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147.もぐらっ娘、壁を建設する。

 日本、動物に令和って書かせすぎ説。

 というわけでもうすぐ平成も終わりなので新章【もうちょっとのんびり編】をボチボチはじめたいと思います。

 お付き合い頂ければ幸いです<( _ _ )>



 みんなを守る。

 たとえ誰が相手だろうと指1本触れさせない。

 そのために、必要なこと。


 誕生日会の翌日。これからのことを真剣に話し合った上で私とパメラはさっそく行動に移った。


「――と、そんなわけでして。完全に解決ってわけじゃなく、今後も尾を引きそうなんです」

「ふーん。ま、モグラちゃんが無事で何よりだわ。というか、あなたはずいぶん厄介なお姉様に愛されているのね」

「……」


 まずはギルドに出向いてアラクネ会長に昨日の結果を報告した。もちろんサリエルのことは伏せた上で。

 ただ、問題がない範囲でパメラの家庭事情に関してはある程度の説明はしといた。今後のためにも街の有力者である会長とはできるかぎり情報を共有しておきたい。なので王子様を襲撃してきた連中の件も含めて私は正直に話した。


「あの双子がその誘拐犯たちの仲間である可能性が高いなら、そいつら全員分の手配書を用意したほうがよさそうね。似顔絵を描いてもらいたいのだけど、お願いできる?」

「絵ですか。フッフッフ、お安い御用で」


 私が直接この目で見たのは祠を襲撃した4人組と双子。そして、あのダリアっていうパメラの元お姉さんで計7名。

 よし。

 今こそ自分の絵心が試される時。

 光れ、私の美術センス。


「えっと、モグラちゃん。かわいい絵だけどもっと写実的には描けない?」

「うっ……」


 しっかり特徴をまとめて描いたつもりだったけど、子供の落書きみたいな絵になってしまった。たしかに、これじゃ手配書に載せるには不向き。そのあと描き直すも何度やってもうまくいかなかった。


「うー、リアルな絵って思ったより難しいね……」

「なら代わるぞ。ミハエル王子を襲撃した4人中3人とはオレも会ってるしな」


 結局、私に代わってパメラがめちゃくちゃうまい似顔絵を仕上げてくれた。一通りの習い事は幼い頃にレッスンを受けたそうで、何やら美術に関するスキルもいくつか持ってるとか。

 さすがはいいとこの家の子。嗜みがあるね。


「とりあえずこれで全員だな」

「うん。竜騎士の人は私も遠くから見ただけで、顔もよくわからなかったから背格好までが限界だし」

「おっけーよ。それじゃ、この手配書の原本を大量に複製して街中に貼らせるわ。通報者にはギルドから金一封贈呈って文言もつけてね」

「怪しい魔法陣を発見したら報告するようにって旨も入れたほうがいいんじゃないか?」

「あ、そうだね。それ超重要だ」


 この地下のものはすでに会長が消して使用不可にしたらしいけど、魔法陣があれ1つとは限らない。むしろ転送してやってきたのならまだどこかに最低1つ以上は残ってるはず。

 神出鬼没ってのはさすがに厄介すぎるし、相手の機動力はできるかぎり潰しておかないとだよね。


「手配書のばら撒きと魔法陣の除去。この2つをやっておけばとりあえず昨日のようなことはもう起こらないでしょうね。街の庇護下にいるかぎりは安心していいわよ、モグラちゃん」

「んー……でも、もっと他にやっておけることってないですか? 心配すれば切りがないのはわかってますけど、やれる対策は今のうちに全部やっておきたいんですよね」

「あら、モグラちゃんってば今回はずいぶんやる気なのね。その子のことがそこまで大事? 妬けちゃうわ」

「べ、別にオレたちは――」

「はい。パメラは大事ですよ」

「っ……!」

「あーあ、本当に妬けちゃうわね。ま、それは置いといて、それなら街の有力者としてアドバイスを1つ授けてあげましょうか」


 なぜか顔を真っ赤にしてうつむいてるパメラが少し気にはなったけど、その場は助言を優先。わずかな間を挟んだあとでアラクネ会長はドアのほうを指差しながら続けた。


「ここより現地で話したほうが手っ取り早いわ」

「現地?」

「ええ、出かけるわよ」


 そのまま私たち3人は連れ立ってギルドを出ると、馬車で街の外れのほうに向かった。着いた場所は何もない場所。

 てか、もう街の外れというより〝街の外〟と断言してもいいような荒野だった。


「……えっと、こんな場所で一体何を?」

「そうね。まずはこの辺に横長の穴を掘ってくれるかしら。深さは数フィーメルくらいでいいわよ」

「はぁ?」


 意味はわからなかったけどいわれたとおりに地面を抉る。

 穴ができると、続いて会長は穴底から四角い柱を上空に向けてまっすぐ伸ばすよう指示してきた。


「高さはこんぐらいですか?」

「その倍はほしいわね」

「んじゃ、こんぐらいですね」


 完成した高さ20フィーメルほどの柱――というか、そそり立つ壁を見上げる。

 うん、高いね。

 で?


