第267話〜押し殺す感情〜
それではどうぞ
「〜あら、来たかな?かりんちゃん」
少しみんなと話していたらインターホンが鳴った。
かりんさんが到着したかな?
「空いてるよーっ入っていいよー」
「伝わんのかそれで……」
俺が出てくるよ。そもそも鍵ちゃんと閉めたし……
「ん、お願い。…お茶の準備しなきゃ」
「はいはいはい、今開けますよ〜」
玄関まで移動して待ってるであろう人に声をかける。
待たせてしまったしな。この頃寒いし……
「はいはい、すみませんお待たせしまし……」
「あ、ありがとうございま…」
お互いに。挨拶の途中で黙ってしまう。…それは何故かって?
そりゃあ………知ってる人だからだよ。
……………え、嘘だろ?そんなこと有り得るのか?
しかもこの人は…こいつは、生徒……
(「あなたは何をしようと企んでたのですか?」)
(「毎日毎日来てはいじめてると…」)
何を話しても、何を言っても、誰も何も信じてくれなかった。
少し確認すれば分かるようなことも、何も確認しないで。本来ならば公平なはずの人達はみな敵に回る。
脳裏に過ぎる、あの厳しい目線。まるで犯罪者を相手にしているかのような空気。
自分が絶対正しいのだと言わんばかりの口調。それに賛同するかのように厳しくなる周りの人達。
そうだ、大人ですら誰1人味方してくれなかったんだ。
あの時だって……
(…っ、堪えろ。感情を押し殺せ…)
「上がってください。寒かったでしょう?こんな所で話すのも良くないですから」
努めて明るく話しかける。
脳裏にフラッシュバックしかけている光景を無理矢理止め、出ようとしてくる感情を押し殺す。
感情を押し殺すなんて久しくやってないけど…昔からずっとやってたからかすぐに出来る。
「…お邪魔、します。」
この様子だと相手も気付いてるよな?相手は気付いてないととても助かるんだが……望み薄か。
参ったな…今日だけは何がなんでも問題を起こす訳には行かない。
せっかくみんなで集まってるんだし、何より俺個人の問題だ。
正直、思うことが無いわけじゃない。ようやく生きる楽しさを感じつつあった時に遭遇した出来事なだけに尚更な。ただ…
みんなには楽しく帰ってもらわないと行けないんだ。もちろん海莉にも、来てくれたかりんさんにも。だから……今は自分が耐えるしかない。
気にしてませんよって感じにしてれば話し出して来ないだろうし、もし来たとしても笑って許せばいいだけだ。それぐらいは俺なら出来る…はずだ。いや、やる。
そう決意して、顔を引き締める。意を決してリビングに戻ると…
「あ、おかえり〜。その子がかりんさん?」
「ああ、かりんさん。…その辺の席に座って」
大也くんにそう返して、席に座って貰うことにする。
そうすると海莉がかりんさん用のお茶を持ってこっちにやってきた。
「…っ。……はい、どうぞ」
「あ、ありがとうございます。」
海莉がかりんさんを見て驚いている。…あれ、海莉って彼女のこと知ってたっけ…?そうなるとそこそこまずいな。
チラッとこちらを見るので、海莉に目でなんともないと訴える。
…きっと海莉なら意図を汲んでくれるはず。そう信じていると少し心配そうな目を向けはしたものの何も言うことなく戻って行った。
ごめん海莉、後でお説教は受けるから。
でもとりあえずこれで危機は去ったな。後は無事に時間が過ぎるのを待つだけだけど…
あまり会話に参加しないのも違和感があるかなと思い、俺も席に戻る。
「……で、何かあったの?」
一通りそちらの会話が落ち着いたのか、俺が合流した途端にそう聞く大也くん。
大也くん……出来れば聞かないで欲しかった。いや、聴きたくなる気持ちはわからなくもないが…
「いや、別に?」
「でも……」
「ちょっと大也、察しなさい。」
「良いのです六花。……私から、お話しても?」
俺がなんともないよ?と言ってみるが、大也くんには通じず。六花さんが止めようとしてくれたが…
「ね、優成くん。」
「……好きにしろ」
海莉にまでそんな顔されたら嫌とは言えない。俺が頷いたのを確認して、かりんさんが話し始めた。
それではまた次のお話で会いましょう〜




