幕間 ~とある転生者の現実・弐~
※今話、ユウジ視点の幕間回となります。
すでに〝マーク済み〟なら世界の最果てだろうとモコの能力でひとっ飛び。だからそのホマイゴスっつう魔術師の街がどこにあんのかなんてのは無関係な話だ。
さっさとお使いイベントをクリアすべく出発の準備を済ませた俺は、ロコモコ双子コンビとともに便利な魔法陣で空間を瞬時に移動。そんなこんなで出現した先は大貴族様の屋敷っつうか、もはや王宮を想わせるような絢爛豪華な建物の中だった。
「なんだよここ、まるで宮殿じゃねーか」
てか相当な成り金の家だな、こりゃ。
ま、これからネゴシエイトしなきゃならん相手はこの魔術都市の超有力者って話だし、こんくらいは普通なんかね。それでも、全体を金銀で彩ったインテリアコーディネートはお世辞にも趣味が良いとは言えねーが。うっ、見てたらマジで目がチカチカしてきた……。
「ようこそ、ラルシュアーノ家へ。救国の使者のお方々、奥の部屋で当家の当主であられるサドクレゲ様がお待ちでございます」
転送して早々だった。魔法陣が描かれた大広間の扉が開くと、そこから数人のローブを着込んだ如何にも魔術師っぽい連中が現れて俺たちを迎え入れた。どうやらすでにアレクベルの〝通話〟であちらさんには連絡がいってたらしい。
当主がいる客間まで案内してくれるってことで、俺は床に描かれた魔法陣の外に出た。
「ん? どしたよ、お前ら」
「……私、あのクソジジイ苦手」
「あ?」
「てか、ここから先はあんたの仕事でしょ。終わったら迎えにきてあげるわ。ま、精々がんばりなさい」
「がんばれ、ユウジ」
「はい?」
「モコ、アジトに戻るわよ」
「んっ」
「え、ちょ待っ――」
怖い姉の命令は絶対だった。可愛い弟は一切逆らうことなく天賦技能を行使。次の瞬間、ドワーフの双子は俺を残し光とともに姿を消した。
「えー、マジでぇ……?」
ホマイゴス到着早々、完全なる孤立無援のぼっちに。どうやらパーティーが離脱するタイプのイベントだったらしい。
仲間を失い孤独な使者となった俺は、しかたなく案内役の魔術師たちの背中についていく。中庭を見渡せる回廊を通過し、到着した先は青銅でできた重厚な扉の前だった。
「当家の客間でございます」
いざ、中へ。
そこは、これだけ大きな豪邸の客間だけあり大人数でパーティーが開けるほどに広く、巨大な獣の毛皮で作られた絨毯(頭部付き)や至る所に宝石が嵌め込まれた謎のオブジェなどなど、これまたひどく悪趣味な感じのインテリアで彩られている。
そして一番奥は出窓になっており、日が射し込むその場所にこの家の主と思しき人物がいた。
「キヒヒ……」
長い白髪に、ふさふさの眉。
そして、ピンと伸びた口髭。
大きな執務机の上に直接どっかり座る大柄の老人は俺をじっとり値踏みするように見ると、やがてずらりと並んだ金歯が覗くその顎を開いた。
「どんな奴を寄越してくるかと思えば、これまた青臭いガキよのぉ。先日のドワーフの双子といい救国には小童しかおらんのか? あんっ?」
「………………」
うわぁー。
第一印象は、某賭博黙示録マンガに出てくる某会長そのものだった。
人を見た目で判断してはいけないとかいうけどよ、あれ大嘘だよな。人は顔が九割どころか顔が開幕十割。俺の直感が警鐘を鳴らしているぜ。こいつは絶対生粋の悪だと。だって、黒く染まった魂が人相に出ちゃってんだもん。
