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初心者がVRMMOをやります(仮)  作者: 神無 乃愛
イベントとクエストの楽しみ

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ジャッジとクリス

いつもありがとうございます。


 喫茶店がプレオープンの日を狙って、ジャッジは一人で動いた。


 あれだけ他者がいるところでシュウが馬鹿を犯すとは思いたくない。それ以前の問題としてスカーレットやディッチあたりが店に入れないだろう。

<おや? 御守はしなくていいのかい?>

「わざわざ翻訳機能切って英語で話かけんじゃねぇよ」

<つれないね。昔の君はもっと素直だったのに>

 話しかけてきた男をジャッジは無視することにした。


 今、ジャッジがすべきなのは別のことだ。

<待て! イノセンツ!!>

「おや、今日は来ないと思っていたよ」

 クリスが出てきてわざとらしく言う。

「あんたらがここにいて、何を心配することがあるってんだ? 他の件ならギルメンですら役不足だ」

 シュウ如きをけん制するのに、一人メンバーがいれば大丈夫なはずだ。それなのにメンバーのほとんどがプレオープンに合わせて武器を新調している。……何がしたいんだと一瞬問い詰めたくなった。

「そうか。ならばあの話(、、、)をしようじゃないか」

 クリスが笑って手招きした。



「お前に関して言えば、物心がつく前から実験体だった」

 座るなり、クリスが言う。

 そんなこと、今更言う必要などないだろう。

「アメリカで虐待が疑われ、何度も保釈金を支払ってお前の父親は出てきていたよ」

「毎回思うんだが、あのアメリカでよく保釈金如きでよくぞまぁ……」

「言いたいことはよく分かる。強いて言うなら司法取引もしていたということかな」

 お前の父親はよく、自分すら実験台にしていたからね。そうクリスが付け足す。


 なるほど、とジャッジは思う。それにしても一体どれくらいの量を司法取引という名のもとで有耶無耶にしてきたのか。

「だからこそ、私は不思議だった。何故あの時、母親について行かなかった?」

「んなもん、決まってんだろ。あの母親は世間体だけを重視しただけだ。自分は虐待に関わってません、夫からかわいそうな子供を引き離すだけですっていうパフォーマンスだよ」

 それくらいなら、己と同じような子供がたくさんいる父親とクリスのそばのほうがいい。そう考えたのだ。

「なるほどね。では今の考えは?」

「両方振り切って大人しく施設に入っていればよかったと思ってるよ」


 その言葉こそ、紛れもないジャッジの本心だった。


「一つだけ感謝してるのは、この能力だな。それ以外で感謝したことはない」

 プログラミングで食べていけるようになったのは、それこそクリスたちのおかげだろう。そして、カナリアを助けるプログラムが組めたのだ。その事には感謝している。

「……感謝されていることの方が、私としては驚きだよ。あんな形で出て行って音信不通なのはお前くらいだし」

「結果オーライって感じだな。少し前まではどこの部分を切り取っても感謝できないと思ってたが」

「……little radyには感謝すべきなのかな?」

「しとけ。んでもってそれは本人に言うな」

 というより、会うなと言いたい。

「それは残念だ。little radyとはゲームのことでも話をしたいと思っていたのに」

 さほど残念がらずにクリスが笑う。

「クリス。あいつはゲーム的発想をしてないだけだぞ。ってか、さすがにドラゴンの卵の殻を粉末にしたときは驚いたが」

「……何に使うつもりで? 一応『TabTapS!』(このなか)では火薬の量を減らす役割しか持たせていない。それは公式HPや書籍で明らかにされて……」

「……アクセサリーに使いたかったんだと。で、使えなかったから粉末にして骨粉とかと混ぜて敷地内菜園にばら撒こうと……」

「止めたのかい!?」

「即行で止めた。初心者の町が火の海になってもおかしくないし」

「……あぁ。うん、そうだね」

 さすがのクリスも言葉が出ないようである。

「ここの所の発想は、卵の殻をボウル代わりに使ったり、竜神からもらったでかい鱗を皿代わりに使ったところか」

「……その常識は現実ですらどうかと……」

「協力したやつ以外は全員同じ突っ込みを入れた。……まぁ、数がないから暫くは飾り用だと」

「あいつらしいといえば、あいつらしい。もの作りに関してはどこまでもブレないからなぁ」

 特にアクセサリーになると。その言葉はあえて飲み込んだが、クリスも気付いているのだろう、苦笑していた。

「ちなみに、今日喫茶店プレオープン。で、竜神様まで嬉々としていらっしゃるそうだ」

「……私の作った『自立思考型AI』のはずなんだが」

「その自立思考型の弊害だろ。三日と空けずにギルド本部にきて、飯食ってるぞ」

「私より会ってるじゃないか! 何だそれは!!」

 羨ましいと聞こえたような気がしたが、気のせいだということにしておこう。

「ほれ、んでもって飯。毒は入っていない」

 クィーンを通じてセバスチャンに作ってもらったものだ。わざとらしく和食にしてみたが。

「にしても、誰だ? ノボリザケの製作者は」

 切り身をほぐしながらジャッジは問いかけた。

「君のところにいる、タカとユウ二人作だよ。どうした?」

「いや……足があって、それで川のぼりしてんだ。色々アウトじゃないかと」

「別にいいんじゃないかな? 手はないし」

「陰険策士様は、あの足の部分の身が好きらしい。かなり身がしまってるらしいな」

「女帝に向かってお前はそんなことを言っているのか? お前も相変わらずだよ。噂には聞いていたが、美味だね。弁当は他にないのかい?」

「ない」

 そこまで持ってくる必要などどこにもない。

「そうかい。little radyに伝えておいてくれ。そのうち客として行くからと」

 覚えていたらといいたいところだが、さすがにいきなり行ったらカナリアが慌てふためく。言っておくしかないだろう。


 そのあとは、何も話さず食事し、そのまま帰った。


ノボリザケの設定は、出てきた当初からありました。姿形が今まで上手くかけていなかったので、これ幸いと書かせていただきました。

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