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エピローグ -旧都陥落-


 俺たちがこのバートペシュポートという都市を制圧して数日が経った。

 城の守備隊とともに街の衛兵部隊は即日降伏。すでに政治機関から商業組合まで、まるまるすべてがこちらの支配下になっている。

 統治は順調に進んでるというか進み過ぎてると言ってもいいだろう。これも卑怯なコウモリよろしく、あっさり裏切ってくれたあのメアリっていう女様様だ。

 あの小柄で童顔な領主が反旗を翻したあとの行動は常軌を逸した上であまりに迅速だった。

 離反に反意を示した者。

 暗殺を試みようとした者。

 逃亡しようとした者。

 そのほとんどが自身の血筋や縁者だったにも関わらず、メアリ嬢はわずかな躊躇いも迷いもなく、そしてさらには容赦なく一斉に全員の首を括る決定を下した。

 これだけの都市だ。司法機関だって立派なもんがあるだろうに裁判なしで即日の死罪を言い渡した。挙句、わざわざ見世物にするため街の各広場にて公開処刑を実施。その判断は狡猾で、齎した効果も覿面と言えるレベルで多大だった。

 都市の中枢を支配しても市民の中からレジスタンスが生まれれば鎮圧には手を焼いたことだろう。てか、それは半ば覚悟の上でもあった。

 しかし、今のところ抵抗組織が武器を持って立ち上がる兆候はまったくもって見られない。それだけ市民にとって今まで良き領主だったメアリ嬢の変貌が恐ろしく映ったのだろう(ま、これは常に街を巡回してる粗暴なクマ人形たちの圧力もあってのことだが)。

 と、斯くして恐怖政治を実行したメアリ嬢はその生来のヤバい残虐性を隠すことなく大手を振るっていた。

 枷が外れるっていうのはまさしくこういうことを言うんだろな。この世界に犯罪心理学なんてもんはまだ生まれてないんだろうが、ありゃ絶対に殺人鬼。シリアルキラーって奴だと思う。じゃなきゃ本物の魔女か何かだろう。


「あいつら最低! 悪趣味なんてレベルじゃない!!」


 それは大量の処刑が行われた日の夜のこと。ロコの奴がモコに宥められながら何やらブチ切れてた。からかいついでに話を聞いてやったら、城の地下でとても悍ましい光景を見てしまったんだとか。

 ちなみに()()()()と複数形なのは訊くまでもないからあえて訊かなかったが、新参のダリアもその場にいたのは間違いないだろう。惹かれ合うものがあったのか城を制圧した初日にあの二人は意気投合。その場でニコイチの関係になってたからな。


「わざわざ各種族用の拷問器具まで揃えて……本当に信じらんない! あの連中、殺しをなんだと思ってんだか!」


 そんな古今東西の拷問器具が備わった施設が、なぜ城の地下になんかにあんだろうな。ま、あっても決しておかしくないか。スパイを捕らえて尋問するにも悲鳴の届かない場所じゃなきゃな。城の入口や尖塔の頂上に作るわけにもいかない。

 だが、一番おかしいのはそんな物騒な場所がこの都市の治安のためにではなく、ただメアリ嬢の趣味のためにあるって話。つまりは秘密の私室ってことで、そこでは夜な夜な仄暗い行為が繰り広げられているんだそうな。


「もう寝るっ!」

「おう、嫌なことは寝て忘れるのが一番だ。寝ろ寝ろ」


 ロコはマジで気分を害したようで正しく何が行われていたのかその細部まではっきり詳しく説明しなかったが、当日処刑されたバートペシュ家とその分家の一族の中に若い女と子供が一人も含まれていなかったことを考えれば容易に想像のつく話だった。