えー、てかマジかよー。悪趣味なインテリアから嫌な予感はヒシヒシしてたけど、よりによってこんな鬼畜独裁者っぽいのを相手にしなきゃいけないのかよ。わずかにあったやる気も綺麗に消し飛んだわ。今すぐお家に帰りたい。
なんなら現世に戻ったって――あ、いや、やっぱそれは嫌だわ。
「……俺はユウジ。ユウジ・タナカだ」
しかし、このお使いイベントをブッチしたらブッチしたでジーアにボコされるというバッドエンドが待ち受けてるわけで、最初から俺に選択肢なんてないのである。
「今回使者として救国の現状を報告しにきた。ま、ひとまず大人しくこっちの話を聞いてくれ」
経験上、こういう相手に対して下手に出てはいけない。最初はおべっかでどうにかなっても覆せなくなった上下関係により、あとあと無理難題を押し付けられるに決まってる。ここは毅然とした態度で推し進めるのがベストよりのベター。
ってわけで、俺は例の壁の影響で直近の派兵が不可能になったことを伝えた。
「巨大な壁だ? そんなものただ山を越えれば済む話であろう!」
あーダメだ、この爺さん。とりあえず軍師としては当てになんねぇな。ジーアと同じこと言ってらー。
季節的に山越えは厳しいこと。現状、王国側も攻められず膠着状態になったことはこちらとしても悪い条件ではないこと。それらを理詰めでしっかり説明すると、俺はタイミングを見計らってご機嫌取り用に持ってきた献上品を差し出した。
「これはお近づきの印ってやつだ」
「ふん。魂胆が見え透いておるぞ、小僧」
「ま、そう言わず受け取ってくれよ、爺さん」
上等な木箱の中には緩衝材の藁とともに一本の黒い瓶ボトル。入手にかかった元手はほぼゼロだ。俺の懐が痛まないのが贈り物として何よりの最良の利点だったりする。
「ふむ、葡萄酒か。まさかそこらの安物じゃなかろうな?」
「飲んでくれればわかるが、極上品だぜ」
「ほぉん」
――シュパッ!
次の瞬間、サドクレゲはチョップで瓶の先端を切り落とすと、そのまま豪快にワインをラッパ飲みしはじめる。
老人の予想外の奇行に俺は思わず固まった。
「ゴクゴクゴクゴクゴクッ!!」
「……」
おそろしく速い手刀、オレでなきゃ見逃しちゃうね……って、今ここで飲めって話じゃねーよ。晩酌にでもゆっくり楽しんでくださいねって意味だっつの……。
「ぷはぁ~、ほほぉー! これは小僧の言葉違わず中々の酒よのぉ!!」
「気に入っていただけたなら何よりだ。連合結成の暁には祝杯用に樽ごと用意するぜ」
「キヒヒ、あー気に入ったとも! 小僧、ユウジと言ったな? 吾輩がこのホマイゴスの王になる瞬間をとくと見ていくがいい!」
「あ? 王……?」
話が見えないので詳しい事情を訊くとホマイゴスでは今、都市の支配権を賭けた決闘が行われているらしい。
ラルシュアーノ家・リルシュアーノ家・ルルシュアーノ家・レルシュアーノ家・ロルシュアーノ家。元々ホマイゴスで絶大な権力を握っていた由緒正しき家々――五紋章家のうち、もう三家は打ち負かし、残るは水の紋章を司るルルシュアーノ家のみ。
しかも一番の強敵だと見込まれていたその家の当主も、すでに先日の決闘でボコボコにしてやったとか。
いやいや……、これから手を組もうって側がそんなことしてるなんてマジで初耳だぞ。ジーアの奴、ひょっとして知ってて俺をここに寄越したんじゃねーよな?
