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161.もぐらっ娘、既視感を覚える。

 珍しく連日投稿ですので、前話の読み逃しにご注意ください<(_ _)>



 私たちが一通り食べ終わったあと、村の人たちも輪に加わるように着席。追加の料理も運ばれて、みんなわいわいと夕餉を楽しんでた。

 やがて皿もすっかり綺麗になったところで、ぼちぼちと後片づけがはじまる。

 客人は寛いでてくださいってことで重なった食器が運ばれていく様子を、私は食後に出された紅茶をちびちび飲みながら眺めてた。


「すっかり長居しちゃったなぁ……」


 まだそんな遅い時間ではないけど、さすがにそろそろ帰らないとみんなが心配するかも。でも、隣のサリエルはぽっこりと膨れたおなかを仰向けにして、しあわせそうに毛皮の上で寝転がってる。

 ま、今夜中に帰るって話もまだ切り出せてないし、今はまだこのまま寝かせておこうかな。

 なんてことを考えてたら不意に隣のテテス村長が静かに立ち上がって、背後にある家のほうを示しながら私に呼びかけてきた。


「大事な話があるのですが、よろしいですかな」

「え? あ、はい。別に構いませんよ」


 なんだろ?

 大事な話ってことなら村に関する頼みごとかな?

 サリエルを起こすか迷ったけど、結局はそのままにして村長宅に向かう。また客間に案内されて座ると、テテス村長は真剣な面持ちで話しはじめた。


「実は折り入ってまたお頼みしたいことがありまして……。孫を救っていただき、村にも施しをしてくださったお方にこのようなことをさらに願うのは、厚かましいにも程があると重々承知してはおるのですが……」

「ああ、そんなかしこまらないでいいですよ。食料のことですよね? だったら今日みたいな魔力栽培用の畑を帰る前に作っておきますんで」

「いえ、食料のことでは……」

「んじゃ、まだケガしてる人がいるとかですか? だったらサリエルを起こしてくるんでちょっと待っ――」

「どうか旅のお方! ワシの孫を……ノノンを引き取ってはくれぬでしょうか!?」

「へ?」


 それはまったく想定してなかった頼みごとだった。

 一瞬、頭の中が真っ白になる。


「……あ、えっと、引き取ってくれってのは私のほうで面倒を見るというか……その、私に彼女の保護者になってほしいってことですか?」

「はい。本当に恥ずべき申し出をしていることは理解しておるのです……。しかし、あの子の将来を考えますと……」


 徴兵された人たちが無事に帰ってくる保証はどこにもない。男手のいなくなった村で繁栄は望めず、たとえこのまま無事に冬が越せたとしてもラーネ村に明るい未来はないだろう。

 テテス村長はそんな悲観を述べると、さらに深々と頭を下げて私に懇願してきた。


「あの子はまだ赤子だった頃に両親を病で亡くし、それ以来ワシが引き取って実の我が子のように育ててきました。生来よりとても素直で優しく、思いやりのある子なのです。ワシが死んだあとは倅たちに託すつもりでしたが、それらも全員兵士たちに連れていかれてしまいました。

 本日、旅のお方々がこの村に訪れてくださったのも天の思し召しではないかと、こうして無礼を承知でお頼みしている次第です。どうかこの老い先短い老翁の願い、何とぞ聞き届けてはくれぬでしょうか」

「え、ええっと……」


 一旦、落ち着いて整理する。

 ま、別に女の子1人引き取るなんてどってことない。私の妹として我が家に住んでもらってもいいし、テレジア先生に了解を取れば教会にだって住まわせてもらえるはず。

 だけど、このラーネ村に未来がないってのはどうなんだろ? それはいくらなんでもちょっと弱気になりすぎてるんじゃないかな。


「近くの村に援助を求めるとか、一時的に移住するとか、そういう方法もあるんじゃないですか?」

「ここより南の山道を越えた場所に、少しばかり大きな町があります。ですが数日前に訪れた行商人によると、その町もその周辺の村々も遠からずここと似た状況なのだそうです……」


 そっか。

 徴兵されたのはこの村だけじゃなくて、この地域一帯。いや、下手したら国中で行なわれてる可能性も……?

 たしかに、そう考えると助けを求める先も一時的に避難する先もないね。

 テテス村長が悲観してたのは村だけのことじゃなくて、この国そのもの含めてって話なのか。


「あの、ノノンにこの話は?」

「いいえ、本人にはまだ……。もし了解していただけるならば、もちろんワシから打ち明けようと思っております」

「……」


 うーん。

 さっきも考えたけど、別にノノンをアリスバレーに連れていくのは問題ない。氷壁ダンジョンから転送する時は目隠しでもしててもらえればいいし、魔術の知識がない子供相手ならいくらでも誤魔化しは利く。

 捻くれた見方をして、テテス村長がノノンを厄介払いするため私に押しつけようとしてるってならまた話は別になってくるけど、どうやらそれもなさそう。

 てか、むしろ状況を考えれば、ほんとならテテス村長は「村人全員を救ってください」ってお願いしたいはずだ。それをしないのは私に遠慮してというか、ちゃんと敬意を払ってくれてるからなんだと思う。

 でも、せめて最愛の孫だけはしあわせになってほしい。そんな気持ちが強くあって、この人は私なんかに今こうして頭を下げてるんだ。


「わかったのでもう顔を上げてください、村長」

「了承してもらえるのですか……?」

「はい、()()。でも、一度ノノンと直接話し合わせてください。やっぱこういうのは本人の了解がなきゃですし」


 まずはノノン本人が望むかどうか。

 それが一番大事だ。

 だって、無理やり連れていくわけにもいかないし。

 また深々と頭を下げてくるテテス村長に断って家を出ると、私はさっそくノノンの姿を探した。


「あ、エミカお姉ちゃん、どうしたの?」


 彼女は村の人たちと調理場で食器を洗ってる最中だった。私が大事な話があると切り出すと、周囲にいた女性たちはいってきなさいと気を利かしてノノンの分の洗い物を引き受けてくれた。


「この村の人はいい人ばっかだね」

「うん! わたし、この村のみんなが大好きだよ!!」

「うっ……」


 いきなり話がし難くなったけど、テテス村長にも頼まれた手前、お得意の先送りを発動するわけにもいかない。人気のない篝火の傍まできたところで、私は先ほど受けた申し出の件をノノンに伝えた。



「――ってわけなんだけど、ノノンはどうしたい?」



 絶対悩ませちゃうだろうなって思った。

 だけど、私の心配をよそにノノンは強い意思を持って即答した。


「わたし、この村のみんなと一緒にいたい」

「でも、このままだとつらい思いをするかもしれないよ」

「それでもいいの。だって、わたしはラーネ村の子だから」

「そっか……」


 その陰りのない透きとおった瞳を見て、説得は無意味だとすぐに悟る。同時に、困難に立ち向かう弱くて強い彼女の姿に私は既視感を覚えた。



 なんだろ、この感じ――



「……よし、決めた!」

「エミカお姉ちゃん?」

「私、絶対ノノンをアリスバレーに連れていくから!!」

「えっ!?」


 結局、既視感の正体はつかめなかったけど、私はノノンのことがなんだかとっても気に入った。

 なので、彼女の願いを勝手に叶えることにする。


「ほ、本当にそのようなことが可能なのですか……?」

「はい。ま、多少問題はありますけど」


 村長の家に戻ると、私は私なりに考えた村を救う方法を伝えた。


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