幕間 ~首領来たる~
バートペシュ城、中央塔中層の大広間――
石灰岩を使った白墨で床に二種類の複雑な魔法陣を描くと、モコは白い円の内側に入り光の中に消えた。
まる描いてポン!の天賦技能発動後、程なくして終焉の解放者の双子の片割れは、その創設メンバーであるパープルとユウジの二人を連れて戻ってきた。
「――で、そっちの金髪のねーちゃんが件の領主さんか」
「お初にお目にかかります。バートペシュ家当主、メアリ・ド・バートペシュです。失礼ながらお若く見えますが反乱軍の司令官殿でしょうか?」
「いや、俺はただの……うーん、なんなんだろうな、マジで」
「はぁ?」
「ま、責任者というかリーダーはこっちの大エルフ様だ。要望があんなら交渉でも命乞いでも全部こいつに言ってくれ」
「なるほど、こちらのお方でしたか……ふふ、確かに素晴らしいですね」
ユウジが目配せしつつ隣のパープルを示すとだった。メアリは自ら進み出て表情のない彼女の前に立つと端的に望みを言った。
「私を、貴女様の陣営にお加えください」
「いいぞ」
「ちょっと!?」
首領の回答に場にいたロコが非難を込めた驚きの声を上げる。モコとゴルディロックスは反応薄く僅かに首を傾げるだけだったが、普段から率先してクランの方針に関わろうとしないユウジですらその即答には黙っていなかった。
「おいおい、パープル……お前な、いくらなんでも無条件とかそりゃ軽率が過ぎるぜ」
「わかっている。もちろん女王の件が真実であればだ。命欲しさの虚言であったのであれば私が殺す」
「ご安心ください。決して嘘などではございません。このメアリ・ド・バートペシュ、今日より貴女様に永遠の忠誠を誓いましょう」
「忠誠は必要ない。私たちは旧都を手に入れる。そのために役立て、メアリ」
「はい。どうかなんなりとお申し付けください、我が女皇」
「「………………」」
新しい仲間があまりにあっさり加わったことで、ユウジとロコは唖然とする他なかった。パープルの判断にも驚いたが体制派だった領主の変わり身の早さも異常だ。どう考えても裏があるようにしか思えない。
「ねえ、私あいつ信用できないんだけど? てか、どうなってんのよ、この組織は……」
「仕方ねえだろ、パープルが決めたことだ。それにまだ正式に仲間に入ったわけでもねーし。まずはあの女の話が本当かどうか……んっ?」
そこまで言ってだった。ユウジは肝である女王の姿がこの大広間にないことにようやく気付いた。
「って、その女王はどこだよ?」
「異邦人さん、もう一人の女ならゴルディーのクマさんが牢屋に閉じ込めてるの」
「は?」
「近くに頑丈な牢獄があるって話だったから、あっちはクマ人形たちに監禁しとくよう命令しといたのよ。捕虜二人とか邪魔だったし」
「いやいやいや、適当かよ!」
「は!? 仕方ないでしょ、絶対に出任せだと思ってたんだから!!」
結局、アレクベル経由で伝達した上、幽閉場所である小塔には上空にいるマカチェリーが今から向かうことになった。
仲間が女王と思われる人物を飛竜で回収次第、中央塔中層にあるこの大広間まで連れてくる手筈である。そのあいだ多少の時間、暇を持て余すことになるだろう。こんな状況だろうともまだ給仕の一人や二人はこの城で生き残っているはずだった。
「えっと、金髪の領主さんよ」
「メアリです」
「え?」
「もう仲間なのですから、私のことはどうか親しみを込めてメアリと呼んでください♪」
「あ、ああ……んじゃ、メアリ。喉が渇いたからなんか飲――」
『――ラッダさんたちが裏側の城壁付近で敵を追走中』
ユウジがメアリに紅茶の一杯でも催促しようと思った矢先のこと。アレクベルから突発の戦況報告が場にいたメンバー全員に齎された。
『どうもかなり手こずってるみたいです』
「行くぞ、ユウジ」
「へ?」
そもそも戦闘を目的としてやってきたパープルである。苦戦の一報に食指が動かないはずがなかった。
「ちょっ放せ! 行きたいんならお前一人で行けばいいだろ!!」
「私はお前の護衛役でここにいる。ユウジから離れられない。ならばユウジが付いてくるしかないだろ」
「守るべき対象をわざわざ危険な場所に連れて行く矛盾にまず気付いて!?」
「いってらっしゃいませ」
「いってらっしゃいなの」
「いってらー」
「たく、何イチャついてんだか」
暴れて抵抗するユウジの腕を力任せに掴んで大広間を出ていくパープル。下層域に向かう二人を他のメンバーは一切止めることなく見送った。
※いつもより投稿期間が短いですが文面も短いので、前々回に続いてリベレメンバーの能力紹介でも。
能力名:まる描いてポン!
使用者:モコ
概要:人や物を〝テレポート〟させる
地面や床に描いた魔法陣を使い対象を一瞬で転送することができる。円を大きくすれば巨大な物も運べるが能力的な制限として限界有り。
マークには二種類あり、白字で刻まれた魔法陣がテレポーターの入口となり、黒字で刻まれた魔法陣がテレポーターの出口となる。マークが消されたり自然に風化しない限りは永続的に使用が可能。
同一の二地点を行き来したい場合はA地点とB地点、それぞれに白字と黒字の魔法陣をマークしなければならない(つまり計四つの魔法陣が必要)。
白い魔法陣内に対象が完全に収まることが発動条件の一つで、使用者のモコが念じれば世界中の如何なる黒い魔法陣内に自由にテレポートすることができる(その際、随伴者や物資も同時に転送となる)。
応用でトラップとしての活用も可能。
だがその場合、モコが白い魔法陣をある程度目視できる距離にいることや、嵌った人間は必ず一番近場の黒い魔法陣に飛ばされるなど幾つかの制約が発生する。
以上。
ちなみにキャラの名前の由来はロコモコ丼のロコモコ。クレイジー的な意味であんまりいい語源ではないらしいですが、日本語だとカワ(・∀・)イイ!!響きです。
次回もこのペースで投稿できればばば……がんばります。











