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224.救出と合流


「おりゃあー!」


 ――ドゴォ!!

 ――ポン!


 背後から不意に襲いかかってきたクマっぽい獰猛なモンスターの群れ。

 その最後の一体を渾身のカウンターモグラパンチで叩き伏せた私は、すっかり静かになった辺りを見渡した。


「うっし、殲滅完了! ……で、いいんだよね?」


 薄く白煙が立ちこめる中、城の屋外には無数の小さな人形があっちこっちに転がってた。

 手の平サイズの可愛いクマのぬいぐるみだ。すべて例外なく、裂けたお腹や潰れた頭部から白い綿が飛び出してる。

 自分でやっといてなんだけど見るも無残。スカーレットがプレゼントしてくれたぬいぐるみたちを大切にしてるリリには絶対に見せられない光景だよ。

 でも、降りかかる火の粉を払った結果だし、私は悪くない。許せ、名もなきクマたちよ。


「てか、死んだフリとかじゃないよね? 油断したところをまた背後からガブッとか、やめてよ……」


 慎重に慎重を重ねて破壊されたクマたちを一つずつブーツの先端でちょんちょんして、安全を確認。

 うん、大丈夫。完全に事切れてるや。

 殲滅を確信したあとでようやく、私は大きく安堵の息を吐いた。


「はぁ……。で、なんだったんだろ? この人形たち……」


 実際にそう呼んでみると、人形って言葉は思った以上に飾り気がなくて冷たい感じがする。とりあえずクマのぬいぐるみだから〝クマぐるみ〟とでも呼称しとこっかな。

 さて、そしてここで一つ問題だ。

 このクマぐるみ、前にもどこかで見た記憶がある気がする。

 応戦してる最中も確実に既視感はあった。以前もこんなのとコブシとコブシを交えた経験があったはず。

 あれは、うーん……いつだったかなぁ?


「あ、そうだ」


 なんて感じで呑気に思い出してるとだった。記憶は拍子抜けするほどあっさり呼び起こされた。


「聖杯の儀のとき。そうだよ、王子様が誘拐されそうになったときの……」


 その瞬間、不明朗だった嫌な予感が私の中で確実なものに変わった。


「ってことは、さっき空を飛んでたあの竜も!?」


 どうしてもっと早く思い出せなかったのか。

 あのとき、私が目撃したのも同じ青い飛竜だった。

 異質な怪物と希少な竜。とても偶然の一致とは思えない……。

 それでも、その符合が結果として何を齎そうとしてるのかは未だ不明確なまま。ただ、王子様の誘拐を企みパメラを襲撃した例の連中が、今この旧都で起きてる争乱に正面から関与してることはもう明らかだ。

 その答えだけでもこのまま逃げ帰るという選択肢は消えた。


「パメラのことも考えたら、せめて連中の目的ぐらいは探っておかないとだよね……」


 子供を平気で攫おうとするような悪い人たちだ。どうせ今回もロクなことを考えてないに違いない。

 場合によっては私がなんとかしないとだ。


「とりあえず、いつまでここにいてもしかたない。さっさと移動しよう」


 ただ、行くあてといえるような場所も特に思いつかなかった。唯一あるとすれば、さっきから西の方角からかすかな喧騒が響いてきてる。もしかしたらあっちのほうではクマぐるみたちが大暴れしてて城の兵隊さんたちと戦ってるのかも。

 ならばここは私も加勢してクマぐるみたちを片っ端からポンポンしていこう。

 思い立って屋外通路を駆け出す。

 幸先悪く城の広大な外縁部で迷いつつも、まずは中央塔に繋がるルートを探す。もちろん方向はわかってたけど城の屋外通路は袋小路になってる場所も多々あって、その度に私は何度も来た道を引き返す羽目になった。


「……っ――ど、ぜ……」

「リ――っ!?」


「んっ?」


 でも、その道中のこと。

 不意に人の言い争うような声が風に流れて聞こえてきた。だけど、遠くて内容はさっぱり。辛うじてわかるのは、どちらの声も大人の女の人のものだってことだけ。

 方向も今一つかめない。なんとなく、足元のほうから喧騒が届いてきてるような……?

 耳を澄まして意識的に声の方角に向かってると、やがて私は転落防止の欄干に行き着いた。そこから建物数階分ほどの高さを挟んだ階下には、色とりどりの花々が咲き誇る美しい場所が見えた。

 四角く切り抜かれた広い空間があって、腰かけるためのベンチなんかも置いてある。どうやら中庭になってるみたい。

 庭園の花壇は規則正しく並んでて、そのあいだのタイル張りの通路には三体のクマぐるみと複数の人影があった。


「………………」


 欄干の傍で屈んでこっそり様子を窺う。数えると五人の人物がいたけどそのほとんどに見覚えがあった。

 そのうち三人は例の誘拐犯グループの一味だ。巨大クマぐるみに命令してたあの暗い感じの子もいる。

 残るは大人で、言い争ってるのはこの二人みたい。片方はどう見ても私がさっき謁見した領主様だ。そして地面に膝をついて倒れてるのは……んー、ちょっとこの位置からだと後ろ姿しか見えないや。

 顔を確認するため欄干伝いに回りこもうかと考えてると、三体のクマぐるみたちが突如として動き出した。そのままそのうちの一体が、領主様じゃないほうの女の人を軽々と担ぎ上げた。

 私から見て左手側に三体のクマぐるみと謎の女性が。

 そして、右手側に残る四人が。

 それぞれ別れて歩き出す。

 どうやら階段を上って庭園を後にするみたいだね。さて、どっちを尾行するべきか。

 普通に考えたら誘拐犯グループを追うべきだったと思う。現に私の足は無意識のうちに右側へ向いていた。

 だけど次の瞬間、さっきまで謎だった女性の顔が目に飛びこんできたことで、私の意識は一気にそっちに持ってかれた。


(――あっ、女王様!?)


