セラフィムという男

　セラフィムは運営に関わるな。

　その言葉は機体を作れと言われるよりも屈辱だった。

　理由は、野放しにしたから。それだけだという。

　酷くなるまで野放しに出来たのだから、そのあとは黙ってみていろ。「女帝」と呼ばれる女性からの言葉だった。

　イベントに関わる分には黙っているのかと思ったら、みっちりとゲーム内で現実世界の八時間、説教を食らった。

「逃げなかったことは評価してやる。その代わりイベントに関わるのもこれが最後」と言われ、セラフィムは更なる屈辱を味わうことになる。

　悔しい。作れない、関われないことが。

　シュウやトールを放置していたのは、馬鹿馬鹿しかったからだ。運営会社のことに口出ししたくなかったというのもある。

「私にもきっちり責任追及してくる方だ。他人に厳しく、自分にはもっと厳しい」

　クリスが「女帝」を評価した言葉だった。

「面白い結果が出たようですね。……是非ともトール君も一緒のところでこれが起きて欲しかった気もしますが」

　タカが声をかけてきた。

「リアライズ」VS「マゼンタ」は、余裕で「リアライズ」の勝ちだった。

　反撃すらも計算に入れ、「盛り返せる」と思ったところで、叩き潰した。そんな感じだった。

「次は、あいつらか。……『マゼンタ』に対抗してネタ勝負にしなきゃいいけど」

　ユウが心配そうに呟く。

「スカーレットちゃんはしたいと思っているだろうが、ディッチ君が却下するんじゃないかな？　何をやっても二番煎じ。それくらいなら真っ向からぶつかると思うけど」

　こちらを気にすることなく、二人が笑い合っている。

「そんなわけで、モニター席から移動します」

　審判に加わるわけではないのに、席を移動する。

「お、親父の言ったとおりいたって普通の格好だ。……相手側のほうがコスしてるってどうよ？」

「『カエルム』ならやりかねないと思ったんだろうねぇ」

「だろうなぁ。祭りのノリとか大好きな集団だからなぁ」

　その言葉に、クリスと共に反応してしまう。

「あ、ジャッジはそのあたり完全に先生に巻き込まれる側です。俺とか他の面子がいると強制的に巻き込まれます。今までそういったところで話題にならなかったのは、そばにいるのがジャスとディスさんだけだったからでは？」

「どういう意味だい？」

「ジャスは根っからの真面目人間です。……先生や俺らとつるむようになって柔らかくなったやつです。そいつがジャッジを巻き込んでお祭り騒ぎに巻き込めるか、となったら無理でしょう。

　それに対して俺は根っからそういったことを楽しむタイプです。そういうやつらじゃないと巻き込めないでしょう？　ジャッジも、高校卒業するくらいにはだいぶ人間らしい表情をするようになりましたし」

　わざとらしく「人間らしい表情」と揶揄したユウに、セラフィムは反論しようとしたが、クリスに止められた。

「あいつがああやってゲームを純粋に楽しむようになったのは、先生のおかげですけどね」

　しれっと、追い討ちをかけるように言い放った。

　ジャッジたちのチームはあっという間に勝ち、次の試合へと駒を進めた。

　そして、その日の予定は終了し、通常へと戻る。

　それでも、ユウたちはイベントが終わるまでジャッジたちと会わないらしい。

　二人に「差し入れ」と称して食べ物を持ってきたのは、声から察するにクリスよりも年上の二人だろう。

　明日も来ると言っていた。ならば、そのうちでいいジャッジと会えるよう頼んでみるかと、セラフィムは思った。