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遠足のお弁当はおいしい

 そのあと、彼らは街道の休憩所にたどり着いた。

 魔灰溜まりがありましたけど粉砕しましたよ、とギルドサーバーの共通連絡板に報告鳩をぶっ飛ばして再び車上の人となって移動したファニーラたちは、こうして食事のために準備をととのえているところだ。

 とはいえ、こまごま動き回るのは主にファニーラ。いや、まるごとファニーラである。

 さっきの場所でがんばったふたりとも、やっぱりちょっと無理をしていたらしい。再びトライクに揺られるうちにしんどそうにしていたので、ごはん食べられるくらい回復するまではじっとしておくように指示したところ、しばらく椅子に身を投げ出してぐったりしていた。

 申し訳ないと恐縮されたがゴリ押しした甲斐もあって、回復専念の効果はきちんと出たようだ。ファニーラが食事の準備をととのえるころには、いそいそと彼女の傍へやってくる。

 ちなみに、お弁当はファニーラが用意したものになる。レイルバートにはお付きの人ともども手ぶらで来てどうぞと連絡していたので。あ、最低限の旅支度は別の話。


「手伝いもできなくてすみません」

「いえいえ。初心者さんには優しくしますよ。最初だけは」

「あはは、ありがとうございます。ご指導よろしくお願いします」

「お茶注ぎます。どうぞ」

「お、気が利きますねウェズさん、ありがとうございまーす」

「……ウェズ……、いや、ありがとう」

「おかわりはお願いします、主殿」

「じゃあルーさんは、手が普通に動くなら、これ切り分けてください」


 お手伝いしたかったらしいレイルバートへ、あたたかいキッシュとナイフを押しやるファニーラ。宿の厨房に予約して作ってもらった一品である。マジックボックスには食材保存用のスペースがあって、保温常温低温氷温と使い分けできるように区分け済みだ。

 携帯版冷蔵庫ともいえるこれは、前世持ちファニーラだからこそ付加できた機能である。機能自体は、お披露目してすぐ四方八方へ広がっていった。まだ第一次成長期が終わったばかりのころだったっけ。なつかしみ。

 当時に使われていた冷蔵庫といえば、倉庫レベルのでっかいのか、小さい保冷バッグみたいなものかという魔術具ばかり。これらの容量は、もちろん見た目通りだ。

 温度調節機能をマジックボックスに付加する、という発想は意外と、長い間出てきていなかったらしい。まあ、付加に要する手順がけっこうめんどうくさいし、機能利用中には使用者の魔力もわりと食うし……で、ファニーラのようにがんがん突っ込んでがんがん冷やして、なんて出来る者はそうそういない。それを考えると、ハーフだからこその天井知らず魔力貯蔵量バンザイ、である。ひいては挑戦心に導かれた両親アリガトウ、だ。

 とはいえぶっちゃけ、ファニーラも調節不要の常温帯以外で保存するのは、こうした当日や直近数日のお弁当とか食材くらいである。前世の宅配便倉庫みたいな規模の使い方したら、自分の魔力だけだとたぶん数日で干からびる。数日は持つ。維持に全振りするので、同行者におんぶしてもらわないと生活も移動できないレベル。それだけの見返りがあればやるけど。やったことあるけど。


 さて、キッシュを受け取ったレイルバートがさくさくときれいに等分していく間、ファニーラは取り分け用の皿を彼の傍へ寄せた。三分割でも文句なくいただくつもりでいたが、食べやすさを考えてくれたのか、六分割になったキッシュがきれいな形で載せられていく。ベースの生地から溢れそうな勢いでこんもり盛られた具は、色鮮やかに食欲をそそる。

 あとは小分けしていたおかずを取り出して、一緒に各人の前に並べれば、昼食会場のできあがりだ。

 レイルバートとウェズはそれぞれの魔術で、ファニーラは魔術具で。軽く手をぬぐって、食前の祈りをひとつ。


「いただきまー……」

「創世のときより絶えぬ恵みに感謝を」

「そうでしたそうでした。感謝をー」


 うっかり気を抜いて前世いただきますをやりかけたファニーラが慌ててテイクツーするシーンもあったが、昔訪れた辺境で出逢った外の者の風習にしてごまかした。めずらしいからよく覚えていて、たまにやっちゃうんですよ。そう言ったら、ふたりとも素直にうなずいてくれたのでヨシとする。

 恵みへの祈りは祈りとして、実際干魃とか飢饉とかそれなりに恵みピンチな時代もあったりしたが、今は平和なのでそれでまたヨシ、だ。



 朝の食事はレイルバートとウェズの諍いもあったせいでちょっと微妙な雰囲気だったが、昼食はなごやかに堪能できた。

 ファニーラにとっては慣れ親しんだお弁当もレイルバートにとっては初めてで、ウェズにとってはめったに食べないあたたかな携行食だという。前言撤回。少し涙が出たファニーラである。

 学園の食事はなんだかんだと育ちのいいご家庭を対象にした貴族向けだったので、豪華盛り合わせランチテイクアウトみたいなお品だった。だから、レイルバートが味わう正真正銘の庶民弁当は、これが初めてになるとのことだ。三切れぱくりと胃におさめた彼は、量が多かったなあと余らせたファニーラの分を、必要以上に照れつつ受け取って満足げ。お口に合ったのなら何よりである。


「育ち盛りなんですから、いっぱい食べても恥ずかしくないんですよ」

「主殿のは、そういう恥ずかしさではないと思います」


 もっと堂々と食べまくれ、おかわりもあるよと差し出すファニーラに、ウェズが淡々とツッコミを入れた。

 どういう恥ずかしさだろうと尋ねようとしたファニーラだったが、なんだかレイルバートがじっとりとウェズを見ていたのでやめた。つっつかれたくないことなんだろうと思う。


「そういうウェズさんは、おかわりは?」

「自分は、もう充分です」

「育ち盛りころのお体に見えますけど、足ります? やっぱり見た目とは違うんですかね」

「……」


 ふい、とフードごと顔をそっぽ向けるウェズ。強い拒絶は見られないけれど、訊いてくれるなと彼(たぶん)の雰囲気が言っている。視線を流してレイルバートと目を合わせれば、彼は困ったように笑ってうなずいていた。


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