てか、その前に決闘で都市の支配者が決まるとか魔術師連中ってのは頭がイカれてやがんのか? そのうち力こそが全てとか言い出しそうで嫌だ。代表者なんて選挙とかくじ引きで平和的に決めればいいだろうに。
「ちょうどルル家の残党どもを待たせておるでな。おい、貴様ら。今すぐここに連中を連れて来い」
「「「はっ、直ちに!」」」
ラルシュアーノ家に仕える魔術師たちが出て行って数分後、姉妹と思しき美少女二人組が客間へとやってきた。
深緑色の髪に、黒いローブ。如何にもミステリアスな魔女って感じで、俺は許されるなら今からでもぜひあちらのセコンドに付きたいと思った。てか、そろって童顔な感じが俺のツボを的確に刺激してくる。これは高得点ですわ。
いやいや待て待て、そもそも『邪悪な老人or魔女っ娘姉妹』とか……。おい、神様。これはなんの冗談だよ? こんな二択すら俺には正解を選ばせてくれないなんて。おのれ呪ってやる。呪ってやるぞ、神め……。
「そちらは?」
俺が闇落ちしかけているとだった。姉と思われるトンガリ帽子の子が俺を一瞥して言った。
正直、目と目が合う瞬間、ドキッ……!
ハーイ、僕はユウジ! 気兼ねなくユウちゃんとかユウくんとか呼んでくれると嬉しいなぁ~。趣味は読書に映画鑑賞でけっこうインドアなタイプと思われがちなんだけど、普通に外で体を動かすのも好きだったりするよ。あ、こうして知り合ったのも何かの縁だし、よかったら今度一緒にどっか遊びにでも行か――
「気にするでない、ただの客人よ。それより、まさかルル家の長女が帰っておったとはな。キヒヒ、重傷のルースエルドの奴もさぞかし喜んでおったろう? もはや最愛の娘に縋る他、道もあるまいしのぉ~」
「見え透いた挑発は無駄。ラル家当主、サドクレゲ・ウ・ラルシュアーノ。ルル家の代表四人目として、次は私――ルシエラ・ルルシュアーノが相手になる」
へー、ルシエラちゃんっていうんだ? 魔女っ娘らしくて、すごくいい名前だね~。でさ、ルシエラちゃん、よかったら今度一緒にどっか遊――
「小娘が笑わせおる。まさか本気で大魔術師である吾輩に勝つ気でおるのか?」
「勝負はやってみなければわからない」
「抜かせ、ハナタレのガキが。明日の決闘で存分に地獄を味わわせてやる。覚悟しておれ」
「覚悟するのはあなた。私が勝ったら今後一切、ラル家からもホマイゴスからも身を引いてもらう」
「キヒヒ、面白い。どうやら本気のようだな。この吾輩を止められるものならやってみるがいい」
「トリエラ、帰宅」
「で、でも、姉さん……」
「無駄。これ以上この狂人と何を話しても」
「あ、姉さん待って!」
え、あれれ? ルシエラちゃんもう帰っちゃうの? まだ俺たちの将来の話とか……あー、本当に帰っちゃったよ。そんな、まだ脳内でしか話してないのに……いや、脳内でしかってなんだよ! やべえ、マジで自分が悲しくなってきた。てか、普通に声かけろよ、俺。どんだけ奥手なんだっつうの……。
「もう今さら何をしようが他の三家同様ルル家も死に体よ。じゃが、まだ小娘とはいえ明日はあの神童が相手か……。キヒヒ、滾る滾るっ……血が滾りおるのぉ~!」
ふと、おぞましい気配を感じて横を見ると、サドクレゲの爺さんがニタァ~っと悪魔染みた表情を浮かべてた。皺だらけの顔面が変形しすぎてて、もはやそれがどんな感情表現なのかも判別できないレベル。きっと生まれながらの悪役にしかできない暗黒スマイルかなんかなんだろうけど。
てかさ、なんで俺こっち側のセコンドなの? もう自分で自分にタオル投げちゃいたい気分。マジで戦う前から戦意喪失だっつうの。
今の環境だと一週間に二本投稿できればいい方っぽいです。
曜日的に次回も少しお待たせするかも。