「なるほど、壁か」

「え?」

「正解よ」

「へ?」


 いや、そりゃ壁だし正解だろうけど、結局これがなんだっていうの? そんな感じで私が頭上にクエッションマークをたくさん浮かべてるとまた会長から指示が飛んできた。


「モグラちゃん、今度はその隣に同じ要領で同じ物を作っていって。壁を横方向に伸ばしつつ、心持ち街側に歪曲するようにね」

「横に伸ばして歪曲って……あ、わかった!」


 その言葉で今自分が何を建設してるのかようやく気づけた。

 壁は壁でも、街を守る防壁。つまりは王都やローディスにあるような巨大な外壁のこと。それを造ろうって話だ。


「街を壁で囲えば獣や野生化したモンスターによる被害も減って一石二鳥な上、中心部から離れた郊外の開拓促進も見こめるわ。今より高い安全性が確保できれば、王都やローディス方面の地下道付近の土地なんかは一気に利用価値が跳ね上がるでしょうね」

「おー」


 なんかすごそう。それに門を設置した上、地下道の入口みたいに入ってくる人たちをチェックすれば怪しい人物の侵入を未然に防ぐこともできる。

 いいね。

 街の治安のためにやっても損はないし。


「北東と南東、それと西の大街道に繋がる3ヶ所には門を設ける予定だから塞がないでおいてね」

「了解です。んじゃ、王都みたいにアーチ状の入口にして、そんでもって守衛さんの詰め所も作っておきますよ」

「よろしくね。それじゃ、私は先に街に戻ってるから」


 軽く打ち合わせを済まし、私たちはさっそく建設作業に取りかかった。

 まずは暗黒土竜の魔眼で地図を確認しつつ壁を伸ばしていく。

 そのままとりあえずの試作として全長300フィーメルほどの防壁をぱぱっと建築。

 パメラの話によると外壁の上には見張りを置くのが一般的らしい。なので歩き回れるスペースを確保するため壁の厚みを倍に増やしたり、転落防止用の柵をつけたりしてみてさらに手を加えた。


「王都の外壁を参考にしたけど、こんな感じでいいのかな?」

「悪くないと思うぞ。まー、監視の隙を突かれて壁を飛び越えられたらそれまでだけどな」

「たしかに、それもそうだね……」


 防壁全体の見張りについては今後の課題として頭の隅に置きつつ、手本になる試作を完成させた私たちは一度街に戻った。

 さすがに魔術の補助なしだと作業量的にきつい。モグラ屋さんに立ち寄ってスクロールをどっさり確保した上、足りない分はルシエラに急ぎで増産を頼んでおいた。


「よし、準備完了。家のほうが心配だし、サクッとやっちゃおう!」

「どう考えてもサクッとで済む作業じゃねぇけどな。まー、サポートは任せとけ」

「うんっ!」


 現状、私が留守の時の守りはサリエルにもろもろをお願いしてある。

 あののほほん天使様が〝守る〟っていう行為をどう理解したかは多少不安が残るところではあるけど、実力は嘘偽りなく無敵で最強。ほんとに神様が相手でもなんとかしてしまうかもしれないレベルだ。

 ただ、居候であるサリエルに家族のことを頼むのは裏技というか反則技なような気がしてならない。正直、後ろめたい気持ちでいっぱいだ。だからこそ、襲撃者に対する準備は迅速に整えたかった。



「――モグラクロー&モグラウォール!!」



 気合と祝福(ブレス)を入れて作業を開始するとあとはノンストップ。夜も寝ずのぶっとおしで技を繰り出し、アリスバレーの街を切り取るように囲っていく。

 やがて気づけば東の空に燦々としたイチゴ色の朝焼け。

 そして、その手前には最初に壁を立てたスタート地点が。


「ひゃっほー! これでぐるっと完成っーー!!」

「あっという間だったな。まー、お前のやったことだし、もう驚かねぇけど……」


 一夜にして出現した防壁に、街は大騒ぎになったとかならなかったとか。


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