194.もぐらっ娘、パーティーを編成する。
経営大会議によって大方の方針は決まった。
木の実と香辛料、また砂糖の原料となるそれら植物の種と苗の入手から各所への連絡と相談と根回し。ケーキ屋さんとモグラホテルの開業準備もろもろに加えて、そこで働く人員の確保と育成などなど。
正直やんなきゃいけないことは山積み。
でも、何においても最初にやることはもう決まってる。
ズバリ、それは資源の大量確保。
これから建てる農場や工場などの施設の数々。今後の規模拡大を考えると、さすがに今ある爪の中の資源も枯渇するかもしれない。
ま、どれだけストックがあるのか正確なところ私にもぜんぜんわかんないんだけど、作業中に土や石が出せなくなったらなんかショックだし、今のうち大量に取りこんで余裕を持たせておこうって話。
ついでにルシエラが言ってた岩塩、それとモグラホテル内にオープンする予定のアクセサリー専門店のためにも、色とりどりの原石なんかも物にできるなら物にする予定だ。
「エミカー、どっか行くの~?」
「お、ちょうどいいところに。サリエル、またちょっと付き合ってもらいたいんだけど」
「いいよー♪」
以前の自分だったら一人果敢にダンジョンに立ち向かってたところ。
だけど、経営大会議を通してみんなの力を借りることの大切さを学んだ私である。今回はソロではなく、パーティーで挑むことを天啓に導かれるように思い立った。
ま、魂の家メンバーとの冒険が思いのほか楽しかったからまたやりたくなったってのが隠しようのない本音だけど。
それに私は一応ここの冒険者ギルドの副会長でもあるわけだし、責任ある立場としてパーティーでの遠征経験も積めるときに積めるだけ積んでおかないとって大義名分もあったりする。
「行かないのー?」
「ちょっと待って。まだ勧誘が終わってないから」
まず一人目のメンバーとしてサリエルは決定。
未だに謎が多いというか謎しかない存在ではあるけど、もし万が一のときは最後の切り札になってくれるはずだし、外すに外せないメンバーだ。
「あ? 今からダンジョンに……? いきなりだな。まー、暇だし別にいいけどよ」
二人目はサリエルが天使だって秘密も知ってるし、自ずとパメラで決定。
超がつくレベルの上級冒険者だし、実力は言うまでもなく。それにダンジョンに関する知識や攻略経験も私なんかより遥かに豊富だ。
「ほんとは四人編成の予定だったんだけど、今日はこの三人で。んじゃ、行こうか」
「おい、エミカ。ダンジョンの深部にはこいつのわけわかんねぇ例の転送魔術で行くつもりか?」
「パメラー、あれは魔術じゃなくて魔法だよー♪」
「ううん。今日は一般的なパーティー攻略を経験したいからね。普通に徒歩で進む予定」
「こいつ連れていく時点ですでに一般的じゃねぇだろ。今もさらっと魔法って言いやがったぞ……」
「あはー♥」
底辺冒険者と天使と竜殺し。
んー、たしかになんか妙な組み合わせだね。
ちなみに予定ではここに天才魔女っ娘も加わる予定だったんだけど、あっちはあっちで溜まってた仕事が山積みらしく昨日の時点で「不可」ときっぱり断られてしまった。
「あ、おねーちゃんだ!」
「お、ほんとっす。ご主人様たちっすね」
「皆様、これからお出かけですか……?」
準備を整えてから家の大広間で攻略の打ち合わせをしてるとだった。リリと一緒にイオリさんとピオラさんの三人が調理場の扉から出てきた。
私の姿を見るなりダダッと駆けてくるリリ。その小さな身体をバシッと受け止めて、持ち上げながらくるくると一回転。
リリを床に下ろしたあとで私はピオラさんの質問に少し遅れて答えた。
「ちょっとばかし所用があってダンジョンにね」
「ってことは、冒険っすか!」
「ぼうけんっ!? おねーちゃん、リリもぼうけんする! つれてってー!!」
