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初心者がVRMMOをやります(仮)  作者: 神無 乃愛
ジャッジの闇

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警告


 いきなりくらった「イエローカード(警告)」にトールは思わず八つ当たりをした。

「あっちがPKを仕掛けたってことになってんだ! 俺が食らうのはおかしいだろ!?」

 ゲーム内に呼び出し、食って掛かる。

「私も分からない。ただ、権限でなかったことには出来るが……」

「ついでにあいつらに『イエローカード』出しといてよ」

「……分かった」

 トールは今まで己の意見が通らないということはなかった。両親とて、トールの顔色を伺い、モノを与え続けた。曽祖父に気に入られていたトールは、全ての遺産を曽祖父から譲り受けた。その金で両親は生活できているのだ。


 誰も誤りを正すものがいない。それがトールにとって破滅へと繋がった。



 タブレットで己の状態を確認する。

 既に「警告」は出ておらず、履歴も残っていない。


 むしゃくしゃするので、周囲に当り散らそうと思っていた時だった。


 何度も世話をしていた(、、、、)「神社仏閣を愛する会」のメンバーが近くにいた。そして、一緒にいるのは新しいメンバーか。僧侶のような格好をした男がいる。


 立て続けに魔法を放つ。


「……トール!!」

 誰かが咎めるように叫んだが、聞こえない振りをした。



「……いけませんねぇ。楽しむためのゲームでおいたは」

 僧侶の格好をした男が言い、両手を広げ、手のひらを胸のところで合わせていた。

「『修行の間』発動」

 静かに男が言う。

「さて、トール君。君は私に付き合ってもらおうか。心配ないよ、互いにPKにはならないからね」

 魔法どころか、タブレットすら使えない状況にトールは焦りを覚えた。


 相手に斬りかかってもかわされ、それどころかあっという間に後ろに回られ抑えられてしまう。

「君は全てが思いのままにいくと思っているだろう?」

「何が言いたい!!」

「特には。君を正してくれる人がいればいいなと思っただけだよ」

 男はそう言って少し離れた場所で紙を取り出した。


 隙あり! そう思って攻撃をしても同じだった。

「くそっ!!」

「……おやおや。そろそろ時間か。さて私は失礼するよ。カーティス君、あの建物のリフォームを頼む」

「よろしいのですか?」

「あそこ以外気に入りそうな場所はないからね。禅修行のできるところと、絵を描くスペース以外は好きにしてくれ」

「承りました! 後日見積もりをお持ちします!!」

「頼んだよ」


 気がつけば一緒にいたはずの「仲間」もいなかった。


 あの男が誰か調べてみればまた、「カエルム」に繋がっていく。こうなったらいっそのこと、「カエルム」自体にイエローカードを出させるか。


 トールはニヤリとほくそ笑んだ。



「……運営会社からギルドに警告が来ましたけど」

 ディッチがため息をつきながらクィーンへ報告する。

「余程の阿呆が責任者と見えるな」

 おそらく既に責任者が誰なのか分かっているのだろう。ディッチは思わずため息をついた。

「我は一度ログアウトをして指示を出してくる。それまで動くでない」

「……アクセサリー作りは」

「カナリアよ。この緊迫した状況でそれを言うか?」

「だからです! 落ち着かないんです!!」

 クィーンの呆れた声にカナリアは必死に返していた。

「納品などをしなくば問題あるまいて。ディッチ、ディスカス、ジャッジはここに残れ。他はただ作るだけなら問題はないかと思うがの」

 その言葉にカナリアの顔が明るくなった。


 自分たちも気休めに何か作りたいと思ったのは、許して欲しいところである。


 結局、それぞれがAIに頼み込み工具などを持ってきて、ギルド拠点で物づくりをしていた。


 戻ってきたクィーンが呆れて、ギルド拠点にいる面子を見渡していた。

「……お主らもカナリアにだいぶ毒されておるの」

「こうやっている方が気が紛れたので」

「左様か。我のほうの準備も終わった。数日クエストにも行かず、依頼もせず大人しくしておれ」

 イッタイナニヲタクランデイラッシャルノデスカ。

 喉元まででかかった言葉を、ディッチは何とか飲み込んだ。


 聞いてしまったら最後、どこまでもこき使われる。それくらいなら黙っていたほうがましである。

「誰か一人位聞いてくるかと思うたが、無理か」

「……」

 そりゃもう、これ以上巻き込まれたくないですから! その場にいた面子の心が一つになっていた。

「一週間もすれば運営会社は変わる。それにT.S.カンパニーの不祥事がワイドショーをにぎわすぞ」

 きひひひ、楽しそうにクィーンが笑っている。

「それにかこつけてシュウにもダメージを与えておくかの」

 こんな状態のクィーンをディッチは初めて見た。かなりどん引きしているが、ユーリは平然としている。

「クィーン様、その状態でシュウさんにダメージを与えてもあまり痛くないのでは? それくらいならあの家全体にあとからダメージを与えたほうがいいかと思いますわよ」

 そういう問題なのだろうか。

「ユーリよ。家へのダメージは別に考えてある。それよりもシュウへ個別に与えてやりたくての。あればかりが守られておるのは不公平じゃ」

「あら、そうでしたの。では、クィーン様にお任せいたしますわ」



 この話から数日後、本当にワイドショーどころか通常のニュース番組までにぎわすこととなった。


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