19、ヒャリエー・ソーディ-3
部屋に案内する前、わたしはわざと怖がっているチェルカを死体と人殺しをくぐり抜けてこさせた。
何故こんなことをやらせたというと、確かめたいからだ。
チェルカはわたしのためなら、恐怖を乗り越えられるかどうかを。
言ってしまえば、わたしはただ安心したかった。もしチェルカがその時諦めでもしたら、わたしはきっともう誰も愛せなくなるだろう。
でも、よかった。壁を伝って来たけどちゃんとお願いを叶えてくれた。やっぱりチェルカだけがわたしの家族だ。
「お嬢様! 大丈夫ですか。お怪我はございませんか」
「ヒャリエー」
「はい?」
「以前のようにヒャリエーって呼んで」
やはり家族ならお嬢様なんて堅苦しい呼び方じゃなくて、親しみを感じられるように名前で呼び合うべきね。
「ん? これは?」
部屋に入ろうとしたところにどこかで見た覚えのある謎の袋を発見した。
「どうしてこんなものがわたしの部屋の前にあるんでしょう? まさかさっきの人たちの仕業なのでしょうか」
「ひっ」
わたしが袋を手にとって疑問を口にしたら、チェルカの独特な悲鳴が聞こえた。
「チェルカ、どうしたの? また驚かされたの」
「だ、大丈夫ですよ。 おじょ……ヒャリエー、ちょっとおしゃっくりしただけです。その袋は私が片付けますのでこちらにお渡しください」
チェルカは話したくないらしく、はぐらかした。
その上にわたしが中身を見る前に回収しようとした。この袋にわたしに見られてまずいものでも入っているのか? チェルカがわたしに隠し事……まさかわたしを裏切る気なの?
さっきのは恐怖を乗り越えたのじゃなくてただ誰かに守ってほしいだけ。実はわたしのことなんてどうでもいいと思っている。もしあの時わたしじゃない誰かが同じようにくぐり抜けてこさせてもきっと同じ結果になってた。
やだやだやだやだーーそんなのやだ! いや、家族だからもう憶測やめよう。
チェルカ、わたしに隠し事しないで、わたしに安心させて……
だから、確かめさせて。
「チェルカ!うしろに侵入者が!」
ちょっと中身を確認するつもりでチェルカの注意をそらしたが、同類がそのままチェルカの注意を引きつけ、時間稼ぎしてくれた。
何故? まぁ、今はそんな事より確認のほうが大事だ。
袋の中身を撒き散らすように出して見ると、中に入っているのは少ししかないお金の入った財布、サンドイッチの入ったバスケット、そしてわたし宛ての手紙。
これらを見た瞬間、チェルカが何故夜遅く車舎に来たのか理由がわかった。
きっとこれをわたしに渡そうとしたんだ。
しかし、どうしてわたしがその時に車舎に居るとわかったんだろう。逃走の計画は誰にも言わなかった……いや、誰にも言えなかったのに。
そして、これだけでもうかなり混乱しているわたしにさらなる疑問をもたらしたのは手紙の内容だった。
約束を覚えてくれているのも、妹と思ってくれているのも本当に嬉しかったけど……
わたしがもう1人の妹? チェルカに妹が居るの?
パパを裏切れないのはなぜ?
すぐにチェルカに聞きたいが、わたしはチェルカがはぐらかさないように、「手紙を読んだよ」のアピールとしてわざと朗読するように手紙を読み上げた。
「パパを裏切れないのはどういうこと?」
ショックだった。妹ために人身売買同然な契約を交わすなんて、そしてそんなに妹を大切に思っているチェルカが手紙にわたしのことをもう1人の妹と書いてくれた。それは嬉しいが、ちょっとその妹に嫉妬した。
でもその妹に感謝すべきね。居なくなってくれたお陰でわたしがチェルカと出会えたから。
「おい!どうなってやがってる! なんで他のやつが死んでる」
わたしがまだ気持ちの整理をしてる時、誰かが下品に声をかけてきた。声のした方を見るとまた1人覆面した男がそこに居た。
またわたしを殺しに来たの? このままじゃまたチェルカが危ない目に逢ってしまう。早く逃げなぎゃ。
そう思うより先に身体はもう動いた。気づいたら、またさっきのようにチェルカの手を引いて走り出した。
「あのう……ヒャリエー」
走り出した間もない、チェルカは居心地が悪そうに呼びかけてきた。
「どうしたの? 手を痛くしちゃった?」
「ううん、違います。私は大丈夫ですが……」
「が?」
「あの人は大丈夫でしょうか?」
あの人……?
あっ、そう言えば同類をそのまま置き去りにしちゃった。
でも……
「やはりチェルカはやさしいね、人殺しにもこんなに心配をするなんて」
「信用したわけではありませんが、一応あの人はヒャリエーを助けてくださいましたから、心配はします」
やはりチェルカはやさしい、わたしはそのやさしさにどれほど救われたかはきっと知らないだろう。でも大丈夫、わたしは知ってほしいなんて思わない。何故ならそんな余裕があるなら、あなたの幸せを祈るだろう。
だから、あなたに危害を加えようとしたやつは許さない。あなたのためならわたしはきっとなんでもできるだろう。今は余裕がないが、いつか必ずわたしの力で妹さんを探し出して2人で会いに行こう。
見返りなんて要らないが、強いて言うならずっとあなたの側に居たい。




