上げて馬鹿みたいに一番に口を開いたのは、白いシャツに短いスカートのちゃらちゃらした金髪の馬鹿だった。
胸には赤い格子柄のリボン。
足元には靴の履き口が隠れるほどだぶだぶで蛇腹の靴下を履いている。
奇抜というよりは奇怪なファッションに身を包んだそいつは、オレが無視していると満面の笑みを浮かべつつ接近。
そして、そのまま隣に並んで来たかと思えば気安くこちらの肩に手を回し、ドスの効いた声で囁くように言った。
「おい、てめぇナメてんのか? 愚妹がシカトこいてんじゃねぇぞ」
「………………」
はぁ……。
昔の自分だったら間違いなくこの場で大剣を出現させ、即座にこの馬鹿――スミレを容赦なく叩き潰していたことだろう。
しかし、今のオレは教師だ。よりにもよって生徒が見てる前で情操教育に悪いことは軽率にできない。
なるべく穏便に済ませるため、オレは慎重に言葉を選び抜いた上で対話をはじめることにする。
「……よう、久し振りだな。クソ弱いくせに全員まだくたばっていなかったとは驚きだ。不肖の姉を持った妹としてはこのままいつまでも感動の再会に打ち震えていたいところだが、生憎とオレはこれから遊ばなきゃならんで忙しい。挨拶はいらねぇからさっさと用件を言えよ、三馬鹿共」
「ぐぬっ、貴様!」
いきなり威嚇してきたスミレの腕を振り解き押し返すと同時だった。
「目上の姉たちに向かって馬鹿とはなんだ、馬鹿とは!」
続いて入れ替わるように馬鹿みたいに大声で捲し立てながら馬鹿みたいにずかずかと前にやってきたのは怒れる馬鹿だった。
桃花色の髪に、ひだのある足元すれすれまである長いスカートと丈の短い上着。
はだけた胸元は白い包帯が何重にも巻かれている。
すでに限界まで頭に血が上っていたのか腰に下げた細い刀身の剣を抜くと、その姉――サクラは周囲の状況など一切お構いなしに剣先をオレに向けた。
「我が愚妹よ! その傍若無人な態度、相変わらずのようだな! こうしてまた巡り合ったのも宿命と呼べる縁! 今日という今日は小生がこの刀でもって貴様をばっさり修正し、真っ当な妹へ更生してやろう!!」
「なんつぅかぁ~、やっぱ久々に会ったけど生意気すぎー? ここは当然シメるっしょー」
馬鹿サクラが剣を抜いたかと思えばだった。馬鹿スミレも腰に下げていた得物である刺々しい鞭を抜き、その先端を地面に叩きつけた。
バヂッという鈍い音と共に上がる土煙。
校庭の地面がそこだけ線を引いたように深く抉れると、さすがにそれまで黙って見守っていた周囲の生徒や教会の子供たちもざわめきはじめた。
「え、なになに?」
「あのお姉さんたち、なんか怒ってるみたい」
「えー、なんでなんでー?」
そして対峙する剣と鞭を前に、オレの苛立ちも一気に我慢の限界に達しようとしていた。
「こいつら……」
ダメなのはもとから知っていたが本当にダメだ、この姉連中。昔から何も成長しちゃいねーし、何も変わっちゃいねぇ。
てか、こんな場所で得物を抜きやがって傍若無人はどっちだ!
「いざ、尋常に勝負!」
「ぜってぇ、泣かすぅ~」
「………………」
生徒たちの教育には悪いが、もうそんなことを気にかけてる場合じゃなかった。向こうは完全にやる気。というか最初からそのつもりだったのだろう。
去年、エミカと出会ったばかりの頃、王都のダンジョンで魔槍を手にしたあいつとはやりあったが、それを除けば本当に久し振りガチの姉妹喧嘩だ。
いいぜ、クソ姉共。
そっちがその気なら、昔のように――
「――スミレ、サクラ! もうやめなよ!!」
しかし教師としての本懐を諦め臨戦態勢に入ろうとした、まさにその瞬間。新たにもう一人の姉が駆け付けると、そいつは一触即発の事態を鎮めようと果敢にもオレたちのあいだに割って入ってきた。
「こうして久し振りにパメラに会えたってのに! なんで二人とも素直になれないかな!?」
前者二人とは違い、特に特徴と呼べる特徴のない女。セミショートの黒髪と、頭から足元までどこにでもいる町娘然とした普通の格好。
そいつはスミレとサクラに対し、怒りを露わに詰め寄っていく。
「それにF-Ⅰからも待機中に騒ぎは起こすなって言われたでしょ! こんなとこで大っぴらに姉妹喧嘩なんかしたらあとで絶対にバレて懲罰だよ!!」
「うっ、それは、たしかに不味いでありますな……」
「あと周りっ! こんな大勢の子供たちの前で凶器振り回したら危ないでしょ! 万一にケガでもさせたら一大事だよ! わかってるの!?」