「たしかに俺らの基調というかカラーはブラックだが……あのメアリ嬢、本当に仲間として迎え入れるつもりか?」

「そういう約束だ」

「なぁ、パープルさんよ。約束は守る以外に破るためにもあるんだぜ」

「屁理屈を言うな、ユウジ」


 ここ最近、新規で加入した(&加入することになる)メンバー。

 ダリアとメアリ。

 サイコパス女にシリアルキラー女だ。

 安全な場所から見物するぶんには決して悪いコンビじゃないだろう。個人的にはダークファンタジー物ならダブル主人公としても無しよりの有りの組み合わせだと思う。

 ただ、正直いくらなんでもそんな血生臭いキャラ二人もいらねぇだろって話で、俺はチームバランスの崩壊を招くのではという懸念から我が首領様を突っついてはみたものの、パープルが一度決めたことを「はい、そうですか」と簡単に曲げる奴じゃないことももちろん知ってた。

 俺は建前のためだけに申し訳程度の論戦を繰り広げたあと、最後に「そか」と短く発し、投了。チームの最後の防波堤になるには実力不足を痛感しつつ素直に説得を諦めた。


「ま、お前が決めたことだ。好きにすりゃいいさ」

「………………」


 と、まあ、そんなこんなでメアリ嬢は無事その功績を認められパープルに断罪されることなく正式に俺たち終焉の解放者(リベレーターズ)の仲間入りが決まった。


 俺。

 パープル。

 ジーア。

 ラッダ。

 レオリドス。

 マカチェリー。

 ゴルディロックス。

 アレクベル。

 ロコ。

 モコ。

 ダリア。


 これに足し算して記念すべき十二人目の仲間ってわけだな。

 てか、改めて考えてみると血生臭いの全然二人だけじゃなかったわ。男連中を除いたらほぼほぼ血生臭ぇわ、このクラン……。


「私を認めて下さり、これ以上の至福はありません。我が女皇(クイーン)


 公開処刑が実施された二日後の早朝。

 面と向かって仲間に加えることを伝えると、親睦を深めたいという理由で俺たち二人はお茶会に誘われた。いやはや、なんとも貴族の令嬢らしいご提案でしょう。わたくし感激ですわ。


「せっかくの天気ですし、今日はお外に参りましょう」


 特に断る理由もなかったこともあってパープルと一緒について行くと、城の裏にある庭園まで長々と案内された。


「こりゃまた、前衛的(アヴァンギャルド)な……」

「うふふ。勝利の記念碑としてしばらくこのままにしておこうかと」


 庭園の真ん中には丸みを帯びたゴーレムが何十体も山積みになっていて、まるで現代アートの奇怪なオブジェのようだった。

 パープル曰く、全部あの赤髪の女の子が魔術的なもので召喚した土塊だって話だが、そういや例の魔術都市でもあの爺さんと戦ってるときに切り札っぽく上手く使ってたっけか。知性も高く動きも俊敏で、こいつらにはラッダたちも相当手を焼かされたらしい。

 結局、ゴルディロックスのクマ人形総出の上、数で圧倒し続け魔力切れを起こすまで戦闘を強制。ほぼ一日かけてようやく無力化したんだとか。

 てか、メアリ嬢にとっては勝利の余韻を楽しむ形で趣向を凝らしたつもりなんだろうが、これは悪趣味以外の何物でもねぇわ。外でお茶を楽しむなら桜の木でも植えとけよ。ま、処刑した親戚一同の生首を並べてないだけまだマシっちゃマシだが。


「お二方とも、どうぞこちらへ」


 庭園にぽつりと置かれた大理石の丸テーブル。

 その席を勧められてパープルが無言で着席するのを横目で見つつ、俺は先に釘を刺しておこうと早々に立ったままで言った。


「メアリ嬢、俺たちはあんたを仲間として認める」

「はい♪」

「が、現時点でそれをよく思ってない連中も少なからずいる」

「あらあら、そうなのですか。ショックです」

「ああ。まぁよ、先輩風吹かして細かいことを言うつもりはねぇが、例の趣味についてはもう少し自重してくれよって話だ。それを不快に思う奴がいるってのもあんたにだってわかんだろ」

