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幕間 ~情報と伝達~



 ――救国(ニヴルヘイム)、シュテンデルート城。



 中心都市シュテンデルートを一望できる尖塔の一つ。見晴らし台の役割も担う天辺の外縁部に出たところで、ようやくユウジは捜していたその姿を見つけた。


「こっちの塔にいたか。おい、ジーアが呼んでんぞ」

「………………」


 呼びかけると、禍々しい漆黒の槍を携えたパープルは心ここにあらずといった表情で振り返ってきた。その双眸に光はなく暗い虚無だけが覗いている。正しく、これぞ深淵か。

 使い回された哲学者の格言を思い出しながら、ユウジは普段と乖離した首領の雰囲気が気になった。


「どうした、槍なんか持って。調子でも悪いのか?」

「……逆だ」

「逆? 絶好調だってことか?」

「………………」

「なんかいつにも増して無口で暗いな、お前。絶好調ならもっとテンション上げろよ」


 しかし、闇に生きる人間という者は調子がいい時ほど闇に染まるものなのかもしれない。すぐにそう思い直してユウジは何も気にしないことにした。


(俺にもそういう暗黒時代はあったからな。主に十代前半の時期に……)


 思春期の空想や自己愛に満ちた自分など誰しも思い出したくないはずだ。そもそも振り返りたい前世の過去など微塵もない自分にとっては尚更のことである。


「戻るぞ。そろそろあっちの方がつきそうなんだ」


 暗澹とした気持ちが込み上げてくる前に思考停止すると、ユウジは暗い眼差しのパープルを連れて階下に向かう。その間も終始、会話は最小限だった。

 まるで何かに憑りつかれたみたいだ。洗い立ての陶器のような横顔を盗み見しながら螺旋階段を下りていく。

 その最中だった。

 ユウジの脳内に唐突に少年のクリアな声が響いた。


『――ユウジさん、急いで戻ってきてください』

「あ? どしたよ、色男。パープルなら見つけたぞ」


 右手の中指をこめかみに当てながら話す。やろうと思えば念話を可能とするアレクベルの能力ではあるが、完全に使いこなすには些かコツが必要だった。

 その上、無言では余計なことまでテレパシーに乗って向こうに伝わってしまいそうな気もする。

 それもありユウジはアレクベルと〝どこでも脳内通話(フィンガーズフォン)〟で会話をする際は意識的に声を出すようにしていた。


「まさか、ラッダたちが失敗したのか?」

『え? あ、いえ。勝利はもうほぼこちらの手中です。ロコちゃんたちの話では旧都の領主も捕らえたそうです』

「何よりじゃねぇか。これで相手の本丸に攻め入る足がかりもできたな」

『はい。ですが、ちょっと寝耳に水のような話もあって……。ロコちゃんたち曰く、()()()()()()()も一緒に捕まえたそうなんです』

「……女王?」


 突然のありえない単語に一瞬、ユウジの思考は石のように固まった。


(女王ってなんだ? いや、女王ってのは女王だろ。常識的に考えて……)