「ちょ、久々マジでキレてるしぃ~。ちょっと揶揄っただけじゃぁん?」
スミレとサクラがその気迫に引き下がり、三人はオレから離れていく。それを見て、それまで様子を窺ってた周りのガキ共は一斉にオレの傍に集まってきた。
「ねーねー、あの人たち先生の知り合いー?」
「なんであの人たち、さっきからず~っと怒ってるのー?」
「パメラお姉ちゃん、あの変な格好のお姉さんたちと戦うのー?」
「戦うー? なんでー?」
「だって仲悪そうだったもん」
「ケンカだ、ケンカー!」
「えー、ケンカはだめだよー?」
「………………」
ガキ共に両腕をぐいぐい引っ張られながら待っていると、やがて姉三人のあいだで話は付いたようだった。
「本当にごめんね、パメラ!」
しばらくしてスミレとサクラを叱った姉がオレの前までやって来ると、彼女は代表して謝罪の意思を示した。
「なんの連絡もなしにいきなり会いに来た上、しかもあの二人が最初から喧嘩腰でさ。迷惑だったよね……」
「ああ。えっと、その……、えー、なんつーんだっけか」
「ん? どうしたの、パメラ?」
「あ、いや、別に……その、お前が謝ることじゃないだろ。悪いのはその後ろの大馬鹿二人なわけだし」
オレが指を差すとスミレとサクラは鋭く睨みを利かし、また殺気を飛ばしてきた。だが、もう絶対にこいつらの挑発には乗るまい。
二人の愚姉は消えたものとして、オレは正面にいる唯一言葉の通じる姉に絞って対話を再開させた。
「それで、わざわざこんなとこまで来て一体なんの用だ? 揃いも揃って任務はどうした」
「いやねー、その辺の事情を話すとさ、ちょっとばかし長く――」
「あ、じゃあいい」
「え?」
「長くなるなら聞きたくねぇよ。さっきも言ったとおりオレは忙しい」
「えっ」
「あと、やっぱダメだ。どうしてもさっきから思い出せねぇ」
「へ?」
「お前、名前なんだっけ?」
「ええっ!?」
気の抜けた聞き返しの連続のあとだった。不意に驚愕の声を上げると、目の前の姉は今度はオレに対して一気に言葉を捲し立てた。
「ちょっと、パメラ本気で言ってるの!? ツツジだよ、ツ・ツ・ジ! あの極上に死ぬほど優しかったツツジお姉ちゃんだよ!! ほら、姉妹の中でも断トツで面倒見よくて妹全員から慕われてた、あのっ!!」
「あー、そっか。そうだったな。ツツ……、ジ……?」
「全然ピンと来てない!?」
ま、たしかにそんな地味な名前だった気がする。
慕われてたどうかはマジで知らねーが。
「実家にいた頃はあの二人に限らず、もっと上のヤバい姉たちからもよく守ってあげてたでしょ!? それに私めちゃくちゃパメラの面倒見てあげてたじゃん!!」
「覚えがねぇな。そもそもあの実家で誰かに守られた記憶ってもんが皆無だ」
「うええええっ!? そ、そんなぁ……、酷い! 酷いよ、パメラ……! う、うぐっ~!」
「……は? おいおい、こんな大勢のガキの前でいい歳した大人が泣くなよ。みっともねぇだろ」
「ひ、ひぐっ……! な、泣いてなんか、泣いてなんか……なっ、うわあぁ~ん! パメラの薄情者ぉーー!!」
完全にもう大泣きしながらだった。目にも留まらぬ速さで背中に担いでいた弓と矢を掴むと、ツツジは弦を引き一瞬で俺の眉間に狙いを定めた。
「なっ、お前!? こんな至近距離でなんてもん構えやがる!!」
「うるさいうるさいっ! こうなったらパメラを殺して私も死んでやるぅー!!」
「はぁ!? マジで意味がわかんねぇよ!!」
一体どういうことだ。
さっきまで仲裁者を気取ってた姉の豹変。たかが名前を忘れていた程度でこのキレっぷり。やはりこの愚姉たち、全員漏れなく頭がおかしかった。
「ちょっち、パメラてめぇー! 何ウチらのツツジ泣かしてくれちゃってんだぁ~!?」
「まさか口撃とは……、見損なったぞ、パメラ! 貴様も剣を扱う〝武士〟ならば正々堂々その腕のみで勝負してみせよ!!」
ツツジが戦闘態勢に入ったのを見て、透かさず後ろの馬鹿二人もまた得物を抜いて即座に参戦してきた。
一対一が一対二に。
それを回避して一旦は対話に向かうも、なぜか結局は一対三の全面戦争に発展。
うん。
もう何を言っても無駄だな、こりゃ。
「〝いでよ、我が大剣〟――!」
天賦技能を発動させ光の大剣を出現させると、オレは同時に襲いかかってきた三人の姉を昔のようにボコボコに叩きのめした。