「同胞としてまったくもって不思議です。私たちは同じ星の下で生まれた同一の存在だからこそ巡り合えたのではありませんか?」

「同類だろうと完全に同じなわきゃないだろ。似てたとしてもみんな少し違うってのが人間だ。それに、俺はここにいることを運命だとも思っちゃいない」

「本当に残念です。ダリアさんのように心より理解してくれる方もいらっしゃるのですが。しかし、賛否があるというのであれば致し方ありません。これからは自重するよう心がけます」

「頼むぜ。少なくとも俺たちは――いや、俺は、この世を地獄にするために戦争を吹っかけたわけじゃない」

「うふふ、地獄はお嫌いですか」

「嫌いだね。前にいた世界がある意味ではそんな世界だったからな」

「ユウジさん、ならあなたは幸運です。何せ本来であればこの世界もまた真の地獄であったはずなのですから」

「あ……?」


 いや、いきなりなんの話だよ。

 ま、若干不思議ちゃん入ってる狂人の話をすべて理解するなんてそもそもが不可能。都度、疑問を解消しようなんて徒労でしかない上、それをやれば自然と相手に会話の主導権を握らせることにもなる。

 思う壺を避けて、俺はあえて理解した振りをしたまま当てずっぽうに会話を続けた。


「あー……ってことはメアリ嬢、あんたはパープルを地獄の王にでもするつもりか」

「ええ、はい。少なくとも()()()()()()()()()として見込んでいます。自画自賛ですが、大丈夫。私のこの黒い目に決して狂いはありませんから」

「おい、二人ともさっきから何をあーだこーだ話している? 趣味だか運命だか地獄だか、意味がわからん。それに私は王を討ち滅ぼしはするが、王にはならないぞ」

「………………」


 俺も途中から理解してなかったが、パープルは最初から理解してなかった。

 ただ、どちらにせよこんなのは意味のない戯言も戯言。直後、同様のことを思ったのか、メアリ嬢は光のない真っ暗な双眸を別の方向に向けるとともに話題を変えた。そのタイミングで俺もパープルの隣の席に着くことにする。


「結局、残念ながらミリーナお姉様には逃げられてしまいましたね。バートペシュ地方一帯に手配書はすでに回しましたが、現時点では命令に従わない地位者のほうが断然に多いでしょうし、匿う者すら現れるかもしれません。素直にさせるにはこの旧都同様、攻め入る他ないと思いますが」

「近隣に用はない。地中に潜って逃げたんだ。少なくともすでに女王はこの地方周辺にいない」

「では、我が女皇(クイーン)。次はどうするおつもりで?」

「決まっている。獲物を逃したのなら追うまでだ」


 マナーもへったくれもなかった。

 給仕が注いだ紅茶を一気に飲み干しカップを乱雑に置いたあと、パープルはそこではっきりと宣言した。


「次は、王都を攻める」
















 はい。感想欄でも言ってたとおり、これにて旧都編(前半パート)は終了になります。

 いつもならまたのんびり編を挟むところなんですが、次は後半パートの【戦争編(仮)】へと突入していきます。

 ただ、仕事が忙しいというか銭を稼がにゃならんのと、プロットの変更点もありまた再開まで少々お時間を頂きたく思います。できるだけ早めにカムバックしたいのですが、ちょいと再開時期は未定とさせてください。

 すみません! すみませんっ……!!


 あと章終わりってことで切りもいいので良ければなのですが、まだの方は↓のほうより☆の評価を頂けると地味に作者の脳汁がプシャーってなります。

 もう評価頂けた方も最近では「いいね」なる表には何も反映されない謎機能があるので、お手数ですがクリックして頂き、作者を「いいね」無しには生きられない承認欲求の鬼のような躰にして下さると大変助かります。


 では、申しわけありませんが再開の時期までまたしばしお待ちをm(_ _)m


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― 新着の感想 ―
[良い点] ロコちゃんは露悪的な言動するけど、やっぱりかわいいなぁ。それに引き換えあの二人は。肉体拷問&精神拷問の最悪コンビじゃないですかー。 [気になる点] コロナさんの安否。 コロロンのことかー!…
[一言] オブジェにされたモグレムたち 魔力供給されたら普通に復活する上、実は無尽蔵に生み出せるという……
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