 言い換えれば王国(ミレニアム)の国家元首。

 体制側の中心であり、また象徴である。


「はぁ? いやいやいや、なんでだよ」

『俺にもわかりません。わからないんでユウジさんの判断を仰ぎたくて』

「……ああ、わかった。ちょっと待ってろ」


 そのままパープルを急かし駆け足で謁見の間に戻ると、ユウジはジーアを交えて情報を整理した。すぐに細かい状況を把握した後、その真偽のほどを考察。

 場に居合わせたロコの主観では領主が助かりたく嘘を言っている可能性が高いとのことで、他のメンバーもそれに同調する意見が多かった。


「王都にいるはずの女王が旧都にいるわけないわ。虚言で決まりね」

「だからといって完全に無視するわけにもいかないだろ。そのメアリって女もこっちに寝返る条件として言い出したわけだ。根も葉もない話とは思えないぞ」

「とりあえず万一ってこともありますし、ユウジさんも現地に行ったほうがいいんじゃないですか」

「え、俺が危険な最前線に? マジで? 行かなきゃダメ……?」

「私とアレクは動けないし、あなた以外いないでしょう。ほら、心配なら護衛にパープルも持ってって行っていいから」


 ジーアはそう言うと、部屋に入ってからずっと無言だったパープルの両肩にガッチリと手を置いた。

 確かに用心棒として百人力であることに違いない。違いはないが。


「いや、組織の首領を便利道具扱いすんなよ……」


 しかし未だ心ここにあらずだったパープルが戦地に赴けると聞いて、僅かにその表情に光を宿らせたのをユウジは見逃さなかった。


「ちっ、しかたねぇな。とりあえずロコには二人ともしっかり拘束しとくよう言っといてくれ。俺たちが行くまでくれぐれも先走って殺すなってな。それと女領主には旧都の兵士に抵抗を止めさせるよう追加で条件出しとけ。これからあっちの城が俺たちの最前線基地になるんだ。無駄に破壊して無意味な死体の山を増やす必要もないだろ」

「それもそうね。アレク、今の内容を実行部隊の各自に伝達して」

「わかりました」

「んじゃ、俺らは魔法陣の前でモコを待つぜ」


 そのまま両手の指の半分以上をこめかみに当てながら、アレクベルは念話を試みた。一斉に返ってくる仲間からの了解の返事。

 一人一人の質疑にも答えつつ意思疎通を終えると、やがて彼は怪訝な表情を浮かべて顏を上げた。


「あの、ジーアさん」

「何?」

「上空のマカチェリーさんからの報告なんですが、さっきから挙動不審な女の子が城の東側付近をウロついてるみたいでして。どうしたらいいか指示を仰いでます」

「女の子?」

「はい。なんでも赤髪で、城に似つかわしくない田舎者っぽい身形の子らしいです」

「……どうせメイドか何かでしょ。放っておけばいいわ」


 魔術都市ホマイゴスでその姿を目にしたことのあるユウジならばマカチェリーの報告に何か予感めいた、或いは運命めいたものを感じたかもしれない。

 しかし、その情報が入った時には魔法陣のある別の部屋に向かうため、すでにユウジはパープルと共に謁見の間を出ていた。


※少し短めなこともありリベレのメンバーの能力紹介でも。

 記念すべきトップバッターはあんまり出番ないですが、この世界では通信機器として超有能なアレクベルくんの力を。




 能力名:どこでも脳内通話(フィンガーズフォン)

 使用者:アレクベル

 概要:遠くにいる人間と〝テレパシー〟で会話できる


 最大10人まで可能(両手の指一本に付き一人アドレスを登録できる)。

 発動条件は話したい相手と互いの指と指をくっ付けるだけでOK。親指で契約した場合は親指をこめかみ付近に当て、思いを念じたり実際に話せばそれが念話となる。

 たとえダンジョンの深層であろうと惑星外であろうと通信可能であるが、死者相手には想いは届かない。また、アレクベルと契約した者が死ぬと登録した証である指先の〝T〟のマークも消える(契約時マークが浮かぶのはアレクベル側のみ)。

 契約の解除はアレクベルの意思で自由に行なえる(該当者の指を握りながらデリートと念じればOK)。

 アレクベル自身は同時に何人とも念話が可能だが、アドレス登録者同士での意思疎通は不可。その場合はアレクベルが伝言係として中継する必要あり。




 以上。

 ちなみにアレクベルの名前の由来はアレクサンダー・グラハム・ベルです。電話を発明というか特許の出願合戦に勝利した人ですが、今ではアントニオ・メウッチって人が電話の発明者って正式には言われてるみたいですね。子供の頃はエジソンって習った気もしますが……。


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d(>ω<*)☆スペシャルサンクス☆(*>ω<)b
表紙絵
― 新着の感想 ―
[一言] 水の都に来て観光し、領主とつなぎを取ろうとしたらいきなり捕らえられ、今度はその領主が襲撃を受けている。 このあと知り合いの女王が捕まっていると知ったら、エミカ視点では目まぐるしすぎて意味わか…
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