「お、リリも一緒に行く? だけど、ついて来れるかなぁ~? ダンジョンはすごく広いからね、リリなんてすぐ迷子になっちゃうよ?」
「だいじょうぶ、おねーちゃんからはなれない! そのせなかについてくっ!!」
「えー、ほんとにぃ?」
「ほんと! だからつれてってー!!」
「でもなぁ」
「あと、まいごになってもなかない! いいでしょ-!?」
「いいわけないでしょ」
「「――はっ!?」」
ふと、背後から冷たい声。
ゆっくり振り返ると、ジト~ッとした眼差しのシホルと目が合った。
どうやら我が家の次女様は地下の農場のほうにいたみたい。その手にはカゴいっぱいの果物を抱えてた。
「リリはあとで私たちと一緒に買い出しに行く約束でしょ。それとエミ姉、リリをあんまりからかわないで。エミ姉が冗談のつもりでもリリが本気にしちゃったらどうするの?」
「あ、はい……」
ごもっともだった。
「ええっと……ごめんね、リリ。お姉ちゃん、ちょっといじわるしてた。リリはまだ小っちゃいからダンジョンには連れてけないんだ」
「えー! ひどいっ、おねーちゃんがリリをもてあそんだ!!」
「そんな言葉、どこで覚えてくるの……?」
とりあえずその場は低頭平身きっちり謝った上で、今度きちんと埋め合わせすることを約束。手こずりながらリリの斜めになってたご機嫌もなんとか元どおり、まっすぐになったところだった。
「はいはいっ!」
そこで不意にイオリさんが勢いよく手を上げた。
「であれば自分がリリ様の代わりとなってお供するっす!」
「え、イオリさんが?」
「おい、このバカメイドまた意味不明なこと言い出したぞ」
「申しわけありません、パメラ様。イオリちゃんはサボるいい口実を見つけたら脈絡なしだろうがお構いなしで……」
「ゴーレムも赤薔薇隊の姉御たちもいるのでリリ様方の護衛は十全! ならば自分はご主人様の護衛に就かしていただきたいっす!」
「あ? 護衛だと? お前にそんな実力があんのか? オレは足手まといは絶対にお断りだぞ」
「ふふん、こう見えても偵察や探索には自信があるっすよ! ぜひともご主人様方のお力になってみせましょうぞっす!」
「はへー、偵察や探索かー」
たしかにモグレムたちからあんなに目をつけられてるわりには家で普通に生活できてるし、ただのメイドさんじゃないのかもってのはうすうす気になってたところだ。てか、なんか身のこなし含めて異様にすばしっこいしね。
そして、できれば当初の予定どおり四人編成ってのは望むところでもあった。
「……ねえ、サリエル。万一のときはイオリさんのことお願いできる?」
「ん? いいよー♪」
「おっけ。んじゃ、今日はイオリさんにもパーティーに入ってもらおうかな」
「げっ、マジかよ!?」
「やったっす! 言ってみるもんっすね!」
「でも、やっぱ無理そうだったら転送石ですぐに帰還すること。それが条件ね」
「了解したっす!」
「ちっ、モンスターに喰われようがオレはお前を置いて先に行くからな」
「それは助けてほしいっす! しかも喰われる前にお願いっすよ!」
サリエルにも頼んどいたし、パメラも口ではああ言ってるけど実際イオリさんがピンチになったら絶対に見て見ぬふりなんてできない性格だ。
反対にサリエルの正体がバレないか、そっちのほうがまだ心配かも。ただダンジョンの最深部まで行くわけでもないし、それはそれでそこまで気にする必要もなさそうだった。
そんなこんなで晴れてここにキングモール家(居候含む)パーティーは結成。
ちなみにリーダーはパメラに務めてもらう予定だったけど、言い出しっぺがやれってことで私になった。
「んじゃ、晩ごはんまでには帰ってくるから」
「いってらっしゃいませ」
「いってらっしゃーい!」
「エミ姉、パメ姉。それにサリエルさんもイオリさんも。みんな無理せず気をつけてね」
