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初心者がVRMMOをやります(仮)  作者: 神無 乃愛
ジャッジの闇

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クィーンとクリス その3


「……つか、このゲーム続ける意味があるのか?」

 何故、カナリアのリハビリを兼ねたゲームでここまで事が起きているというのに、クィーンはカナリアに辞めることを指示しないのか。

 同じようなゲームなら、他にもある。勿論、ジャッジはそれをクィーンに提言している。

「ほほほ。短気は損じゃぞ。カナリアはAIやNPCと別れたくないらしい。それが一つの理由。いまひとつは、二度とクリスが我らに関わらぬという言質を取り付けておるからじゃ」

 いつの間に、そうジャッジとパパンは思った。

「ルシフェルを通じてクリストファーから言伝をもらった。『これ幸いと膿を出す』とな」

「膿?」

「左様。今一度カナリアにトールが接触したら運営会社は変わる。これは文面にしてあるから問題はない。そして、トールはアカウント停止」

 そんなこと最初からやっておけと言いたくなってくる。

「クリスとしては一プレイヤーとして楽しむことしか考えておらぬ。トールが接触してきたからこそ、お主とカナリアに接触してきたようじゃな」

「……マジか」

「嘘を言うても仕方あるまい。実際お主はこのゲームを長くやっておるが、今まで接触しておらんじゃろ? β版からゲームを楽しんでおるようじゃから、参入はおぬしの方があと。そこだけ見ても、現状まではクリスが己の信条を曲げることはなかったという証拠になる。

 それよりもメインプログラマーの一人と名ばかりの男が問題じゃ。今までそれを放置してきた理由は、潰れるのを楽しむためじゃ」

「相変わらずな男だ」

「お主に言われたくはなかろう。さり気なくトールの妨害をしておったのはクリスだそうじゃしな。『初心者の町』にトールたちの手の者が入らぬようにしたのもクリスじゃ」

 一体何がしたいというのだ。あの男は。

「何故、零細企業にあれだけの名だたるプログラマーが集ったと思っておる? それはクリスが声をかけたからに他ならぬ」


 その言葉だけで、ジャッジはほとんどを理解した。

 おそらく、このゲームはクリスかそれに近い者が発案したものだろう。そして、己たちの名前を出さないためだけに、零細企業に声をかけた

 そしてこのゲームが出来たのだ。


 それをその企業は忘れている。


「運営を引き受ける新たな母体は、禰宜田とクリスで作る」

「はぁ!?」

「カナリアのリハビリに使うぞ。他のゲームではまたストーカーが現れてしまうからの」

「……」

「ってか、砂○け婆、そこまで至った経緯をしっかり、俺らに分かるように説明しろ!!」

 今の説明では承諾しかねる。



 クィーンとクリスが水面下で交渉するに至ったのは、やはりクリスがゲーム内で接触してきたからに他ならない。


 クィーンが現実世界で「こそこそ」とゲーム運営会社のことを調べているうちに、クリストファー=ジャッジという男に繋がった。

 クリストファーのことはある程度知ってる。だから運営会社を調べることにしたのだ。運営会社の上層部を調べれば、あっという間に馬鹿らしい事実に突き当たった。


 トールは運営会社の親族。そしてトールの欲求を満たすためだけに、分かりうる範囲で色々な攻略を前もって渡していたのだ。

 そして、トールのいるギルドを最大手にしていった。


 その恩恵を受けたのがシュウとレイである。


 以前「深窓の宴」のギルマスをしていた男は、謂れのない理由でアカウント停止に追い込まれている。レイがギルマスに就いたのは、トールを目立たせないためだったが、それでもあそこまで悪目立ちしてしまっている。

 馬鹿らしい。

 それがクィーンの感想だった。


 クィーン自身、これまで身内贔屓など一度でもいいからやったことはない。逆に身内に厳しいといわれるのが、クィーンである。

 弟の社長就任も、一度は妨害した経験を持つ女である。それを乗り越えたからこそ、黙って弟の経営を見ているのだ。


 身内を甘やかすところは、どこであれいつかは滅ぶ。それがクィーンが親から受け継いだ、否、禰宜田家の家訓である。


 滅ぶと分かっているところに、手助けをするつもりはない。


 だからこそ、クィーンはゲーム運営会社を冷ややかな目で見ていた。

 カナリアのリハビリのために、別のゲームを用意してやるか、そんなことすら考えていた。

 カナリアは優しすぎる。だからこそ己の後継者に据えるつもりはない。ジャッジは、あの壊れ具合で上に立たれたら、下の者が憐れすぎる。そういう意味で人の上に立つ者として理想だったのはディッチなのだが、本人にその気はない。


 そういう意味ではクリスとの接触は「好都合」だったのだ。


 そして、クリスからの提案は一つ。

「この運営会社を壊しませんか?」

 それだけだった。


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