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13、友情の象徴

 ヒゲの悲鳴を尻目に私はお嬢さんとチェルカを探しに広間を出た。


 さて、まずはお嬢さんの部屋への道筋から探していこうか。

 

 しかし何故だろうか、この屋敷に来て一晩も経っていないのに今はもうはっきりと道がわかる。まるでこの屋敷をよく知っているようだ。これも身体がない影響か?


 そう思いながら進んでいったら、曲がり角の先から聞き覚えのある話し声が聞こえてきた。


 「本当?」


 「はぃうっ!」


 はぃうっ? 話している最中にしゃっくりでもしたのか?


 確認しようと角を曲がったら、目に飛び込んでくる光景は今夜一番大きく目を見開いたのであろうチェルカと目を閉じてその肩に両手を添えているお嬢さん。

 そして2人は今、唇と唇を合わせている。


 なるほど、本来は「はい」とかを言うつもりだったのだろう。しかし話している途中に口が塞がれたから「はぃうっ」になったか。


 ……………

 ……

 え?

 ええええええ!


 何がどうなっているのだ?

 こんな面白いことを見逃したなんて悔しいとしか言いようがない。


 ああ~~この悔しさで嫌なことを思い出してしまった。毎回映画の面白いシーンの時に限って誰かが私の前を通り過ぎてしまう。そのせいでどこが面白いのかわからないまま映画が終わったことも多々あった。


 そう言えば映画を見に行くのが嫌いになった原因の1つはこれだったな。

 だから見たいのがあるとしても円盤が発売されるのを待つようになった。

 テレビで見るのは臨場感が足りないのだけれど、やはり邪魔されるリスクが一番低い上、見逃しがあっても好きなだけ早戻しができるのがいいな。


 「やはり私にはもうチェルカしかいない」


 お嬢さんは涙がこぼれそうになりながら笑顔でそう言った。


 クソ! もう勝手に進むな!

 最初から見せろ!


 そう願った途端、お嬢さんが早口でなにか言ったあとまたチェルカにキスした。またかと思うより早くお嬢さんとチェルカが広間の方に早足で背進しはじめた。


 何だ? 今度は何?


 私の疑問に誰が答えるはずもなくお嬢さんたちが広間に入った。そうしたら、お嬢さんが普通に前進で出てきた。そして少し遅れてチェルカが小走りでお嬢さんを追って出てきた。


 「ヒャリエー」


 お嬢さんはチェルカが呼びかけても振り返ることなく角をまがった。チェルカはすぐに角をまがって歩いていくお嬢さんの手を掴んだ。


 「ね、チェルカ。もしパパの命令がなくなったら、以前のようにずっと私の側に居てくれる?」


 「え? はい、もしそうなったのでしたら……」


 追いつくや否や唐突にそう聞かれたチェルカは少し戸惑ったもののちゃんと返答した。

 そしたら、お嬢さんは不安げな面持ちで振り返りチェルカの肩に両手を添えた。


 「本当?」


 「はぃうっ」


 チェルカの返答がまだ半分しかしなかった時、お嬢さんは顔を綻ばせて唇でチェルカの口を塞いだ。


 なるほど、こういう脈絡だったのか。いや、脈絡知っても何故それだけでキスするのかはまったくわからないのだ。

 

 しかし時間を巻き戻すなんて、ますます私はどうなっているのかわからなくなったな。

 そういえば、感情のまま移動した時とこの大陸が見えて早く着きたい時にやたら時間の流れが早かったな。

 それも私の仕業だったのか?


 「やはり私にはもうチェルカしかいない」


 お嬢さんは唇を離して満足げにそう言った。しかし、お嬢さんの突然な行動でチェルカは未だフリーズ状態から戻ってこない。お嬢さんもそんなチェルカに特に何もしないでただ微笑みながらチェルカを見つめている


 …………

 ……

 「ひ、ひゃりえー! な、なななにするんです! いきなりき、きすするなんて」


 「えーー いいじゃない。同性とのキスは友情の象徴じゃない?」


 「そんなことはないんです! キスは好きな人だけとするものです! そんなこと誰から聞いたんですか?」


 顔が見る見るうちに赤くなっていくチェルカは慌てて理由を求めたが、お嬢さんは当たり前のことを言うように返事した。正直に言うとチェルカが指摘しないとそれが本当だと信じてしまう。

 なにせ異世界だからな。何事に違いの1つや2つがあっても不思議ではない。


 「エイロとルードがコソコソ2人っきりでそう言ってキスするのを偶然見たよ。それに、わたしはチェルカが好きだよ?」


 「えっ! それってあの2人はそんな関係だったんですか?! まったく気が付きませんでした」


 お嬢さんがキスする理由を言うとチェルカはまたしも目を大きく見開いて驚いた。それは無理もないか、理由を聞こうとしただけなのに同僚の秘密を探るような事になった。


 「そんな関係ってどんな関係?」


 「それは……と、とにかくキスは好きな人以外としちゃだめです!」


 お嬢さんにそう聞かれてチェルカは顔が赤くなりながら誤魔化した。


 「だ・か・ら、わたしはチェルカのことが好きってば!」


 「その好きは好きですが、あの好きじゃないんです」


 「もう! 何言ってるのかわからないよ!」


 しどろもどろに答えるチェルカにお嬢さんは眉をひそめて抗議した。


 「ぷっ」


 ぷっ?


 「ぷっはははははは!」

 「ふふっははははは!」

 

 突然お嬢さんが笑いだした。そしてチェルカもつられて笑いだした。


 なんだ? またどうなっている?




 「すーはー。まるで昔に戻ったみたい」


 しばらく笑いあった2人はやっと笑い止むと、お嬢さんが息を整えてそう言ったらチェルカは何も言わずにお嬢さんを抱きしめた。

 お嬢さんは一瞬驚いたが、すぐ優しく抱き返した。

 そして、涙の音を消すように朝日が優しく2人包み込むように差し込んできた。


 もう朝か。

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