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ドラゴンさんのお肉をたべたい  作者: 寛喜堂秀介


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その33 お風呂に入ろう



 問題。

 武人の栄誉を重んじるっぽい妙齢の女性がいます。

 彼女に、他国の王子様の前でおもらしさせちゃうという、とんでもない恥辱を与えてしまい、なおかつ彼女を死なせたくない場合、どうすればいいんでしょうか?


 誰か答えて欲しい……



「ひとまず、手を使えぬよう、後ろ手に縛りましょう。タツキ殿、ファビア殿が暴れぬよう、そのまま、そのまま……」



 王子様が、無駄に手なれた感じでファビアさんを縛る。



「とりあえず、わたくしオールオール様を呼んでまいりますわ! 記憶を削除するか自殺を封じないと本気でマズイですわ!」



 アルミラが脱兎の勢いで外にかけ出していく。猫だけど。


 ファビアさんは、なんというか、もう涙も枯れつくした、みたいな表情になってる。

 隙あらば私の指をかじかじしてくるので、自殺はあきらめてないっぽいけど。



「王子様、どうしよう……?」


「ひとまず、姉貴の帰りを待ちましょう。とりあえず、人払いはしておきますので、この部屋での出来事が、外に漏れることはありません」


「漏れてるの、拭いてあげたり出来ないの?」



 漏れ、という言葉で、私の指を噛む力が強くなった。



「男のボクが拭くのは、火に油を注ぐようなものです。侍女を呼ぶのも彼女にとっては恥の上塗りでしょうし、かといってタツキ殿にお願いするわけにもいきませんし」


「いや、正直責任感じてるから、おしっこ拭くくらいならやるよ?」



 おしっこ、で、また私の指を噛む力が強くなる。

 痛くはないけど、ちょっとむずかゆい。



「文字通り手が離せないみたいですし、まあ、やめておきましょう。それが彼女にとっても望む所でしょうし」



 エレインくんの言葉に、ファビアさんはこくこくと何度もうなずいた。







 アルミラが、陋巷の魔女オールオールといっしょに帰ってきたのは、それから一時間くらい経ってからだった。



「風に乗って大急ぎで来ていただきましたわ!」


「あんまり便利に使われても困るんだけどねえ……まあ、王室がらみじゃ取っぱぐれもないだろうし、いいがね」



 なんというか、「つまらないことで呼びだすな」って顔に書いてある気がする。



「魔女様、お手柔らかに」


「王室連中は嫌いだけど、アルミラの弟分のあんただ。特別に吹っかけるのはやめといてあげるよ」


「感謝いたします」



 なんというか、銀髪幼女の前だと、エレインくんがしおらしい。



「……アルミラ、エレインくんってオールオールちゃん苦手なの?」


「昔、オールオール様にいたずらしようとして、ネズミに変えられたことがありますわ」



 アルミラと、こそこそ会話してると、銀髪幼女がこちらを見て天使の様な笑みを浮かべた。



「アルミラ、人ごとみたいに言うねえ。いっしょにネズミになったのは、どこのどいつだったかねえ?」


「オールオール様! それはないしょ! ないしょですわ!」



 なにやってんのアルミラ。

 というか、いい加減甘噛みが気持ちよくなってきたんだけど。早くなんとかしてほしいんだけど。



「ま、さきにこっちかねえ。自殺しないようにすればいいんだね?」



 さっすが幼女様!

 私の心が通じたのか、銀髪幼女はファビアさんに近づいて、逃れようともがく彼女の頭を、つん、つん、とつっついた。



「はいよ。自殺に関して考えることを封じた。これでこの娘は、どんな状況に陥ろうと、自殺しようって結論に至れないよ。ついでに逃げるのも封じておこうかね」


「……またえげつない封じ方を」



 王子様が眉をひそめたけど、幼女は「はん」と鼻を鳴らして笑う。



「このアトランティエを攻めようとしたんだ。それくらいの罰は当り前さね」



 前から思ってたけど、オールオールちゃん、水の都の事大好きだよね。


 とりあえず、自殺は出来なくなったみたいなので、指を離す。



「殺して……お願いだから殺して……」



 心理状況はむしろ悪化してる気がするけど、ひとまず自殺は止めたみたいなのでよし。


 立ち上がると、足元がべたべたする。

 まああれだけ密着してたら、おしっこで濡れるのも仕方ない。



「アルミラ、ごめん。借りてた服、濡らしちゃった」


「それはよろしいのですけれど……タツキさん、お風呂にお入りになってくださいまし」


「その方がよさそうだね……ファビアさんも、先に入る?」


「さすがに捕虜を一人にして、というのは……お風呂は広いですし、いっそ一緒に入りましょうか? よければオールオール様も」



 おやおや、アルミラさんから大胆な提案が。







 世界屈指の物流インフラが整った都市、アトランティエ。

 ここはその貴族の屋敷である。当たり前のように、銭湯みたいに広いお風呂がある。


 さすがにコストと人手がかかりすぎるので、非常時な現在は使われていない。私が毎日入ってるのは、タライサイズの小さなお風呂だ。


 なので、アルミラさんと一緒におふろ、というのは、実は初めてだったりする。



「さすがに広いですわ」



 たゆん、と、揺れる。

 うむ……うむ……



「野良神様よ……」



 ごめんなさい。

 銀髪全裸な幼女にジト目で見られたので、心の中で謝る。

 というか、なんの意外性もなくぺたんこですかそうですか。



「よし、じゃあ入ろうか」



 と、ファビアさんを促す。

 私とファビアさんは体が汚れてるので、さきに体を洗わなきゃいけない。



「……」



 ファビアさんは死んだ魚のような目で、促されるままに歩いてく。

 その体は平坦だった。私と幼女を合わせて、フラット3&1たゆんだ。



「彼女とタツキさんのお体は、わたくしがお流しいたしますわ」



 と、たゆんさんが湯を汲んで来て、笑顔。

 私は神に感謝しながら、アルミラに体を預ける。


 まずは私、続いてファビアさんの体を、アルミラは洗っていく。

 船の長旅だったんだろう。ファビアさんの体はけっこう汚れてたけど、丁寧に洗うと、健康的に日焼けした肌も淡い金髪も奇麗で、よいものだと思います。



「……アルミラよ、あたしの体も、流しちゃくれないかね?」



 様子を見ていたオールオールちゃんが、拗ねたように言いだしたので、アルミラさんは大忙しになった。たゆん。







「……ふう」



 湯船に浸かり、息をつく。

 気持ちいい。やっぱり肩まで浸かれるお風呂は最強だ。


 軽く伸びをする。

 隣にはアルミラさん。

 その向こうには銀髪幼女。

 そしてファビアさんが並んでる。

 一人だけ突出してるのは、たいへんけしからんと思います。



「それにしても、タツキさんのお体、美しいですわ。うらやましい」



 アルミラさんが、私の体を見て、うらやましそうに言った。


 たしかに、私の体が美しいことには異論ない。

 顔なんかもドストライクで、正直結婚したい。

 でも、私は私なので、私とは結婚できないのだ。かなしい。



「でも、アルミラさんのおっぱいもすてきだと思います」



 と、私はアルミラに返す。



「……」



 ファビアさんが死んだ目のまま、自分の胸を押さえた。

 オールオールちゃんに将来性があるのかないのかわからないけど、とりあえず私は二番です。





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