 驚愕の中、思わず声を上げてしまいそうになって慌てて口元を押さえる。

 え、どうして? なんでこんなとこに? いや、やっぱ見間違い? それとも、ただのそっくりさん……?

 一瞬でいろんな疑問符が飛び出したけど、よくよく考えなくても状況的にどう見たって女王様らしき人が置かれた立場はよろしくなかった。

 てか、間違いなく、あの様子はピンチそのもの。

 私はクマぐるみたちの後を追うことに決めた。

 一定の距離を空けながら壁や柱の陰に隠れつつ慎重に尾行を続けてると、やがて見覚えのある小さな塔の前へ。女王様を担いだクマぐるみたちは躊躇する様子もなく中に入っていった。


「あ、ここ牢屋があったとこだ……」


 見覚えがあるのも当然だった。つまり私は振り出しに戻ってきたというわけ。


「ここを目指してやって来たってことは、女王様を檻の中に閉じこめるつもりかな?」


 その予想は当たりだった。

 少し間を置いたあとで塔の階段を駆け上ると、クマぐるみたちは肩に担いでた女王様を牢屋の中に押しこもうとしてた。


(食らえ、モグラパンチ三連打――!)


 さっきのお返しだった。

 隙を突いて今度はこっちから背後を強襲する。


 ――ポン!

 ――ポンポン!


 たかが三体ってこともあって一瞬で仕留めることができた。

 たちまちクマぐるみたちは無害な小さなぬいぐるみに変化。直後、牢屋に押しこまれかけてた女王様と目が合って、私たちはそれぞれ驚きの声を上げた。


「やっぱ女王様だ!!」

「エミカ!?」


 いつもより質素というかシンプルなドレス姿ってこともあって、他人の空似の可能性も完全には捨て切れなかったけど、こうして顔を合わせればそれはもうどこからどう見てもあのミリーナ様だった。


「ど、どうして、ここにあなたが……?」

「えっと、それがですね話すと長く――は別にならないか……。でも、些細なことなのでお耳に入れる必要もないかと。それより、女王様のほうこそですよ。どうして旧都に? しかも幽閉されそうになってましたけど」

「それは……私のほうは理由を話すと本当に長くなってしまいます。それよりも天の助けとはまさにこのことです! エミカ、どうかコロナを捜すのに手を貸してください!」

「え、コロナさんも一緒なんですか?」

「……はい。彼女は襲撃者たちを足止めするため、おそらく今も戦っています。合流し、私たちは速やかにこの旧都を離れなければなりません」

「コロナさんが……」


 そこでふと記憶が繋がるように、私はこないだハインケル城で会ったティシャさんの言葉を思い出した。

 たしか護衛のため女王様と行動を共にしてるって言ってたよね。ってことは、女王様もコロナさんも公務で旧都に来てたわけか。


「あの……、なんかすごくヤバい事態になってるってのは私でも十分わかりますし、女王様のお願いならもちろん喜んで引き受けますけど、逃げるよりここの兵隊さんたちと協力してさっきの連中を捕まえたほうがよくないですか? あの人たちがこの旧都で何を企んでるのか、その目的はさっぱりですが……」

「すべてを説明するのには時間が必要ですので、今は一番重要なことだけを伝えます。エミカ、ここの領主であるバートペシュ公爵が裏切りを明言しました。それも、女王である私の目の前で」

「え?」

「最悪、旧都どころかこの東方一帯が私たちの()になる可能性があります」

「へ? え、えっと……」


 ん?

 んん?

 つまり、もうあの領主様は誘拐犯グループの仲間で、味方じゃないってこと? え、領主様なのに? なんでなんで? どうして? いやほんと、もう意味がわかんないんですけど?


「なんか私、頭が混乱してきました……」

「とにかくです、エミカ! 今は急いでコロナと合流を果たしましょう!」


 うーん……ま、脱出はしようと思えばいつだってできるし、ここは事情を知ってるであろう女王様に従うのが最善か。

 それに私程度が余計な心配なんかする必要なんてないんだろうけど、こんな状況下で一人戦ってるコロナさんもたしかに心配だった。


「モグラサモン――!」


 私はその場でモグレム部隊を一チーム召喚すると、リーダーである赤モグだけは女王様の護衛要員に残して、白モグたちにはこの城のどこかにいるであろうコロナさんを捜索するよう命じた。

 もちろん彼女が窮地であれば加勢するようにとも、クマぐるみの群れが襲ってくれば応戦するようにとも、モグレムが臨機応変に動けるようその他いくつかの指令も出しておいた。


「女王様、コロナさんと別れた場所はどこですか?」

「中央塔下層の出口付近です。そこで最初の襲撃を受けました」


 ただ闇雲に捜し回ってもしかたない。まず私たちはコロナさんの痕跡を追うことにした。


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― 新着の感想 ―
[良い点] キターーーー‼ さすが主人公。頼もしげに颯爽と登場。遠慮なく無双しちゃってください。
[良い点] ヒーローは遅れた頃にやって来る!(最初から牢屋にいたことからは目を逸らしつつ) 久しぶりのモグラさん無双に期待が高まる…!
[一言] 頼りになる護衛は敵の足止め、軍隊を壊滅させてきたとかいう敵対勢力、信頼していた公爵の裏切り。 ミリーナ女王から見るとどうしようない絶望的状況。 しかしここでモグラ娘である。
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