妹たちに送り出されて、さっそくパーティーでダンジョンに――は向かわず、まず私たちは情報収集のため冒険者ギルドに立ち寄った。
岩塩や宝石となる原石がどの階層のどの場所で効率よく取れるのか、先にそれを知る必要があった。
「あら、エミカ……って、今日はまたゾロゾロと引き連れてどうしたのよ?」
「フフッ。受付嬢のユイさんよ、これを見てわからないかね?」
「さあ? 見当もつかないわね」
「ならば聞いて驚くなかれ! 私は本日、最強パーティーを結成したのです!」
「……サイキョウ、パーティー?」
「イカしたメンバーを紹介するよ!」
困ったとき頼るべきは毎度毎度の幼なじみ。
というわけで私はじゃーんと両手を広げて、ムスッとしたパメラ、ニコニコのサリエル、謎のポーズを取るイオリさんの順番でユイにお披露目した。
「いや、そっちの金髪の子も白髪のメイドさんもあなたの家で話したことあるし、みんな知ってるけど……で、このメンバーで今日は一体何をやらかすつもりなのかしら?」
「ん? 別に今日は素材を集めに行くだけだよ?」
「……思った以上に普通ね。よかった」
「ふぇ?」
なんか安堵した様子のユイ。その反応が気にはなったけど、晩ごはんまでには帰る約束なので悠長に長話をしてる時間なんてなかった。
ちゃっちゃっと目的の情報を得るため質問に移る。
「え、岩塩と宝石のある場所? そうね……まず前者に関しては四十四階層の砂漠エリアの中心に隆起した岩塩の丘が存在しているから大量に入手したいならそこをお勧めするわ。ただ後者の宝石に関してはモンスターのレアドロップでも狙わないと難しいと思う。そもそも価値の高い鉱物は簡単に入手できる代物でないからこそ希少な物であるわけだし。あ、でも水晶なら三十階層前半の水晶宮エリアで容易に入手が可能よ」
「ほーほー」
砂漠エリアか。そこなら砂集めもできそうだね。
それと水晶宮エリアは行ったことがあるというか、私にとっては暗黒土竜と出会った縁の深い階層だ。
どっちもダンジョンの中層域。
サリエルとパメラは私が心配する必要なんてないだろうけど、やっぱ問題はイオリさんがついて来れるかどうか。ま、無理そうだったら途中でいくらでも転送石で離脱できるわけだし、なんとかなるか。
ってなわけで、目標はその砂漠エリアに決定。
ユイにダンジョンマップの購入も勧められたけど、パメラがルートを覚えてるってことでそれは断った。いざとなったら暗黒土竜の魔眼もあることだし。
「万一に備えてパーティー遠征の届け出をお願い」
「それって絶対に書かないといけないものなの?」
「別に強制ではないけど、あなたはダンジョン破壊者としてギルドのブラックリストに名前が載ってる立場なんだから、これ以上に悪い印象を与えないためにもこっちの指示には従ったほうがいいと思うわよ」
「え? 私、ブラックリストに名前が載ってるの? 副会長なのに?」
初耳なんだけど。
てか、ダンジョン破壊者ってひどい渾名まで……。
「ちっ、相変わらず細かい受付嬢だな。エミカ、その紙貸せ。オレがちゃちゃっと書いてやる」
そう言って届け出書を自分の手元に引き寄せると、パメラはメンバー全員の名前をすらすらと記入。
そのまま隣の欄も羽ペンを止めることなく一気に書き切った。
名 職業
・エミカ モグラ
・パメラ 大剣使い
・サリエル 胸デカ女
・イオリ ろくでなし
「………………」
「記入漏れは――ん、ないわね。確認だけど遠征目標は四十四階層でいい?」
「どうなんだ、エミカ」
「え? あ、うん……」
絶対に書き直しを要求されると思ったけど、予想外にも一切の指摘なくユイは書類を受理。手続きはあっさりと終わった。
てか、冒険者の職業ってこんな適当でいいんだ……。











